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「三本の矢」が射落とす高齢者預金、若者の就職難解決するのか

3月のある午後、山本章嗣さんはダ ークスーツに身を固め、東京の中心にある職業安定所を訪れた。この職 安の名前は「新卒応援ハローワーク」。山本さんは(27)は数日後に、 早稲田大学大学院を卒業することになっていたが、就職先は決まってい なかった。ブルームバーグ・マーケツ誌8月号が報じている。

山本さんは過去2年半を職探しに費やした。就職口が見つかるかも しれないと考えて1年留年もした。エントリーシートは100社ほどに出 し、40社程度にはスーツを着込んで面接にも行った。しかし、新卒応援 ハローワークから出てきた時点で職は見つかっていなかった。雇用状況 は「厳しいですね」と山本さんは言う。

山本さんはバブル崩壊後のいわゆる失われた20年という暗い時代し か知らない。金利は事実上ゼロに下がったが、日本経済は低迷し続け た。山本さんが子供のころから既に、日本経済は悪い状態にあった。そ こへ2008年の世界金融危機が訪れ、11年の東日本大震災、津波と原子力 発電所事故と凶事が続いた。山本さんは自身の就職活動について「厳し い年が、もろにかぶった」と感じている。

昨年12月に就任した安倍晋三首相は、日本でかつてなかった大胆な 景気刺激策で経済再生を図っている。今年1月にまず、景気浮揚とデフ レ脱却に向けた10兆3000億円規模の財政支出計画を打ち出した。続いて 4月には首相自ら選んだ黒田東彦日銀総裁が、2年でインフレ率2%と マネタリーベース(通貨総量)倍増を達成する方針を表明した。コア消 費者物価指数は4月にはマイナス0.4%だった。

アベノミクスの向こう側

6月14日に安倍内閣は、「3本の矢」と銘打った政策の中の「第3 の矢」である成長戦略を閣議決定した。首相は自身の経済再生政策によ って、景気停滞の中で失われた国民総所得50兆円を取り戻すと言明して いる。成長戦略には、規制改革と官業の民間への開放などの政策を盛り 込み、秋から関連法案の整備を本格化させる方針を示している。

首相の政策「アベノミクス」が成果を生み始めた兆候はある。1- 3月(第1四半期)の国内総生産(GDP)は、前期比1%増、前期比 年率4.1%増と好調。日経平均株価は5月22日時点で年初を約50%上回 り、米S&P500種株価指数の約3倍のペースで上昇していた。

こうしてアベノミクスの大胆な金融・財政政策が脚光を浴びている が、その先にはさらに、日本の人口高齢化という難しい状況が首相を待 ち受けている。

日本は1億2700万人の国民の出生率が2011年に1000人当たり8.3人 となり、世界で最低水準の国の一つとなった。政府の報告書によれ ば、15-64歳の生産年齢人口は今年5月1日までの10年間に7%減少し た。就労機会も同時に縮小し、15-24歳の若年層の失業率は4月時点 で8.1%と、20年間でほぼ倍になった。日本の労働人口の中ではこの年 齢層の失業率が最も高い。

「預金を若い世代に譲り渡す」

政府支出に高齢者向けが占める割合は増え続けている。国立社会保 障・人口問題研究所によれば、社会保障給付費の総額は2010年に103兆 円と1990年の47兆円から増えていた。この費用を抑制しなければ、安倍 首相は政策の手を縛られることになる。同研究所が昨年1月に公表した 日本の将来推計人口によると、2050年には日本国民の39%が65歳以上に なる。12年の24%は同時点で過去最高だった。

安倍首相は世代間格差の問題を認識していると言う。現時点で具体 的な政策は示されていないが、高齢者らは社会保障費の負担増を求めら れる可能性がある。首相は2月22日にワシントンの戦略国際問題研究所 での講演で、「預金が多いのは主に高齢層ですが、租税負担が重くなら ないかたちで、若い世代に譲り渡すことができなくてはなりません。わ たくしの政府は、いままさにそれを実行しています」と語った。

「自分のお葬式代ぐらいは」

80歳の大野清子さんは、アベノミクスの到来で将来が不安だと話 す。愛媛県で娘の家族と暮らす未亡人の大野さんは、生涯のほとんどを 専業主婦として過ごした。今は月6万円程度の年金で生計を立ててい る。医療費負担の増加や給付の減額が心配だと大野さんは言う。「だん だんね、はよ死ねという風になってきている。一人でもはよ死んだら、 他のところに回せるやろ。娘に無理言われへんし、やっぱ、自分で貯め とかないかん。自分のお葬式代ぐらいは、子供に無理させんように、置 いときたいと思うしね」と大野さんは話した。一方で、46歳の娘を含め 若い世代が自分たちの老後に不安を抱く気持ちも分かるという。

このような世代間の利害対立をどう解決するかが、第2次安倍政権 の寿命を左右するかもしれない。前回は06年9月26日から1年間首相を 務めた安倍首相は今年2月のワシントンでのスピーチで「わたくしは、 カムバックをいたしました。日本も、そうでなくてはなりません」と言 明。「経済活性化策」であるアベノミクスを説明した後、首相は「しか し、話はそれで終わりではありません」と続けた。「もっと重要な課 題」として、「日本の生産性を向上させることと経済構造を作り直すこ と」を挙げた。

これを成し遂げるためには、有権者のほぼ3分の1を占める大野清 子さんの世代をつなぎとめつつ、山本章嗣さんの世代のために雇用を創 出していかなければならない。彼らは日本の未来だからだ。

原題:Abe Recovery Belies Choice of Graduate Jobs Over Senior Savings(抜粋)

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