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【米経済】雇用統計の表層で踊る市場-深部で景気変調の兆し

米国労働省は金融市場省と改名した 方が良いかもしれない。同省は労働者を支援するため創設されたものだ が、同省が作成する雇用統計を見る限り雇用改善に資するというよりも 金融相場に大きな影響を与えることが重視されているようだ。同省は雇 用市場の改善というよりも、金融市場にとってより利便性の高い統計作 成に意を注いでいるように見える。

同省が8日に公表した10月の雇用者数は20万4000人の増加だった が、市場が予想していた12万人増を8万人以上も上回ったため、株式市 場は力強く上昇、米国債利回りは急伸した。

相場は秒単位で動くため、統計の内容を精査している余裕などマー ケットにはない。勢いヘッドラインと呼ばれる農業部門を除く雇用者数 に市場参加者の関心が集中する。こうした統計の表層に条件反射する市 場の動きはボラティリティー(相場の変動性)を確実に高めていく。

そして必然的に株式市場や債券市場のバブル的な上昇を助長する。 労働省は雇用統計の但し書きの中で、企業や政府機関の賃金台帳を基に 作成する事業所調査の統計誤差を上下両方向にそれぞれ9万人と説明し ている。つまり10月の20万4000人増は上方には29万4000人増、下方に は11万4000人増まで誤差を想定しているのである。

しかもこの10月の20万4000人増というのはある種のイリュージョン (幻想)とも言える。実は原数と呼ばれる季節調整前の数値は94万人も 増えているのである。9月は59万8000人増(季節調整後は16万3000人 増)、8月は42万5000人増(同23万8000人増)、そして7月は119 万2000人も減少していた。この大幅減少も季節調整が加わると8万9000 人増となった。

細目に注意を

このように季節性の高い米国の雇用統計を瞬時に判断できるように と、労働省は季節調整を加えているわけである。しかし、雇用形態は時 と共に変化していく。労働省といえども、こうした変化に追い付いてい くなど至難の業だ。

このようにして生じる歪みを見極めるためには、一般に見落とされ ている項目にも目を凝らすことである。10月統計で上振れした小売業の なかでも、景気に敏感に反応する衣料・アクセサリー部門は7月をピー クにその後3カ月連続マイナスを記録している。同項目は過去2回の景 気拡大局面では2001年2月、2007年11月といずれも景気の山の1カ月前 にピークアウトしていた。

約580万人の雇用者を抱える卸売業も景気動向を見極める上で役立 つ。同業界の雇用は10月に5400人減少とマイナスに転じている。小売り の衣料・アクセサリー項目と同様、前回の景気拡大局面では07年11月と 景気の山の1カ月前にピークアウトしていた。前々回の景気拡大局面で は2000年3月と景気の山に1年先行してピークをつけている。

労働総投入量指数に変化の予兆

こうした景気に敏感に反応する項目に符節を合わせるように、市場 関係者があまり関心を示さない隠れた主要項目にも景気分水嶺の予兆が 現れた。民間の生産部門雇用者(管理職を除く)が働いた時間を総合し て指数化された労働総投入量指数(2002年=100)は10月に106.2と、前 月の106.3から低下したのである。

今回の景気拡大局面ではこれまでのところ、9月がピークになって いる。その前のピークは07年12月と景気の山と一致。前々回の景気拡大 局面では2000年9月に記録した103.9がピークとなり、その6カ月後に 景気後退入りしている。

このように米国経済をけん引してきた製造業や鉱業、そして建設な ど生産部門の労働総投入量指数は、景気に敏感な雇用者数の細目と一致 する動きを示しており、無視できない。一方、非農業部門の雇用者数の 月ごとの増減だけを見ていたのでは、景気の転換点を見極めることはで きない。

ヘッドラインと呼ばれる非農業部門の雇用者数の月間増減に関心を 集中させて売り買いを決断するのは、ギャンブルで振られたサイコロの 目に反応して一喜一憂するのと似ている。

(米国ウオッチの内容は記者個人の見解です)

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