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暴力団マネーに包囲網、米大統領令でアメックス凍結

米国のギャング、アル・カポネ が1931年に収監されたのは殺人や売春ではなく所得税の脱税が原因だっ た。恐喝や賭博、覚せい剤などが伝統的な資金獲得手段だった日本の暴 力団に対しても今、マネーの流れを監視する包囲網が敷かれつつある。

金融庁は9月、多数の反社会的勢力との間で取引があるのを知りな がら、2年以上も抜本的な対応を取っていなかったとして、みずほ銀行 に対し業務改善命令を出し、経営首脳がどの段階で何を知っていたのか を10月28日までに報告するよう求めた。こうした動きは暴力団に対する 新たな一撃だ。

2011年までに暴力団排除条例が全都道府県で施行され、暴力団への 利益供与や経済取引が禁止された。一方、オバマ米政権は11年に出した 大統領令で、金融機関に日本の「ヤクザ(暴力団、極道)」の資産を凍 結するよう求め、暴力団への締め付けは一段と強まっている。ブルーム バーグ・ニュースが米情報公開法に基づき独自に入手した資料による と、米財務省は日本で発行されたアメリカン・エキスプレスのカードな どを含め約5万5000ドル(約540万円)の関係資産をこれまでに凍結し たことが初めて分かった。

元警視庁警視で全国暴力追放運動推進センターの相原秀昭担当部長 は「暴力団への締め付けは確かに厳しくなってきている。活動しにくく なっているのは間違いない」と指摘する。

警察庁の統計資料によると、暴力団員数(構成員と準構成員の合 計)は2004年に8万7000人のピークに達した。その後は年間2、3%の 減少が続き、11年と12年は2年連続で10%程度ずつ減った結果、12年に は6万3200人まで縮小した。

罰則

日本では暴力団の存在自体は違法ではないが、暴力団排除条例に違 反すると、1年以下の懲役または50万円以下の罰金などの罰則が科され る。条例は都道府県ごとに定められているが、内容はほぼ同じで、事業 者は契約時に相手方が暴力団と関係がないことを確認することを求める ことなどが盛り込まれている。警察庁の発表資料を基にしたブルームバ ーグ・ニュースの集計によると、10年以降、条例に基づいて勧告164 件、指導10件、中止命令10件がそれぞれ出ているほか、9件が検挙され ている。

警察庁がまとめた「平成24年の暴力団情勢」によると、12年には2 万4000人以上の暴力団員を検挙、中には最大の暴力団である山口組の直 系組長23人も含まれている。罪種は、窃盗、恐喝、詐欺、覚せい剤取締 法違反など多岐にわたっている。同報告書は「暴力団は、暴力団を利用 する企業と結託するなどして、金融業、建設業等の各種事業活動に進出 し、暴力団の威力を背景としつつも一般の取引を装い、さまざまな犯罪 を引き起こしている」と指摘している。

相原氏は「暴力団排除をここまで進めた功労者は金融庁だ」と述 べ、今回のみずほ銀に対する処分も大きな意義があったと評価する。 「金融機関は行政処分をもらわないためには、貸出先企業を厳しくチェ ックするしかない。銀行は貸出先に反社もしくは暴力団関係者と取引の ある会社があれば融資を引き揚げる」と述べ、暴力団の資金獲得活動は ますます厳しくなってきているとの見方を示した。

高まる自警意識

日本証券業協会は10年、金融商品取引や金融商品市場からの「反社 会的勢力」の遮断を会員に求めた

米財務省外国資産管理局(OFAC)のアダム・スービン局長によ ると、暴力団による金融やその他の合法的なビジネスへの浸食が、米当 局の自警意識を一段と強める結果になったという。

スービン局長は8月、電話取材に対し、約5万5000ドルの資産凍結 について「チクッと刺すような痛みを与えること。それがわれわれが期 待するインパクトだ」と述べた。同時に「彼らの名義で単純に大口の口 座が開設されているわけではない」ため、「ヤクザ」のメンバーだけに 狙いをつけても、大規模な資金封鎖にはつながらないと指摘。このため 犯罪組織のために資金の保有、送金、洗浄に携わる企業や個人のブラッ クリスト作成を進めているという。

同氏は「ヤクザや麻薬カルテルに選ばれた金融機関だと新聞の一面 で書き立てられたいと思う銀行は一つもない」と指摘する。

「強力なインパクト」

「ヤクザ」と継続的にビジネスをしていることが公になったら企業 や個人は、「顧客の基盤を失い、保険も失い、銀行口座も失い、さらに 名声も失う」とスービン局長は言う。また「片足を真っ当な世界に置こ うとしながら、もう片方を闇の世界に置いているような人物も同じこと だ。こうした人物を公表し、制裁の対象に加えることは強力なインパク トがある」と話す。

