著名投資家ジョージ・ソロス氏の投 資アドバイザーを務めた経歴を持つ藤巻健史参院議員は、消費増税を予 定通り実施しても、2020年の東京五輪開催の景気浮揚効果によっても、 日本の財政危機を回避することはできないとの見解を示した。

藤巻氏は24日のインタビューで、「公的債務残高が積み上がってお り、調整することは無理だ。遅かれ早かれ金融危機が来る」と指摘。 「あす財政危機が起きても驚かない。20年の東京五輪よりも早く起きる と思う。1、2年後にハイパーインフレが起きる可能性があり、政府に 頼っている人々は厳しい時期を迎えるだろう」と警鐘を鳴らした。

長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは27日、0.68%と世界 最低。一方、米国の長期金利の26日終値は2.65%程度。CMAによる と、日本国債を対象とした5年物のドル建てクレジット・デフォルト・ スワップ(CDS)の保証料率(スプレッド)は26日、62ベーシスポイ ント(bp、1bp=0.01%)と、約4カ月ぶりの低水準付近で推移し ている。

元モルガン銀行東京支店長の藤巻氏は、日本で財政危機が起きた場 合、1998年にロシアがデフォルト(債務不履行)に陥った時と同様に、 長期金利は60-70%へ急騰する可能性があると警告。「第2次世界大戦 の時と同じような大きな混乱が起きるだろう。その時は自民党政権が崩 壊し、新しい日本を創る日が来る」と、政治家に転身した理由を語っ た。同氏は7月の参院選に日本維新の会から比例代表で立候補し、初当 選した。

1000兆円突破

昨年12月の総選挙で勝利を収める前の2011年、自民党は国債暴落へ の対応策を検討する「Xデープロジェクト」を立ち上げた。当時924.4 兆円だった公的債務残高は、現在は1000兆円を突破。国内総生産 (GDP)の2倍を超える水準に膨らみ、世界最悪となっている。

安倍晋三政権は10月1日に発表される日本銀行の企業短期経済観測 調査(短観、9月調査)を踏まえて、消費増税の最終判断を下す見通 し。政府は現行5%の消費税率を14年4月から8%、15年10月から10% へ引き上げる計画だ。

日本銀行は2年程度で2%の物価目標達成を目指し、4月4日に 「量的・質的金融緩和」を導入。毎月7兆円強の国債を買い入れてい る。27日発表された8月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコア CPI)は前年同月比0.8%上昇と3カ月連続でプラスとなった。上昇 率は前月の0.7%から拡大し、市場予想(0.7%)も上回った。

藤巻氏は、「日銀の金融緩和により、国債バブルになっている」と 語り、日銀による大量の国債購入により市場原理が働いていないと指 摘。「幸運にもまだ破綻していない」としながらも、市場はいずれ信用 リスクを反映させるとの見方を示した。

インフレ率

日銀が7月11日の金融政策決定会合で行った「経済・物価情勢の展 望(展望リポート)」の中間評価によると、14年度のコアCPI(消費 税率引き上げの影響を除く)は前年度比1.3%上昇が見込まれてい る。15年度は同1.9%上昇の見通し。

一方、BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは、「イ ンフレ率が上昇しても、日本の多くの金融機関は当然、円負債を抱えて いるので円資産から逃れられない」と指摘。低い金利の長期国債を半ば 強制的に国内の機関投資家に購入させることで、マイナスの実質金利を 作り、公的債務の圧縮が行われていく可能性が高まっているとし、日銀 の異次元緩和策は金融抑圧の第一歩と解説した。

国際通貨基金(IMF)の推計によると、日本の公的債務残高は今 年、国内総生産(GDP)比で245%に達する見通し。財務省が1月に 公表した13年度一般会計予算で、国債の元利返済に充てる国債費は過去 最高の22.2兆円で歳出の約24%を占め、税収の半分以上に達している。

アベノミクス

消費増税に伴う景気の落ち込みを防ぐため、政府は月内に経済対策 をまとめる。共同通信の26日の報道によると、経済対策の規模は5兆円 超。若者や女性、高齢者の雇用拡大策のほか、中小企業の設備投資を支 援する補助金や、企業の賃上げを促す減税措置の拡充などが盛り込まれ るとしている。

安倍首相は15年に及ぶデフレから脱却して成長を促すため、アベノ ミクスと呼ばれる経済政策で、金融緩和、財政出動、規制緩和などによ る成長戦略の「3本の矢」を掲げてきた。

BNPパリバの河野氏は、「アベノミクスの本質はマネタイゼーシ ョン政策」と指摘。中央銀行ファイナンスによる追加財政継続でデフレ 脱却に成功し、長期金利上昇に伴う財政破たん確率上昇の顕在化を避け るため、金融抑圧政策が行われる確率は40%程度と予想している。

藤巻氏は、「消費税率を引き上げても危機を回避することはできな いだろう。しかし、消費税率引き上げは政治家としての責任だ」と語 り、基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化するには、消費 税率を30-35%へ引き上げる必要があると分析した。また、「企業が国 際社会と競争するには、法人税率を引き下げるべきだ。来たるべき危機 を先送りし、景気を良くするために最大限の努力をする必要がある」と 語った。

1ドル=1000円も

これに対して、伊藤隆敏東京大学大学院教授は、「財政危機の大惨 事から逃れるナローパス(狭き道)は増税だ。幸い、日本の消費税率は 欧州諸国の22-25%を下回っており、大きな増税余地がある」と語 り、20年までに消費税率を最低でも20%へ引き上げるべきだと主張す る。伊藤氏は、政府の「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度 化等に関する有識者会議」議長を務めている。

27日の東京為替市場では、ドル・円相場は1ドル=98円台後半を中 心に推移。円は今年に入って約12%下落し、5月22日に103円74銭と約 4年半ぶりの円安・ドル高水準を付けた。ブルームバーグ予測調査によ ると、年末に102円、2014年には110円へ下落する見込み。

藤巻氏は、「円が1ドル=120円程度になれば、『第3の矢』も必 要ない。円が暴落すれば、景気は急回復する」と述べ、ハイパーインフ レになれば、1ドル=1000円の可能性もあると指摘。「円安政策だけで よい。5兆円の景気刺激策は必要ない。財政政策に頼ることは、債務残 高を膨らませる」と語り、小さい政府を志向する必要性を強調した。

東京五輪

国際オリンピック委員会(IOC)は7日、マドリード、イスタン ブール、東京が招致を目指した20年夏季五輪の開催都市に、東京を選出 した。1964年以来の開催となる。

藤巻氏は、「東京五輪を開催する時には、景気は上昇し始めている のではないか。景気が回復すれば、長期金利は5-6%程度が普通だ」 との見方も示した。

同氏は、1995年から2000年までモルガン銀行(現・JPモルガン・ チェース銀行)東京支店長を務めた。2000年にはジョージ・ソロス氏の 投資アドバイザーに就任した。

--取材協力:小宮弘子、野沢茂樹、Rocky Swift. Editors: 青木 勝, 山中英典, 崎浜秀磨

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