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【コラム】小泉流最高師範が師弟安倍氏に教える国民利用術

安倍晋三首相には日本経済再生に向 けて少なからぬ障害があるが、小泉純一郎元首相がその障害の一つにな るとは思わなかった。

小泉氏はここ20年で最も人気の高い日本の政治家だろう。中曽根康 弘氏以降で小泉氏ほど内外に旋風を起こした日本の首相はいない。2人 とも改革に熱心なことは偶然ではない。そして、安倍氏も改革者を自認 している。

2006年に首相を退任した後、小泉氏(71)は表舞台から消えて満足 しているようだった-少なくとも先月までは。同氏は極めて公に原子力 発電への支持を撤回した。同氏は10月1日の講演で、原子力発電ほどコ ストの高いものはないとし、地震の多い土地に危険な原子炉を置かなく ても日本はやっていけると論じた。

以来、小泉氏は一連のテレビ出演で福島危機と放射性廃棄物のリス ク、日本が原子力発電所を海外で売り歩くことの是非、再生可能エネル ギーの緊急な必要性について語っている。これは安倍首相の経済再生プ ラン「アベノミクス」への強い逆風だ。アベノミクスの3本の矢は金融 緩和と財政出動、規制緩和だが、実は第4の矢がある。低価格のエネル ギーだ。この矢を放つために安倍首相が抑え込もうとしている脱原発運 動に、政界のロックスターが味方として付いてしまった。

なぜ小泉氏はまな弟子の心臓に矢を射るのか。復讐ではないかと疑 う向きもある。5年間をかけて1990年代の不良債権を処理し、郵政民営 化を実現、無駄な公共事業を廃し政府債務を減らした後、小泉氏は安倍 氏にデフレ脱却の青写真を託した。06-07年の第1次安倍政権時代に安 倍氏はそれを引き出しの奥にしまい込み、違う方向に進もうとして失 敗。日本の回復は止まった。

5つの教え

まさか復讐などということはないと私は思う。小泉氏は時代精神の 旗手だ。クリントン元米大統領もそうだが、小泉氏の才能は国民のムー ドをつかみ、大衆の怒りを味方に付けて変化を嫌う自由民主党を動かす ことにあった。小泉氏は原発に対する国民の極めて正当な怒りを察知 し、政府に行動を迫っている。

2回目の政権が1回目よりは良い終わり方をするために、安倍氏が 小泉氏から学ぶべき点が5つある。

1.約束を守れ。小泉氏は誰もが不可能に近いと思っていた郵政民営化 の公約を果たした。安倍氏は公約の中で容易な措置を選び、金融と財政 で日本を金浸しにした。しかし10カ月が過ぎた今、日本の競争力を高め ることには全く成功していない。安倍氏の政策はイノベーションを生ま ず、企業に人材採用と賃金引き上げを促すこともしていない。新しい年 が近づくにつれ、市場はどうなっているのかと疑問を持ち始めている。 安倍首相は日本再生計画を喧伝(けんでん)するばかりで、中身の肉付 けはしていない。

ライオンハート

2.国民こそは秘密兵器だ。グレーのたてがみのように見える白髪と歯 に衣を着せない物言いから、小泉氏には「ライオンハート」のニックネ ームが付いた。強く、先見の明のあるリーダーを何年もの間求めていた 国民の心を小泉氏はつかんだ。国民からの高い支持をてこに、自民党を 新しい方向へ動かすことができた。

安倍氏も同じ戦術で民意の力で党の反対を粉砕し、改革を断行すべ きなのだ。しかし安倍氏は自分がしゃべる方が好きで、聞こうとしない ようだ。安倍氏が国民を味方に付ける努力を惜しまず、有権者が地元選 挙区の議員らに変化を要求するように仕向ければ、アベノミクスは成功 する望みがある。首相は逆に、 安全保障に関わる国家機密を漏らした 公務員らに対する罰則を強化する特定秘密保護法案を提出。原発警備情 報も特定秘密の対象になり得るため、脱原発派の反発を招いている。

3.もっと大きなビジョンを持て。安倍氏は脱原発の果敢な計画を求め る小泉氏の訴えに耳を傾けるべきだ。日本の豊かな地熱資源を活用する グリーン革命は日本に雇用を創出し繁栄をもたらすばかりか、人類に貢 献するだろう。原子炉の再稼働や新たな原発をインドやトルコに売りつ けるよりも大きな利益を生む大事業を、国民はこぞって支持するだろ う。

靖国神社

4.隣人に配慮せよ。小泉氏の最大の汚点は靖国神社参拝によって中国 と韓国を怒らせたことだ。安倍氏は参拝するかどうかの姿勢を明らかに しないが、これは尖閣諸島と竹島をめぐり既に悪化している両国との関 係をさらに悪くする。いくら円を安くしても、中国と韓国が日本製品を ボイコットすれば輸出は増えない。

5.有終の美を飾れ。小泉氏は任期の最後の2年にアクセルを踏む力を 緩め、改革の勢いは衰えた。安倍氏はむしろ改革のギアを上げていかな ければならない。加速させレベルを引き上げ、成果を固めなければなら ない。そうしなければ60%の支持率は霧消し、それとともに日本株式会 社を変えるチャンスも消える。

師匠に裏切られた思いの安倍氏は、それが自分に役立つことに気付 かないかもしれない。小泉氏は自信の人気を脱原発運動に貸し与え、成 長につながる未来のエネルギーへの国民の期待を煽ることで安倍氏に反 対しているのではない。真の改革者として殿堂入りする機会を提供して いるのだ。(ウィリアム・ペセック)

(ペセック氏はブルームバーグ・ビューのコラムニストです。コラ ムの内容は同氏自身の見解です)

原題:Mentor Koizumi Shows Protege Abe How to Reboot: William Pesek(抜粋)

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