【クレジット市場】黒田人気、国債市場にじわり浸透-入札倍率が最高

日本銀行の黒田東彦総裁は債券投資 家からの信認を取り戻しつつある。このところの海外金利の上昇や円 安・株高にもかかわらず、日本の国債利回りは着実に下がり続けてい る。

財務省が13日実施した5年利付国債の入札では、投資家需要の強さ を示す応札倍率が過去最高を記録した。ブルームバーグ/EFFAS指 数によると、残存1年超の日本国債の投資収益は直近3カ月間で0.1% と、世界の25カ国・地域で唯一のプラスとなった。米国債は2.6%の損 失、ドイツ国債もマイナス1.3%。米連邦準備制度理事会(FRB)が 量的緩和の縮小に向かうとの観測が金利上昇要因となった。

日銀が4月に導入した量的・質的金融緩和策による月7兆円強の長 期国債買い入れは、年間ベースの実施額で今年度の国債発行総額170.5 兆円の約半分に相当する規模。黒田総裁は当初起きた市場の混乱をオペ (公開市場操作)手法の改善で対応し、相場変動率(ボラティリティ) を導入直前の水準に引き下げることに成功した。長期金利の指標となる 新発10年物国債利回りは3カ月ぶりの低水準を付け、日米金利差は約2 年ぶりの水準に拡大している。

RBS証券の福永顕人チーフ債券ストラテジストは、日銀による巨 額の国債買い入れについて、「政策として成功している。導入当初は混 乱もあったが、物量作戦が金利をじわじわと押し下げ、債券市場を圧倒 している」と評価する。

応札倍率

13日の5年債入札では、応札倍率が5.514倍と昨年10月の5.506倍を 上回り、2000年の発行開始以降で最高を記録した。小さければ好調とさ れるテール(最低と平均落札価格の差)も9カ月ぶりにゼロ銭だった。

順調な入札結果を受けた同日の流通市場では、円安・株高にもかか わらず、5年債利回りは0.27%と7月24日以来の水準に低下した。10年 債も0.73%と5月13日以来の低水準を付けた。超長期債では、20年債が

1.635%、30年債が1.755%と6月上旬以来の水準に低下した。

三井住友アセットマネジメントの浜崎優シニアストラテジストは、 債券市場は「一時は荒れていたが、先月ごろからかなり落ち着いてきて ボラティリティも下がっている」と指摘。中間決算期末が視野に入る投 資家が継続的な保有による期間収益を狙って債券を買いやすい相場環境 になってきたと説明した。

ボラティリティが低下

2%の物価目標を2年程度で達成するために導入した量的・質的金 融緩和により、日銀の長期国債の保有残高は年に約50兆円のペースで増 え、昨年末の89兆円から今年末に140兆円、来年末には190兆円に達する 見通しだ。営業毎旬報告によると、10日時点の国債保有額は158.3兆円 と、3月末から約33兆円が増えた。黒田総裁は先月29日の講演で「順調 に積み上げが進んでいる」と説明した。

ブルームバーグ/EFFAS指数によると、10年債利回りのヒスト リカル・ボラティリティ(60日ベース)は今週2.454%と、量的・質的 緩和導入の前日以来となる水準に低下。日銀が当初に比べ「より頻繁、 より少額ずつ」に改善した国債買い入れオペを続ける中、6月25日に付 けた約5年ぶり高水準の3.975%から低下した。10年債利回りは4月5 日に0.315%と過去最低を記録した後、5月23日には約1年1カ月ぶり に1%まで急騰した経緯がある。

日銀は先月24日、市場参加者との第4回意見交換会を開催。日銀幹 部の記者説明によると、5月末にかけて見直しを重ねた国債買い入れオ ペの枠組みは透明性と柔軟性を兼ね備え、「かなりうまく回っている」 と、参加者は評価した。

日銀と市場の間合い

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の稲留克俊債券ストラテジス トは、ボラティリティの低下は市場と「日銀のオペとの間合いがこなれ てきたことが大きい」と言う。導入当初はオペの予測が難しかったが 「予見可能性を高める努力の結果、いつどんなオペが打たれるかの見通 しを立てやすくなった」と評価。ボラティリティの落ち着きにより「少 しずつだが、買い安心感が意識されている」と語った。

