【FRBウオッチ】テーパリングは「QEバブル」崩壊の序章

米連邦準備制度理事会(FRB)に よる異例の量的金融緩和の縮小(テーパリング)の示唆は、米国債市場 をはじめ国際金融市場に大きな波乱を巻き起こしている。サンフランシ スコ連銀のウィリアムズ総裁は米国債市場の行き過ぎを「フロス」(小 さな泡粒)と表現。グリーンスパン前FRB議長が2005年7月に住宅市 場を「フロス」と指摘したことを想起させる。

グリーンスパン議長は当時、頭をもたげ始めていた「住宅バブル」 の懸念を打ち消すために「フロス」という言葉を使ったものだが、実際 にはバブル膨張が最終局面へと向かっていた。今回も当時と同様、金融 当局者が発した「フロス」という言葉に重みがある。

FRBは09年からQEと呼ばれる量的緩和を断続的に実施、それか ら5年目に入った今もなお、毎月米国債を450億ドル、住宅ローン保証 券(MBS)を400億ドル、合計850億ドルの資産を購入している。この 結果、FRBのバランスシートの資産総額は既に3兆5900億ドルに膨れ 上がってきた。

QEからの出口作戦は現行の850億ドルの購入を少しずつ減額し、 来年の半ばごろまでに停止することを目指す。なお追加緩和が継続され ることには変わりなく、計画通りQEが停止されるころには、FRBの バランスシートは4兆ドルに接近する。

細長いろうそく

QEの段階的な縮小を意味するテーパリング(tapering)という言 葉は細長いろうそく(taper candle)と語源を共有し、ろうそくが徐々に 燃え尽きていくように、活動や力などが先細りになっていくことを意味 する。

最終的な消滅を意味するこの言葉の持つ心細さが響いたせいもある のだろうか。バーナンキ議長が量的緩和からの出口作戦の端緒としてテ ーパリングを市場に刷り込もうとしただけで、金融市場が大混乱を来し てしまった。この異常な市場の反応は、大規模資産購入でFRBが繰り 出すニューマネーが世界に「フロス」の種をまき散らしてきた証左とも 言える。

ウィリアムズ・サンフランシスコ連銀総裁は、この市場の混乱が 「債券市場のフロスをある程度取り除いたことだろう」と楽観してい る。しかし、8年前のグリーンスパン議長の発言を忘れてはなるまい。 当局者が「フロス」などと言うえん曲話法を用いる時は、既に巨大バブ ルに成長している可能性の方が高い。仮に一部のフロスが解消されたと しても、バブルの本体はなお膨張を続け、遠からず崩壊に向かう予兆と みておいた方が賢明だろう。

最終利上げ

問題はバブルについては、その形成過程はもちろん、崩壊過程に入 ってもなかなかそれと認識できないことだ。S&P/ケース・シラー住 宅価格指数がピークを付けたのは06年6月である。バーナンキ議長率い る連邦公開市場委員会(FOMC)は同年6月29日の会合で、フェデラ ルファンド(FF)金利の誘導目標を0.25ポイント引き上げて5.25%と した。まさに最終利上げは住宅バブルの頂点とぴたりと一致した。この ように巨大バブルはFRBの金融政策とほぼ一致して、膨張と崩壊を繰 り返してきた。

伝統的な短期金利の誘導が効かなくなった量的緩和の世界では、テ ーパリングの開始は、伝統的な短期金利誘導の最終利上げに相当する。 これは世界の金融史上初の出来事になるため、説明を加える必要があ る。短期金利誘導政策がとられていた前回までの景気拡大局面では利上 げ開始が景気拡大のペースを落ち着かせ、当局は持続的な成長を目指し ていた。しかし、過去2回の拡大局面では最終利上げはバブルにとどめ を刺す形になり、景気は失速に向かってしまった。

