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現代中国アートが異空間を演出-シドニーの富豪ギャラリー

シドニーにあるホワイト・ラビッ ト・ギャラリーは昼時、多くの来場者で混雑する。ジュディス・ニール ソン氏は人混みをかき分け、床一面に建築物のがれきが積まれたように しか見えない場所で立ち止まった。「目を凝らして見てください」とジ ュディス氏が注意を促す。

土とコンクリート、木材の小山がまるで呼吸しているかのようにゆ っくりと盛り上がり、また低くなる。中国上海生まれの現代美術作家、 徐震氏が2009年に制作したこの作品「平静」には、中東の民衆が爆弾の 破片や固定観念の下に埋まっているとのメッセージが込められていると いう。ブルームバーグ・マーケッツ誌12月号が報じている。

ジュディス氏は「平静」を「本当に優れた作品だ」と絶賛する。ギ ャラリーを訪れた人は他にも彼女が収集した作品を無料で見ることがで きる。いずれも2000年より後の作品だ。「信じられないほど素晴らしい 作品があるのに他の人にそれを鑑賞させないなんて、私には理解できな い。鑑賞した人から感想や感謝の気持ちをもらうことで報われるのに」 と話す。

ジュディス氏の夫で富豪のカー・ニールソン氏は、シドニーに本拠 を置くプラチナ・アセット・マネジメントの共同創業者。カー氏は07 年、ホワイト・ラビット・ギャラリーと同ギャラリーによる作品収集の ために3000万米ドル(約29億6000万円)規模の財団を創設した。ギャラ リーが収蔵する中国現代アートの作品は700点を突破し、世界有数の規 模となっている。

現代中国映す作品群

ニールソン夫妻は世界中が欲する作品を競って手に入れようとする 富豪収集家にありがちな道をたどってはいない。ヘッジファンド運営会 社SACキャピタル・アドバイザーズの創業者スティーブン・コーエン 氏は昨年、1億5500万米ドルを投じてピカソの「夢」を購入。同氏はゴ ッホやマネ、ウォーホルなどの作品も所有している。化粧品業界の大 物、エスティローダー創業者の息子であるレナード・ローダー氏は今 年、キュビズムのコレクション78点、約10億米ドル相当をニューヨーク のメトロポリタン美術館に寄贈すると表明。美術界のパトロンとしての 名声を一層高めた。

かつてロールスロイスの修理倉庫だったホワイト・ラビット・ギャ ラリーで、ニールソン夫妻は新たに勃興してきた中国人アーティストら を紹介しようとしている。中国が世界2位の経済大国となるにつれて生 じた消費主義のまん延や公害、検閲、社会的な絆の断絶-。こうした問 題をテーマに取り上げるアーティストだ。

北京生まれの写真家、池磊氏(32)は麻薬の吸引や殴り合い、セッ クスなど、若者の享楽的な姿を収めた作品をシリーズで発表している。 チベット出身で現在は英国で暮らすゴンカル・ギャッツォ氏は「マイ・ アイデンティティー」で、中国の兵士や仏教僧などに扮(ふん)した自 身のポートレートを撮った。

ある出会い

カー氏(63)は「ジュディスは20世紀から21世紀への変わり目以降 の中国の状況を浮き彫りにするような作品を収集している。時代のヒー ローでなく、まだ世に出ていないアーティストを発掘しようとしてい る」と説明した。

ジュディス氏(67)が中国のアートに引き込まれたのは、1999年に シドニーのギャラリーを訪れて北京出身の王智遠氏の彫刻作品に出会っ てからだ。王氏は金属を曲げ、動物と人間の形を組み合わせた像を創作 した。

ジンバブエ生まれで、南アフリカ共和国で繊維とグラフィックデザ インの学位を取得したジュディス氏は、当時まだシドニー大学の美術学 生だった王氏を雇い、中国現代アートの世界を学んだ。王氏(54)は89 年の天安門事件後に本格的に発展したその世界をジュディス氏に伝え た。

興味深い収集品

99年に初めて中国を訪れたジュディス氏はこれまでに25回余り訪中 し、約300人の芸術家の作品を購入した。中国の人権状況を批判 し、2011年に81日間収監された艾未未氏の作品もコレクションの一部 だ。

中国陝西省の省都、西安にある現代美術館OCATのディレクタ ー、カレン・スミス氏は「ニールソン氏の収集品は中国現代アートの最 も興味深いコレクションの一つだ」と評価している。

ジュディス氏と南ア出身のカー氏は、アパルトヘイト(人種隔離) 政策に伴う人種対立が深刻化していた同国を1983年に離れ、シドニーに 移住した。ヨハネスブルクで株式ブローカーをしていたカー氏は、シド ニーでバンカーズ・トラストのアナリスト、その後ポートフォリオマネ ジャーの職を得て東南アジアと中南米の株式を担当した。

ソロス資金を運用

資産家で投資家のジョージ・ソロス氏は93年、ニールソン氏が運用 する世界株式ファンドに4000万米ドルを預けた。ニールソン氏によれ ば、中南米株式の大幅な値上がりのおかげでソロス氏の投じた資金はそ の後1年以内に3倍になった。

ニールソン氏はバンカーズ・トラストを退社し、94年にプラチナ・ アセットを共同で設立。2007年までに資産96億豪ドル(約9000億円)を 集め、豪州で新規株式公開を果たした。同社の現在の運用資産は190億 米ドル余り。ブルームバーグ・ビリオネア指数によると、ニールソン氏 はプラチナ・アセット株式の約56%を保有しており、同氏の純資産は20 億米ドルを超える。

09年にオープンしたホワイト・ラビット・ギャラリーの今年1-6 月期の来場者数は3万5000人と、前年同期を30%余り上回った。今年は マルチメディアアーティストの金鋒氏(51)による「中国近代化の歴 史」を企画・展示した。中国経済の大変動に伴う残酷な歴史を表現した ものだという。作品は床に敷かれた大理石のブロック上に横たわる毛沢 東像と、その像から切り出された約1000個の小ブロックから成る。金氏 はそのブロックに、迫害された宗教団体「法輪功」の創設者ら著名な中 国人の顔を彫り入れた。

「今後30年で私たちのコレクションは極めて重要なものとなる。作 品がこの時代を伝えているからだ」。ジュディス氏はそう語った。

原題:Billionaire’s Gallery Serves as Haven for Dissident Chinese Art(抜粋)

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