【コラム】黒田氏が1000兆円債務にかける魔法-W・ペセック

黒田東彦氏は毎朝、日本銀行本店に 入る際、魔法使いの帽子をかぶってはいない。しかしいったん中に入れ ばマントを身に着け、魔法のつえを振り、謎めいた薬を混ぜ合わせてい るのではないだろうか。

黒田氏は日銀総裁として、就任から5カ月間でまさに超自然的なこ とをやってのけた。インフレを引き起こすため同氏が円を魔法のように 生み出せば生み出すほど、市場は魅了された。投資家 は1,000,000,000,000,000という数字よりも黒田氏の魔術に心を捉えら れた。

今や日本の国家債務の規模を表すにはゼロが15個必要になっ た。1000兆円というこの額は不気味だ。しかし国の借金が大台を突破し たという報道から1週間たって、債券利回りは低下している。

黒田氏の魔術はどういったものなのか。バーナンキ米連邦準備制度 理事会(FRB)議長は心底知りたがっているだろう。議長は、自分た ちに不利と見なす財政や金融政策に抗議する債券自警団につきまとわれ ている。一方、黒田氏は2つの魔法を使って債券市場を従わせることに 成功しつつある。1つはエコノミストが「金融抑圧」と呼ぶ手法だ。金 融政策を通じて資金を民間から政府に移転させることを意味する。2つ 目は公的債務のマネタイゼーション(中央銀行による国債引き受け) だ。

もちろん黒田氏はそのいずれかを行っていると認めることはできな い。最初の措置は日本国民の怒りを買うだろう。2番目はヘッジファン ドや格付け会社の集中攻撃を受ける。これまでのところ黒田氏はそうし た目に遭っていない。同氏の魔法が解けずにいる期間が長ければ長いほ ど、安倍晋三首相が規制緩和という奇跡を成功させる可能性が高まる。

見て見ぬふり

巨額の債務に高齢化、政治的停滞に陥りやすい傾向。全ては日本の こうした現実を投資家がどれだけ長く見て見ぬふりをしたいか次第だ。 人々の認識が明確になったとき、世界経済は史上最悪の債務危機に見舞 われるだろう。日本の債務はドイツとフランス、英国を合わせた額より も大きい。

黒田氏の魔法が解けずにいるかどうか、全世界が強い関心を持って いる。ヘイマン・キャピタル・マネジメントのヘッジファンド運用担当 者カイル・バス氏は2010年以降、日本の崩壊を予想しているが、現在そ の思いを以前にも増して強く持っているという。

黒田氏がマネタリーベースを2倍にすると4月に表明した後、国債 利回りは大きく変動し、日本株式会社を揺るがせた。国債は銀行や企 業、年金基金、大学、保険会社などが保有する主要な金融資産。しかし こうした中で保有者は国債のエクスポージャーを減らすのでなく逆に増 やした。

黒田氏がはっきりとそう伝えたわけでないが、債券保有者は利回り の上昇を抑えることが全体にとって最善だとのメッセージを受け取っ た。こうした力が債権者(国民)から債務者(日本財務省)への巨額の 資産再分配を加速させている。また、それがインフレ調整後の金利を一 段とマイナスに押し下げ、政府の資金調達コスト低下に寄与している。

ATM

マネタイゼーションについては繰り返しになるが、黒田氏は日銀が 財務省の現金自動預払機(ATM)であると認めることはできない。し かし日銀の国債購入割合はかつてない高さとなっている。国債引き受け は故ミルトン・フリードマン氏のような経済学者が考え得る最悪のシナ リオだ。だが高齢化の進む国が国内総生産(GDP)の250%に近づこ うとしている債務を返済できるなどと、誰が本当に考えているだろう か。消費税の税率を現行の倍の10%に引き上げるだけでこの問題が解決 できると誰が実際に信じているというのか。黒田氏の手法が正当化され ると思われるのは、そのためだ。

大失敗に終わる可能性も残っている。安倍首相が掲げる構造改革が 行動を伴わなければ、黒田氏は史上最大のバブルを生み出しつつあるこ とになる。債券自警団がカーテンの陰から、日本の魔法使いが本当は何 をもくろんでいるのかを盗み見てパニックに陥ったなら、日本は壊滅的 な打撃を受ける。今のところ黒田氏の魔法は効いている。それは驚くべ きことだ。 (ウィリアム・ペセック)

(ペセック氏はブルームバーグ・ビューのコラムニストです。この コラムの内容は同氏自身の見解です)

原題:Debt of 1,000,000,000,000,000 Yen? Not a Problem: William Pesek(抜粋)

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