米財務省は、山口組を12年2月にブラックリストに入れた際に、こ の組織が麻薬取引や人身売買、恐喝、売春、詐欺、マネーロンダリング などで「年間数十億ドル」の収益を上げていると推定されると指摘し た。同省は11年7月の発表資料で、「ヤクザ」は、「ホワイトカラー犯 罪に深く関与しており、建設、不動産、金融など表のビジネスで不正に 稼いだ収益をしばしばフロント企業を使って隠している」と分析してい る。

暴力団の保有資産の推定額についての質問には、米財務省、日本の 警察当局からはともに回答を得られなかった。

「上出来のスタート」

日本の暴力団を取材・調査しているジェイク・アデルスタイン氏 は、暴力団内部者の話として、米国系金融機関に口座を持っていた暴力 団のメンバーの多くは、米財務省のブラックリストに載った途端、口座 を閉じたと話す。

アデルスタイン氏は、米財務省が暴力団の資産を実際に凍結したこ とについて驚きを示し、「何かが見つかるとは思っていなかった。上出 来のスタートだ」と述べた。

米司法省の報告書によると、「コーザ・ノストラ」は禁酒法の時代 から1990年代にかけて米国最大の犯罪シンジケートだったが、法規制の 強化や訴追の厳格化で、新しいメンバーを獲得しにくくなった。中に は、組織が消滅した「ファミリー」もあり、メンバーの数が1970年代か ら30年で10分の1まで減ったところもあるという。

アル・カポネ

2008年に米内国歳入庁が公表したメモによると、シカゴの暗黒街の ボスだったアル・カポネは1931年に脱税で有罪となった。同庁の前身、 内国歳入局は、アル・カポネが自らの名義で一度も銀行口座を保有した ことがないことを突き止めていた。

金融機関に組織犯罪グループやそのメンバーの資産の凍結を求める 米大統領令が強制力を持つのは、米国内の資産、または米国籍の個人、 企業とその海外支店が保有あるいは管理している資産に限られる。

米財務省によると、大統領令のブラックリストには現在、日本の3 大暴力団である山口組や、住吉会、稲川会が含まれている。この3組織 で日本の暴力団員数の約72%を占めている。リストには、メキシコの麻 薬カルテル「ロス・セタス」や、中南米の「MS-13」、イタリアの マフィア「カモッラ」、旧ソ連ブロックや中東で活動している「ブラザ ーズ・サークル」 も載っている。

米政府が資産凍結

ブルームバーグ・ニュースが入手した資料によると、米当局が凍結 した資産は、タカヤマ・キヨシ名義と、ウチボリ・カズオ名義だった。 米財務省は発表資料で、「ウチボリ」を稲川会のナンバー2と認定して いる。ブルームバーグの入手資料によると、ニューヨークに本社を置く アメリカン・エキスプレス・インターナショナルの東京支店で発行され たタカヤマ名義のアメックスカードは昨年3月に解約された。

同資料によると、同じ月、東京に本社を置く富士火災海上保険は、 タカヤマ名義の2件の保険契約を解約、名義人からの1139ドル(約11万 円)の保険料が凍結された。富士火災は、ニューヨークに本社を置く保 険会社、アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)傘下に あるため、大統領令に従う義務がある。

またタカヤマ名義で保有されていた医療診断のジェン・プローブ社 の株式1万1276ドル(約110万円)相当も凍結された。同社は以前は中 外製薬の子会社で、カリフォルニア州サンディエゴで事業を開始。2012 年8月にホロジックに買収される前は米国の取引所で取引されていた。 マサチューセッツ州ベッドフォードに本社のあるホロジックの広報担 当、マリアンヌ・マクモロー氏は電子メールでの問い合わせに対し、タ カヤマ名義による株式保有に関するコメントを控えた。

アメックス

ブルームバーグ・ニュースが入手した資料によると、ウチボリ名義 のアメックスカードも解約され、アメリカン・エキスプレスは、4 万1702ドル分のカードによる支払額も含めてその口座に関連する計4 万2575ドル(約420万円)を凍結したという。

事情に詳しい関係者が、公に話す立場にないことを理由に匿名を条 件で明かしたところによると、凍結されたウチボリ名義の支払額は、ア メリカン・エキスプレスの口座に残っているという。この関係者による と、アメリカン・エキスプレスは、この支払額をそのままにしておいて よいか、連邦政府の決定を待っているところだという。

アメリカン・エキスプレスの広報担当、マリナ・ノービル氏は、顧 客とのプライバシーに関する契約を理由に、特定の顧客に関する取材に は応じなかった。

定期的にモニター

ノービル氏は「ほかのすべての金融機関と同じように、アメリカン エキスプレスは、財務省のOFACのリストを定期的にモニターし、顧 客資産を凍結したり、リストにカードメンバーの名前があったときには 政府に通報したりする通常の手続きを守ることが求められている」と述 べた。

