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村木厚子氏:お茶くみから始まり官僚トップへ、拘置所では150冊読破

厚生労働省の村木厚子事務次官 (57)は35年ほど前に幹部候補生として旧労働省に入省した際、1つの 仕事を与えられた。20人から30人の同僚に毎朝お茶を用意することだ。

村木氏が配属されることが決まった職場では大激論の末、他の女性 職員と同様に村木氏にもお茶くみをさせることを決定。官僚としての本 来の事務に加え、お茶くみや若手の仕事である部屋の掃除もこなす毎日 が始まった。村木氏は当時の上司に「本来やる仕事について私を甘やか さないでください」と要望。その結果、「彼は私に一人前の仕事をする ようにトレーニングをちゃんとしてくれた」と若き日々を振り返る。

いまや中央省庁で史上2人目の女性事務次官に登りつめた村木氏。 自らも2女の母として仕事と子育てを両立させながら働く女性をめぐる 問題に取り組んできたが、後に無罪となった事件で約5カ月間も拘束さ れる苦難の日々も乗り越えてきた。

安倍晋三首相は社会のあらゆる分野で2020年までに指導的地位に女 性が占める割合を30%以上とする目標を掲げている。3万人の職員を抱 え、少子化対策から年金、医療など多くの政策課題を抱える厚生労働省 の事務方トップとなった村木氏はそのシンボル的存在だ。

ゴールドマン・サックス証券のチーフストラテジスト、キャシー・ 松井氏は女性就業率が男性並みに上がれば、約800万人の働き手を生み 出し、国内総生産を14%押し上げる可能性があるという「Womenomics (ウーマノミクス=女性経済)」を提唱している。

焦眉の課題

安倍首相は9月の国連総会での演説で、松井氏の考え方に言及し、 「女性にとって働きやすい環境をこしらえ、女性の労働機会、活動の場 を充実させることは、今や日本にとって、選択の対象となりません。ま さしく、焦眉の課題です」と訴えた。

村木氏が09年に後に無罪となった事件で逮捕された際に厚生労働相 だった舛添要一前参院議員は電話インタビューで、村木氏を高く評価し ているものの、安倍政権による今回の人事については、「冤罪(えんざ い)事件があり、彼女は非常に有名になったので、彼女を政治的に利用 しているように見える」と指摘する。

9月のインタビューで「偉くなりたいとは思っていなかったが、ず っと仕事をしたいと思っていた」と語った村木氏。地元の高知大学で学 生生活を送った1970年代は男女雇用機会均等法(86年施行)もなく、 「民間企業が女性をあまりとりたがらなかった」時代。「差別をされな い、結婚したり子供が生まれてもやめさせられない職場」という判断か ら、公務員の道を志すようになったという。

旧労働省に入省したのは78年。村木氏によると、中央省庁がその年 キャリア組として採用した約800人のうち女性はわずか22人。それでも 旧労働省は毎年1人は女性キャリアを採用しており、後に政界に転身し た森山真弓元官房長官、民間人閣僚となった赤松良子元文部相らが活躍 していた。

レッテル貼り

村木氏はこれまで特に印象深い仕事として女性や障害者の雇用問題 に取り組んだ日々を挙げる。女性も障害者も「こういう仕事は向いてい ない」などとレッテル貼りをされ、可能性の芽をつまれてきた存在。 「いろんなことができないと決めつけられている人たちの中にある可能 性を探して、それが発揮できる環境を作る」仕事に取り組んできたと自 負する。

知的障害者の職業訓練などを行っている社会福祉法人南高愛隣会 (コロニー雲仙、本部・長崎県雲仙市)の田島良昭理事長は課長に就任 した後に会った村木氏の印象について「非常に驚いたのは一生懸命に何 かを勉強しようと感じですね。ふつう課長になられたら、もうみんな分 かっているよという感じの方が多いですね。村木さんは一所懸命に質問 された」と振り返る。

「とにかくいっぱい質問された。若い部下とワーワー言いながら、 すごく見ていて楽しそう」だったという。

子育て

村木氏も多くのキャリアウーマンと同様、仕事と子育ての板挟みと なり、壁にぶつかった。30歳代の半ば頃だ。「若い部下が男性の部下が みんな夜遅くまで働いている中でどうしても早く帰らなければいけない 日がある。早くといっても夜の10時ぐらいとか、それでも早くというそ ういう状況だったので。すごく悩んだ時もあった」と振り返る。

それを乗り越えたのは「職場は私の代わりはいるけど、お母さんは 1人。ダメだったら辞めよう」と開き直ることができてからという。

母としてもキャリア官僚としても着実に生きてきた村木氏に思わぬ 試練が訪れる。09年に文書偽造事件で逮捕・起訴されたのだ。当時は厚 生労働省の雇用均等・児童家庭局長。著書「あきらめない」(11年、日 経BP社)で、村木氏は逮捕される際、検事に見つからないよう携帯電 話から夫に「たいほ」の3文字をメールで送信し、2人の娘のことを託 した。

裁判で弁護人となった弘中惇一郎弁護士は村木氏が拘束された際、 村木氏の夫、太郎氏に「奥さんがいらっしゃらなくていろいろと家事し なくてはいけなくなって大変でしょ」と声をかけたところ、太郎氏はそ の点は大丈夫、昔から全部、自分がやっていましたから、と応じたとい う。

150冊

約5カ月間に及んだ拘置所生活。「仕事をしなくていい、家事もし なくていい。ご飯は三度、全部出てくるし、洗濯もしてくれる」日々 に、村木氏は約150冊の本を読んで時間を過ごしたという。

10年には無罪判決を受け、職場復帰する。弘中弁護士によると、担 当検事が証拠隠滅で実刑となり、村木氏は3770万円の損賠賠償を国から 勝ち取る。村木氏は裁判費用を除いた全額を寄付したという。

村木氏は自分が歩んだこの30年間で女性官僚を取り巻く状況は劇的 に変わったと見ている。入省当時は「うちは女性はいらない。新入生の うちから男を自分のところにください」という課長が多かったが、10年 ほど経過すると「とても出来の悪い男性をもらうよりはできのよい女性 をください」となり、さらに10年後は「どっちでもいいからとにかく一 番出来のいい子をうちにください」と言う課長が多くなったという。

女性登用

それにも関わらず、女性の登用をめぐる中央省庁の状況は安倍首相 の目標とはほど遠い。森雅子男女共同参画担当相が公表した資料による と、本省課室長相当職以上に占める女性の割合を2015年度末に5%程度 とした政府目標に対し、現在の各省平均は2.6%にとどまっている。安 倍内閣も首相含め19人いる大臣のうち女性は森氏と稲田朋美行政改革担 当相の2人。副大臣も25人中4人だ。

村木氏は9月に米ワシントンのブルッキングス研究所で「アベノミ クスからウーマノミクスへ:働く女性と日本の経済復興」をテーマに講 演し、「女性の活躍を推進することが『成長戦略』の鍵となっている」 と指摘。そのうえで、「女性ももっと自信を持って前に出るべきであ り、チャンスから逃げないでほしい」と訴えた。

菅義偉官房長官は24日午前の記者会見で、女性の社会進出を重点政 策に掲げる安倍首相に対し、ヒラリー・クリントン前米国務長官からメ ッセージが届いたことを明らかにした。菅氏は「首相が国連総会などに おいて女性が輝く社会をもたらしたい、と述べたことに対して、首相の イニシアチブを支持すると、そういう内容の書簡だと聞いている」と述 べた。

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