トヨタ好調、急増するキャッシュどう使う-アベノミクスに影響

業績回復が続くトヨタ自動車の手元 資金が急速に膨らんでいる。デフレ解消を目指してアベノミクス政策を 進める政府が企業に賃上げや設備投資拡大を促す中、売上高や時価総額 で国内最大のトヨタが積み上がるキャッシュをさらなる成長投資につぎ 込むのか、株主に還元するのか、市場関係者の注目が高まっている。

トヨタが2日発表した4-6月の連結純利益は米国販売好調や円安 などで5622億円と、前年同期に比べほぼ倍増した。連結貸借対照表の現 預金と流動資産の有価証券の合計は6月末で3兆6318億円と前四半期か ら3612億円増加。トヨタが手元資金の規模の目安とする自動車事業の 「総資金量」は6兆4719億円と、前年同期に比べ一気に1兆3842億円 増、過去10年で最高水準となった。

昨年末に政権を奪還した自民党の安倍晋三首相は、金融・財政政 策、成長戦略でさまざまな対策を打ち出してきた。企業にも春闘などに 際して賃上げを要請したほか、設備投資減税を検討するなど、企業に増 大するキャッシュを使わせて国内の経済活性化を促す構えだ。

日本企業の現金・預金残高は3月末時点ですでに過去最高の約225 兆円に達し、イタリアの経済や、米企業が保有する流動性資産を上回る 規模となっていた。アベノミクス効果もあって円高が是正され、経営環 境が好転した今も、トヨタでは手元資金の拡大が続いている。

第一生命経済研究所の永浜利広主席エコノミストは「トヨタが内部 留保をどう使うかは今後のアベノミクスの成果を占う意味でも注目だ」 と指摘。トヨタへの期待は「自動車技術レベルをさらに高める投資」の ほか、「新しい成長分野を開拓していくのも経済への影響がある」と述 べ、情報技術(IT)分野などを挙げた。配当については「株価が上が るという意味で日本経済にプラスになるとは言える」と話した。

賃上げ

政府が賃上げ要請する中、今年の春闘で、トヨタは労働組合の年間 一時金(ボーナス)増の要求に満額回答、前年比で約15%増とした。自 動車メーカーでは満額回答、ボーナス増額が相次いだ。その後も、安倍 首相は7月の参院選結果を受けた民放番組で、賃上げについて産業界だ けでなく労働界を含め議論したいと話し、手を緩める様子はない。

東証1部上場企業が保有するキャッシュは高水準に膨らんでいる が、デフレ脱却を見越してキャッシュを使い始める企業も増えている。 ブルームバーグ・データによると、東証1部上場企業の自社株買いは1 -6月に1兆7800億円と、2005年以来の高水準に達した。企業は設備投 資も増やしており、少なくとも7年ぶりの増加ペースとなっている。

ジャパンマクロアドバイザーズの大久保琢史チーフエコノミストは 「トヨタなど世界的競争力がある企業は配当を上げるより成長に投資し ていくのが正しい経営判断」と指摘。国内の失業者は世界的にみて「そ んなに多いわけではない」と述べ、「無理やり雇用を増やそうとするよ りも企業が成長を示すことが今の日本には大事」と強調した。

不自然に多くない

トヨタの佐々木卓夫常務は2日、都内での決算会見後、リーマンシ ョックや大規模自然災害などを経験したことを挙げ、現水準の手元資金 が売上高の3カ月程度になると指摘し、「そんなに不自然に多いとは思 っていない」と記者団に述べた。

また、佐々木氏は先端技術をはじめとして「いろいろな開発に積極 的に使っていきたい気持ちはまずベースにある」と述べたほか、利益を 拡大し、配当性向30%をめどに増配していきたいとの考えを示した。

みずほ総研の風間春香エコノミストは、トヨタを含む国内企業の手 元資金の増加について、リーマンショックを経験した企業が将来の売り 上げへの不安が拭えない中で積み上がってきた経緯があると指摘。設備 投資については、東日本大震災などで遅れてきた投資が実行に移される ケースが出ており、「改善する方向に向かっている」と話した。

立て続けに想定外の事象

一方、09年3月期に59年ぶりの最終赤字を計上したトヨタは、これ まで自動車事業で手元資金を積み上げてきた。震災や円高、中国におけ る不買運動など想定外の事象が立て続けに発生し、売上高や利益が大き く抑制される中で、総資金量とそこから有利子負債を差し引いたネット キャッシュは伸びてきた。

総資金量は現預金のほか短期借入や受取手形などを加えたトヨタ独 自の指標で、リーマンショックがあった09年3月期に3兆円台前半まで 落ち込んだが、その後の4年余で8割程度増加。ネットキャッシュは今 年3月末、ほぼ3倍の約4兆6000億円まで増えている。

今期のトヨタの設備投資計画について、小平信因副社長は5月の決 算会見で、為替レートが円安に振れているため前期より増加している が、「外貨ベースでは前年に比べてほとんど変わっていない」と話して いた。今回、従来計画を100億円上積みして9200億円としたが、佐々木 氏は同様に為替要因の修正で投資計画そのものに変更はないとした。

今年2月には当時の伊地知隆彦専務が、リーマンショック前に販売 増に伴って生産を急拡大させて失敗した教訓を生かし、固定費のコント ロールを通じて、粗利の改善を図ると表明。今後、3年間は新たな計画 に基づく工場を建設しない方針を示している。

株主還元に期待する声

一方、市場関係者からは、自社株買いや増配などの株主還元を期待 する声も出始めている。

クレディ・スイス証券の高橋一生アナリストは、トヨタの自動車事 業ネットキャッシュが目標値の5兆-6兆円に達した段階で自社株買い など大規模株主還元が行われる可能性があると指摘。2日付のリポート では直近の高い伸びを考慮すると、「一定の配当を考えても、14年3月 期末に6兆円を達成する蓋然(がいぜん)性が増したと考えられる」と した。

トヨタの佐々木氏は2日の決算会見後、記者団に対し自社株買いに ついて「現時点では考えていない」と述べながらも、「オプションとし ては否定しない」と話した。

みずほ投信投資顧問の青木隆シニアファンドマネジャーは、円高と デフレが続いてきた中でリスクを取って投資するのは合理的ではなかっ たと指摘し、「手元資金が厚いことは一概に悪いことではない」と理解 を示した。その上で、今は経済状況が変わりつつあり、運転資金も潤沢 で投資の必要がない局面になったのであれば、「盛大に投資家に還元し てくれればいい」と述べた。資金を使うときには成長戦略を示している 必要があるとも付け加えた。

無理する必要ない

富国生命投資顧問の桜井祐記社長は、過去にもあった金融危機のよ うな経済状況になれば、優良企業でも資金調達が難しくなることがあ り、先行きが読めないことを考えると、「何を言われようと備えは厚く 持つべきだ」と考えているという。

桜井氏は、欧米企業との比較でも、日本では企業の継続性が重視さ れ、配当を出さなくても受け入れられる土壌があると指摘。今のように 経営にフォローの風が吹き続けるわけではなく、いざというときの会社 の存続を考えると、今のキャッシュレベルでは「還元が必要ないという わけではないが、無理をする必要はない」と話した。

--取材協力:. Editors:浅井秀樹、 中川寛之,谷合謙三

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