米国ではFRBが米国債と政府支援機関の住宅ローン担保証券(M BS)を合計で月850億ドル購入する量的緩和政策の縮小を視野に入れ ている。バーナンキ議長は6月19日の記者会見で、米景気が当局の予想 通りに回復を続ければ、年内に債券購入の規模を縮小し始め、14年半ば に終了させる可能性があると言明。その後もオバマ米大統領が注視する 雇用情勢を含め、米経済指標の改善傾向が続いている。

日銀が13日公表した7月の金融政策決定会合の議事要旨によると、 多くの委員が6月中旬以降の世界的な金利上昇局面において日本の長期 金利は安定的に推移したと指摘。「日銀による巨額の国債買い入れが、 海外金利上昇や景況感改善などに伴って生じる長期金利の上昇圧力を強 力に抑制している」とした。

消費増税、決断迫る

内閣府が12日に発表した4-6月期の国内総生産(GDP)速報値 では、実質成長率が前期比年率2.6%。景気回復の継続を示した半面、 市場予想を下回り、設備投資はマイナス圏にとどまった。

安倍晋三首相は有識者の意見や9月9日発表のGDP改定値などを 踏まえ、来年4月の消費増税を予定通り実施するかを10月の臨時国会開 会までに決断する見通しだ。

安倍首相は法人税の実効税率引き下げを検討するよう関係省庁に指 示したと、13日付の日本経済新聞が報じた。来年4月からの消費増税を 決めた場合、法人税の引き下げ方針を併せて打ち出し、景気の腰折れ懸 念を払しょくする狙いだという。

一方、内閣官房参与として安倍首相に経済政策について助言する本 田悦朗静岡県立大学教授は7日のインタビューで、家計の負担を和らげ るため、消費税率の引き上げは年1ポイントずつにとどめるべきだとの 持論をあらためて披露。GDP速報値の発表後にはロイター通信に対し 消費増税の環境が整ったとは言えないとの見解を示した。

黒田総裁は8日の記者会見で、約1年前に成立した法律通りの2段 階の増税を前提に経済・物価の見通しを公表しており、デフレ脱却と消 費増税は「両立すると思っている」と言明した。財政再建は「不可避・ 不可欠・絶対に重要」だと強調。財政規律の緩みや、金融政策が財政政 策に従属する「財政ドミナンス」、財政赤字を日銀が穴埋めする「財政 ファイナンス」のような懸念を持たれると、国債利回りに影響が出て、 量的・質的緩和の効果が減殺される恐れがあるとけん制した。

7月の決定会合の議事要旨では、ある委員が日銀の国債買い入れに より「金利の低位安定が保たれるとの期待が過度に強まると、国際的な 金融面での不均衡蓄積や、財政健全化に向けた政府の取り組み姿勢の後 退につながる可能性がある」との懸念を表明した。

財務省によると、国債・借入金・国庫短期証券を合わせた国の債務 残高が6月末に初めて1000兆円を突破した。国際通貨基金(IMF)は 政府債務残高の国内総生産(GDP)に対する比率で、日本が09年から 少なくとも18年までは世界最悪の座を抜け出せないと予測。今年末は 245%と、ギリシャの179%や米国の108%を上回るとみる。

内閣府は8日の経済財政諮問会議に提出した経済財政の中長期試算 で、現在5%の消費税率を予定通り14年4月に8%、15年10月に10%に 引き上げても、20年度の国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバラ ンス)は対GDP比で2%程度の赤字が残ると推計。黒字化目標の達成 には「更なる収支改善努力が必要」だとの見解を示した。

スピロ・ソブリン・ストラテジーのマネジングディレクター、ニコ ラス・スピロ氏(ロンドン在勤)は、消費増税は5年程度かけた漸進的 な税率引き上げが妥協案となる可能性があると分析。しかし「皆を喜ば せようとすれば、誰も満足させられなくなる恐れがある」と指摘した。

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