米投資会社サーベラス・グループ は、西武ホールディングスの25日の株主総会に筆頭株主として出席、コ ーポレート・ガバナンス(企業統治)や役員選出についてただす。関係 が悪化して以来対話が途絶えており、総会で西武HD経営陣に挑む。

西武HDに質問状を14日付で送ったサーベラスは、企業統治のほか 情報開示、鉄道・ホテルやハワイ事業の今後を含む9項目についても対 応を求めた。これに対して西武側は内容を精査して総会の場などで適宜 回答すると応えた。総会ではサーベラス、西武HDがともに取締役選任 案も提出しており、株主の賛同を得ることを目指している。

サーベラスは2006年1月から西武HDに出資を開始した。これま で1000億円超を投じて良好な関係を築いたが、株式再上場をめぐり12年 央辺りから関係が悪化した。対立は3月に表面化、サーベラスは5月末 まで株式公開買い付け(TOB)を仕掛けて145億円を追加して持ち株 比率を35.5%として西武HDへの関与度合いを強めた。

独立系バリューサーチ投資顧問の松野実社長は、総会での西武HD について「どんなに時間がかかろうが株主に真摯(しんし)に応える義 務がある」と述べた。今回の総会は「個別企業の対応というより日本の 企業体質を示す1つの試金石となっている」と指摘、強引に議事を進行 させるような形が西武HDには最悪のシナリオだと付け加えた。

西武HDの後藤高志社長は双方の代表による協議を進める方針を示 したが、実際は代理人弁護土の話し合いにとどまり、成果も上がってい ない。両社の対立の背景は、西武HDが早期上場を目指しているのに対 して、サーベラスは早急な上場は望まずに企業統治強化を優先させよう とした点。再上場には2、3年程度は必要とサーベラスは見ている。西 武HD総会にはサーベラス代理人の岩倉正和弁護士らが出席する予定。

会社案有利

サーベラスは西武HD総会に株主提案としてダン・クエール元米副 大統領やジョン・スノー元米財務長官、五味広文元金融庁長官ら8人の 取締役選任案を提出した。この提案が通れば取締役の過半数がサーベラ スの推薦者になる。総会では第4号議案として扱われる。西武HDは会 社提案として、評論家の大宅映子氏やカネボウ元社長の小城武彦氏ら4 人の取締役候補の選任を第2号議案にした。

西武HDの株主は現在、サーベラスに続いてNWコーポレーショ ン15%、日本政策投資銀行4.4%、農林中央金庫4.0%、シティグルー プ・キャピタル・パートナーズ2.9%、プリンスホテル退職給付信託 口2.5%、京浜急行電鉄2.2%。うち政投資や農中などの機関投資家は TOBに応じておらず、総会でも会社提案を支持する可能性が高い。

さらに西武グループ元総帥で創業家出身の堤義明氏が、今回の対立 で会社を全面支持する意向を示している。西武HD広報担当者の赤坂修 平氏は、堤氏が4月2日に西武HD代理人弁護士にTOBに賛同しない 旨を連絡したと明かす。堤氏はNWコーポレーションの筆頭株主。

このため、総会では過半数の支持を得て会社提案が最終的に承認さ れる見通しだ。野村証券金融経済研究所の西山賢吾シニアストラテジス トは、サーベラス提案の取締役選任は難しいだろうと予想した。

アベノミクス

サーベラスのアジア地域統括責任者ルイス・フォースター氏は17日 の会見で「われわれの目標はガバナンスと内部統制の課題を解決し、西 武HDの経営を正常化させ企業価値を向上させる」と述べた。そのため の取締役候補と監査役の選任案だと説明。総会で案が否決された場合は 「潜在的なアクションは幅広くあるが、目標は不変だ」と強調した。

さらにフォースター氏は、サーベラスの主張する企業統治と内部統 制を重視する姿勢は、アベノミクスと連動性が高いとも主張。アベノミ クスの「第3の矢」とされる日本再興戦略では2020年までに外国企業の 直接投資残高を現在の2倍となる35兆円に拡大するとしている。

出口戦略については、長期でも上場後3年から5年程度での株式売 却を見込むとのスタンスから、会見では一転長期保持を強調した。「あ おぞら銀行では12年程度、現在でも株式を保持している」として西武 HD株をいつ売却するかは「一番いい形でわれわれの目標が達成されが かどうかをにらみ、出口戦略を取るかを決める」と述べるにとどめた。

