官僚人事も「安倍カラー」、菅官房長官が手腕発揮-官邸主導へ整備進む

厚生労働省に中央省庁で16年ぶりの 女性事務次官、海上保安庁長官に初の制服組、内閣法制局長官に異例の 外務省出身者-。第2次政権で安倍晋三首相は、「アベノミクス」に続 いて幹部官僚人事でも「安倍カラー」を鮮明に打ち出している。手腕を 発揮しているのは菅義偉官房長官(64)だ。

菅氏は、野党議員だった2012年春に出版した著書「政治家の覚悟- 官僚を動かせ」(文芸春秋)で大臣の人事権について「むやみに行使す るものではありません」としながらも、「官僚のやる気を引き出すため の効果的なメッセージを省内に発する重要な手段」と指摘。06年からの 総務相時代に、有能なノンキャリアを抜てきしたり、自身が進めた NHK改革に懐疑的な見方をマスコミ関係者に示した担当課長を更迭し て自らの意向を省内に浸透させた例を紹介している。

そんな菅氏が昨年12月に発足した現政権では官房長官に就任し、全 府省の事務次官や局長などの幹部人事を審査する「閣議人事検討会議」 を主宰する立場になってから、型破りの人事が相次いで断行された。

菅氏は7月28日、フジテレビの番組で同会議に関して「公務員の人 たちは国のことを思ってなっているから、いかに政権と一緒になって、 省益だとかそういうことではなくて働いてもらう、そういう方向をつく っていくのが私たちの役割だ」と指摘。官僚に政権の意向を浸透させる 視点で運営する考えを示している。

国会議員秘書、横浜市議会議員などを経て、衆院議員になった菅氏 は、1948年12月生まれ。秋田県の農家出身で、働きながら大学を卒業し た苦労人だ。政府・自民党内では、安倍首相、麻生太郎副総理兼財務 相、石破茂幹事長をはじめ政治家の家庭で育った幹部が多い中で異色の 存在といえる。

官邸に集中

ワシントン大学のケネス・パイル教授は、国家戦略の方向を変えよ うとしたら、官僚機構を掌握することが非常に重要と指摘。安倍首相は 自らの考えを実現していくためには、政策立案の権限を首相官邸に集中 させることができるようにしなければいけないことに気が付いていると の見方を示す。

「閣議人事検討会議」は各府省の人事を官邸が事前審査する仕組み で幹部公務員人事に首相の意向を反映しやすくするものだが、法的な根 拠はない。事務次官や局長などの幹部官僚の人事権は担当大臣にある が、早稲田大学の稲継裕昭教授によると、ほとんどの場合は各府省の官 僚自身が人事案を作成してきたという。

安倍政権はこれまでに行った一連の異例人事を通じて政権の意向を 政府内外に発信し始めている。

中国との緊張が高まっている尖閣諸島周辺の海を警戒する海上保安 庁の佐藤雄二長官は初の海上保安官出身。厚生労働省の女性事務次官、 村木厚子氏の誕生も首相が指導的地位に占める女性の割合を30%以上に するという目標に沿った形となり、文部科学審議官、外務報道官など他 省でも女性が要職に登用された。

集団的自衛権

法令審査を担当する内閣法制局長官には外務省出身の小松一郎駐仏 大使が任命されたが、同氏は集団的自衛権を行使できないとしてきた政 府の憲法解釈変更に前向きと共同通信など国内主要メディアは報じてい る。

防衛相経験者でもある自民党の石破茂幹事長は2日の会見で、内閣 法制局長官人事について「集団的自衛権について、小松大使が自分の考 え方はこうであるということを、今の外務省の立場として、明確に示さ れたことはないと承知している」としながらも、「集団的自衛権を行使 できるようにするというわが党の立場からすれば、極めてふさわしい人 材を得た」と歓迎する意向を示した。

公明党

ただ、公明党は集団的自衛権行使を容認する憲法解釈の変更には慎 重姿勢を崩しておらず、法制局長官を交代させても同党との調整が必要 になる状況に変わりはない。

公明党の山口那津男代表は8日、小松氏の起用について「政府は長 年にわたり集団的自衛権の行使を認めておらず、長官の任命だけで直ち にどうなるかということは、予断を持つべきではない」と指摘。「法制 局は個人の考えではなく、局全体として法体系を築いてきた」とも発言 したと9日付の公明新聞は報じている。

民営化されたとはいえ政府が100%株式を保有している日本郵政の 社長人事では自民党が政権奪還する直前に就任した旧大蔵省(財務省) 出身の坂篤郎氏を元東芝社長の西室泰三氏に入れ替えた。坂氏の就任に は自民党幹事長代行だった菅氏が反発した経緯がある。

全府省の人事権を官邸が握る制度を法的にも裏付ける試みも動き出 している。6月下旬に決めた公務員制度改革の基本方針に盛り込んだ幹 部公務員人事を一元管理する「内閣人事局」の新設がそれだ。

内閣人事局設置は08年に成立した公務制度改革基本法に基づくが、 その後の5年間で自民党政権が1回、民主党政権が2回、関連法案を国 会に提出したがいずれも廃案になっている。安倍政権は今後、詳細な制 度設計を進め、早ければ秋の臨時国会に関連法案を提出。14年春の発足 を目指している。

民主党

09年に政権の座についた民主党は人事制度改革とは別に重要政策立 案を担う首相直属組織「国家戦略局」を設置するための法案を国会に提 出。民主党が掲げた「政治主導」を確立するための重要法案だったが、 約3年3カ月の政権担当期間内で成立させることができなかった。

菅氏は7月28日のフジテレビの番組で内閣人事局設置について「い ろんな抵抗がある。しかし、少なくとも首相は公務員制度改革をやろう という思いだから、ここは是非やっていきたい」と実現に意欲を示して いる。

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