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「バラダイムシフト前夜」、船の燃料にLNG-動き出す業界

船舶の燃料として液化天然ガス (LNG)を導入する動きが広がり始めている。現在の主力燃料である 重油への環境規制が強まる中、環境負荷が低く価格も安いLNGへの期 待が背景にある。

船舶の動力源は、長く続いた帆船の時代から19世紀に石炭燃料へと 移行し、20世紀に入ると約40年かけて石炭から重油にシフトした歴史が ある。川崎重工業の神林伸光取締役はブルームバーグ・ニュースのイン タビューで、今は「石油から天然ガスというパラダイムシフトが起きる 前夜」と述べ、「世界中どこに行っても油の燃料が買えるように、 LNGもどこへ行っても手に入るようなインフラがいる」と話した。

船舶の安全管理審査などを手掛ける英ロイド・レジスターのアナリ スト、ダグラス・ライト氏(シンガポール在勤)は、2025年までに船舶 燃料向けのLNG需要は年2400万トンまで伸びる可能性があると予測。 国際エネルギー機関(IEA)によると、昨年の世界のLNG取引量 は3220億立方メートル(2億3800万トン)で、18年には4000億立方メー トルまで増えると予想している。

川崎重工は16年ごろまでに、LNGを使うコンテナ船や、貯蔵基地 から船までLNGを輸送する「バージ」と呼ばれる補給船を開発する計 画だ。同社広報担当の鎌田雄介氏は市場の発展が予想されることから、 「受注に備えて体制を整えたい」と話した。

IMOの規制

背景には、国際海事機関(IMO)が船舶燃料の環境規制を強化、 LNGがその対策の一つとして浮上している事情がある。IMOは、酸 性雨の原因とみる硫黄酸化物(SOx)の排出を減らすため、重油の硫 黄含有量を減らすか、排気ガスから硫黄分を除去する装置の設置を求め ている。

具体的にはバルト海や北海、北米周辺海域など「大気汚染物質放出 規制海域(ECA)」では、域内で消費する重油の硫黄分含有量の上限 を、現在の1%から15年に0.1%まで下げることを求めている。それ以 外の一般海域でも上限を現在の3.5%から20年に0.5%まで下げるよう要 求している。その場合、コストをかけて重油の硫黄含有量を下げるより も含有量の低い軽油を使う選択もある。

しかし、世界全体で消費される船舶燃料用の重油は年2億トンを超 え、その全てを軽油などの燃料で賄うには供給面に不安もある。IMO では、18年に一般海域での規制実施時期を再検討、実施が困難と判断す れば25年に先送りする計画だが、いずれにしても重油や軽油だけに頼り 続けるには量やコストに課題が残る。

混焼型エンジン

こうした中、日本郵船もLNG燃料船の導入を検討している。同社 燃料グループ長の松方雪雄氏は、LNG燃料の供給体制が未整備の港で も対応を可能にするため、重油とLNGの両方が使える「混焼型」のエ ンジンを積んだ船が現実的だと話す。ただ混焼型エンジンを搭載すると 燃料タンクや配管などをすべて二重にする必要があり、「船の価格がお よそ2-3割は割高になる」とみている。

しかし燃料価格で比べると、LNGは重油より割安だ。日本郵船の 試算によると、LNGを使った場合の超大型タンカー(VLCC)の1 日分の燃料費は4万6282ドル(453万円)、重油より3割近く下がる。 船舶用軽油との比較では4割以上安い。

松方氏は、燃料の消費量が大きい船ほど価格差のメリットを生かせ ると述べ、導入に向けては「どういう海域を走り、どれぐらいの消費量 なのかを十分に検討しないといけない」と指摘する。

船の種類によってもLNGのメリットとデメリットがあると話す。 コンテナ船や自動車船は欧州や北米向けが多く、規制の厳しいECAの 海域に入ることが多いため、LNG導入は意味を持つ。大型船であれば 燃料の消費量も多く価格メリットを生かせる。一方、LNGタンクが場 所を取るため、積めるコンテナや自動車の量が減ってしまうのがデメリ ットだ。

限られた設置スペース

原油などを運ぶタンカーはデッキ上にタンクを設置するスペースが 十分あるものの、日本と中東を往復することが多くECA海域に入るこ とは少ない。穀物や石炭、鉄鉱石などを運ぶばら積み船の場合は行き先 を限定しにくい上に「タンクを置く場所すらない」と松方氏は指摘す る。日本郵船の船隊の中でECA水域を中心に航行するのは自動車船が 中心で、今後の自動車船は「LNGを念頭に置かないといけない」と話 した。

国土交通省もLNG燃料の導入を後押しする。昨年9月には普及促 進に向けた対策検討委員会を立ち上げた。メンバーには郵船のほか商船 三井、川崎汽船など海運大手3社のほか、川崎重工や三井造船、 IHI、東京ガスなども名を連ねる。6月末をめどにLNG燃料の供給 に関わるガイドラインの策定を目指している。

日本の技術生かす

同省海事局安全・環境政策課の浜中郁生専門官は、委員会は国内向 けにルールを整備して導入に備えるほか、「国際ルールが日本の技術の 現状に合ったようなものになるよう必要に応じて提案すること」も狙い の一つとして挙げた。さらに、40年を超えるLNG輸入の歴史を通じて 得た輸送の技術やタンカーの運航実績のノウハウを生かし、国内の造 船・海運各社やガス会社の競争力強化につなげたい考えだ。

日本に次ぐLNG輸入大国の韓国でも、船舶燃料にLNGを導入す る機運は高まっている。韓国ガス公社(KOGAS)は1月、ノルウェ ーの独立機関DNVと共同で船舶燃料としてのLNG利用について共同 研究を実施すると発表した。世界最大の造船会社、現代重工業は昨年12 月、混焼型エンジンを積んだLNGタンカー5隻を受注したと発表。同 社がウェブサイト上で発表した資料によると、15-16年に納入する予定 だ。

シンガポールでは今週LNGの船舶燃料利用に関する国際会議が開 催され、港湾の整備状況や課題、LNG燃料船の設計などについて議論 された。国内海運業界を代表し郵船の松方氏も同会議のパネリストとし て出席した。

--取材協力:菅磨澄 Editors: 谷合謙三, 淡路毅

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