山口組の東京事務所はブルームバーグ・ニュースの電話取材に対し コメントを避け、米国での「タカヤマ」名義の資産凍結の動きについて も本人への取材には応じられないと述べた。東京の稲川会本部も取材に 応じなかった。

金融庁は9月27日、みずほ銀行に対して、反社会的勢力と決別し、 経営管理態勢を抜本的に見直し強化するよう命じ、10月28日までに業務 改善計画を提出するよう求めた。

問題の融資は、みずほ銀が出資する信販会社オリエントコーポレー ションが審査・保証してみずほ銀行が顧客に資金を貸し付ける提携ロー ンで見つかった。取引は230件、総額約2億円に上り、自動車ローンが 中心だった。みずほフィナンシャルグループの佐藤康博社長は8日の会 見で、「自身も問題を知り得る立場にあり、落ち度があった」などと自 らの責任を認めたが、実際に詳しく問題を把握したのは、金融庁検査後 の今年3月だったとしている。

反社問題はプライオリティー

佐藤社長は、これまで複数回出席した取締役会などで配布された資 料には反社への融資について記載があったが、特に議論もされず認識す るには至らなかったと8日の会見で述べた。

三井住友銀行の国部毅頭取(全国銀行協会会長)は17日の記者会見 で、反社の問題については日常的に「私自身は相当意識している。銀行 の信用を鑑みても非常に重要だ。プライオリティーを持って臨んでい る」と述べた。また、同行では一定金額以上の反社取引が行内で認定さ れると「必ずすぐ私のところにメールが来る」とし、また反社への与信 残高に変化があれば経営会議などでも「必ず説明される」と述べた。

みずほFGはニューヨーク株式市場にも上場している。同社の広報 担当、塩野雅子氏は、米当局が暴力団の資産凍結に動いていることなど 一連の取り組みは認識していると述べた上で、同社は「適宜適切に対応 している」と語った。

米国の日本批判

オリコが16日発表した経産省への提出資料によると、同社は契約者 が反社会勢力と関わりがないかを確認させる条項を11年3月から契約書 に盛り込み始めた。

反社社会的勢力に関連した金融機関の処分では、担当課長を融資先 事務所に常駐させて30数年間にわたり取引を続けていた三菱東京UFJ 銀行(不正は旧三和銀行淡路支店で発生)に対する07年2月の例があ る。同年6月、政府は「企業が反社会的勢力による被害を防止するため の指針」を制定、企業の代用取締役などトップが責任を持って反社との 関係遮断に向けて取り組むよう要請した。

米当局の動きの前には、国境を越える犯罪との戦いに日本が十分な 役割を果たしていないという批判があった。大統領令発布の4カ月前 の11年3月に米国務省がまとめた報告書は、日本の警察による協力は 「最小限」だと指摘した。今年の報告書は、マネーロンダリング防止の ための国際的な基準に照らして日本の取り組みは「明らかに不十分」だ と指摘し、警察庁が外国政府に対して提供しているのは「限られた協 力」だとしている。

国際機関と協力

これに対しOFACのスービン局長は、日本の当局とは協力してい ると話し、警察庁は「ヤクザ」に対する取り組みを強めており、地域の 金融機関との情報共有など「非常に意味のある措置をいくつか取ってい る」と述べた。同氏は、「日本政府とは広範なコミュニケーションがあ る」と言い、「共通の目的に向かって、共通の課題にしっかりと取り組 んでいる」と話した。

警察庁は取材に対しファクスで回答を寄せ、「国際的な組織犯罪対 策として、海外捜査機関等との捜査協力等に努めている」と述べ、国際 刑事警察機構(インターポール、ICPO)を通じて外国捜査機関と情 報交換したり、警察庁幹部がICPOの各種会合に出席したりするなど 協力関係を築いていると説明した。

アンダーグラウンド

米連邦捜査局(FBI)で27年間にわたり金融犯罪部門の監督に当 たったミズーリ州カンザスシティの法廷会計士、ランダル・ウォルバー トン氏は、犯罪組織は金融機関を避けて地下のルートで資金を動かすこ とに熟練しており、「アンダーグラウンドの話になれば、連中は常に一 枚上手だ」と指摘、このゲームでは「非常に巧みな犯罪と立ち向かわな ければならない」と言う。

とはいえ、日本の暴力団に詳しいアデルスタイン氏は、日米当局の 取り組みはインパクトを与えつつあるようだと言い、こうコメントし た。「ヤクザにとって不都合なことが起き始めているということは確か だ」--。

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