一致団結する会社

西武HDの後藤社長は、自身の言葉で複数回グループ従業員にレタ ーを送っている。3月にはTOB反対の理由として「サーベラスの考え 方はステークホルダーの皆さまの利益、ひいては当社の中長期的な企業 価値を損なうおそれがあるためであり、また、最優先課題である『早期 にいい形での株式上場』を阻害する要因となる可能性があるため」と説 明。さらに事態に動揺することなく職務に精励するよう要望している。

西武HD広報担当者の立木幸司氏は、西武鉄道の運輸部門の責任者 から「こんな時だからこそ安全安心を第一に絶対に事故を起こさないよ うに頑張ります。現業社員にもその意識を徹底させます」とメッセージ を受けたエピソードを明かす。外資ファンドからの要求を受けて社員自 らが西武グループの結束力を高めているもようだ。

事実、平均8割を超える加盟率を誇る西武企業交通運輸関係労働組 合連絡協議会は、4月に、サーベラスのTOBについて、西武HDの考 えを支持し、一丸となり企業価値の極大化を目指すことを確認したとす る意見書を社長宛に送付。同様に、西武建設OB会も、西武HDの考え 方を支持し協力することことを確認したと表明。

痛いつまずき

西武HD傘下のプリンスホテルは17日、顧客からの指摘をきっかけ に、ザ・プリンスさくらタワー東京など4ホテル、5店舗でメニュー表 示と異なった食材を使用していた事実が社内調査の結果判明したと発 表。原因は、部門間の伝達不備と景品表示法の理解不足などとしてい る。

具体的には、国産牛ロースステーキとの表示だったが実際は豪州産 を提供、海老とホタテのちらし寿司はイタヤ貝を使用していたなど。注 文時に説明していた場合もあったとしているが、株主総会を直前に控 え、批判的な株主に経営陣のスキを突く機会を与えた格好。

サード・ポイント

過去にも欧米の投資ファンドが個別企業の株式を保有することで経 営に関与する動きは数多くあった。米投資家ブーン・ピケンズ氏 が、1989年からトヨタ自動車系列の小糸製作所の株式を26%保有し筆頭 株主として経営への介入を試みた。最終的には法廷に争いは持ち込ま れ、小糸製の勝利で終わった。この件を契機に株式の高額買い取りを要 望する「グリーンメーラー」は広く一般に知られる言葉となった。

2007年には米投資ファンド、スティール・パートナーズによるブル ドックソースへのTOB、08年には英ファンド、ザ・チルドレンズ・イ ンベストメント(TCI)が電源開発の株式9.9%を保有して経営改善 や増配を提案したなど、海外投資ファンドの積極的な動きがあった。

今年に入り、米投資ファンドのサード・ポイントが約7%のソニー の株式を保有し、エンターテインメント事業の分離上場と一部株式放出 の提案を行った。ソニーは提案を慎重に検討する姿勢を20日の株主総会 で示している。

世界48カ国で展開するコンサルティング会社の米ヘイグループの山 口周コンサルタントは、米国では投資ファンドなどが優秀なエージェン トである経営管理者を対象企業に送り込む、所謂プリンシパル=エージ ェント理論と呼ばれる手法はよくあることと指摘する。

その上で「ガバナンスを効かせるために経営陣に直接乗り込むこと も、米国では普通のことだが、日本でそれを実践してもあまりうまくい くとは思えない」との見方を示した。

対立の本質

企業の内部統制に詳しい山口利昭法律事務所の代表弁護士、山口利 昭氏は「米国では内部統制とは経営者自身をも縛る仕組みと考えられて おり、経営者の監視が含まれている」と説明した。その上でサーベラス と西武HDについて「対立の本質はガバナンスの発想の双方の行き違い から生じている」との見方を示す。

具体的には「西武側は株主の一定の意思を可能な限り経営に反映さ せるのがガバナンスと理解しているようだ。一方、サーベラス側はパフ ォーマンスが出せない経営者は排除してしまうぐらいの理解のはず」と 認識の差は大きいと語る。

--取材協力:黄恂恂、Mariko Yasu. Editors: 上野英治郎, 淡路毅

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