超緩和措置の仕上げ

もちろん、最終利上げかどうかは、バブルが崩壊し景気が急減速し てそれと初めて認識できるものである。一方、今回のように量的緩和の 下では、景気回復は極めて弱く、FRBは緩和の程度を断続的に強める 方向に進んできた。そして、ようやく景気の足腰が強くなり、雇用が持 続的な回復に向かうと見られ始めた段階で量的緩和の縮小、つまり超緩 和状態からの初の引き締め方向へと転換するシナリオが浮上してきた。 いわば、超金融緩和措置の仕上げである。この引き締め転換はバブル崩 壊を誘い、景気拡大のピークと一致する可能性が高い。もちろん、最終 利上げの時と同様、その答えは事後でないと判明しないのだが。

FRBの先行きを占う上で、IT株式バブル崩壊までさかのぼると さらに視野が開けてくる。2000年にはS&P500種株価指数がピークア ウトした3月24日の2カ月後に、FOMCが最終利上げに踏み切ってい た。この時は株式市場がバブル膨張の源流だったため、株式市場のピー クアウトが金融政策にやや先行したのだろう。

暴落に見舞われたニューヨーク株式市場が底打ちしたのは02年10月 9日。この時までにFF金利は1.25%まで引き下げられていた。一方、 ITバブルの崩壊にもかかわらず住宅価格は上昇を続けていた。

サブプライムも「フロス」と誤認

S&P/ケース・シラー住宅価格指数は、グリーンスパン議長が株 式市場について「根拠なき熱狂だろうか」と問いかけた1996年末の時点 から2002年第4四半期までに、58%も水準を上げた。同議長は翌03年6 月にFF金利の誘導目標を1%まで引き下げ、住宅・金融バブルの膨張 を確実なものにしていく。

後を継いだバーナンキ議長が最終利上げに踏み切ったのは、06年2 月の就任から4カ月後だった。同議長は就任後、3回連続して利上げを 実行していたことになる。そして最終利上げが決定された同年6月に、 住宅価格指数は1996年末から134%上昇してピークを付けた。

この後、住宅・金融バブルは崩壊過程へとつながっていくが、この ように住宅市場が先行。バーナンキ議長の最終利上げはそれに合わせる ように実行に移された。

そして、この最終利上げがバブルを崩壊へといざなう。2006年末ご ろから07年にかけてサブプライム(信用力の低い個人)向け住宅ローン の破綻が増え始める。07年3月の議会証言でバーナンキ議長はサブプラ イム問題について、「特に悪質なサブプライムローンがすでに沈静化し てきた事実を基に考えると、住宅市場に与える影響はそれほどでもない と予測される。従って、経済全体に及ぼす影響は小さいと思われる」 と、まさに「フロス」にとどまり、それは既に消滅したとの認識を示し ていたのである。

史上「最悪のバブル膨張」か

拙著「2014年、アメリカ発暴走する『金融緩和バブル』崩壊が日本 を襲う」(13年6月、中経出版)第1章で詳述したように、米国で は1900年代から21世紀にかけて30年~40年の間隔で巨大バブルの膨張と 崩壊が繰り返されおり、2000年から始まったバブル崩壊はその中でも最 も悪性度が高い。

しかも21世紀に入って崩壊したバブルは一度では終わらず、その後 に住宅・金融バブルの膨張と崩壊へと続く。そして、すべての米金融当 局者や大部分の市場参加者が「米国の経済成長が最近の弱いペースから 上向く」(7月のFOMC声明)と考える中で、今世紀3度目のバブル が形成され、最終局面に差し掛かってきたように見える。

現在進行中のテーパリング狂騒曲は、この3番目のバブル崩壊への 序章である。今回のバブルはFRBの量的緩和が原動力になっているだ けに、FRBの政策変化がバブル崩壊への先行指標の役割を果たす可能 性が高いからだ。

しかも、21世紀に入って3度目のバブル膨張は量的金融緩和が原動 力になっている。これは人類史上初の出来事であり、悪性度が最も高く なるリスクを抱えている。

(FRBウオッチの内容は記者個人の見解です)

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