日本銀行は11日の金融政策決定会合 で市場で期待が高まっていた1年超の資金供給オペの導入を見送った。 「戦力の逐次投入はしない」と宣言した黒田日銀にとって、初志を貫徹 した格好だが、金融市場は失望感から円高・株安で反応しており、船出 から3カ月足らずの新生日銀にとって、今後も逆風が吹き続けそうだ。

黒田東彦総裁は異次元緩和を導入した4月4日の会見で「戦力の逐 次投入はせず、現時点で必要な政策をすべて講じた」と述べた。 SMBC日興証券の宮前耕也エコノミストは「もし今回緩和を行ってい たらそのスタンスはぶれてしまい、際限のない市場対策に追い込まれる ことになりかねなかっただろう」と指摘。「短期的な相場変動に対し、 黒田日銀が『逐次投入』路線に陥るのか、それとも動じず『初志貫徹』 するのか分水嶺の会合」だったが、結果は「初志貫徹」だったという。

もっとも、日銀の追加措置を期待していた市場は、会合の結果が判 明した直後から円高・株安が進行。12日の東京市場でもその流れは変わ っていない。このまま株が値下がりを続ければ、いずれ日銀は追加緩和 に追い込まれるとの見方も出ている。

12日午前の円相場は1ドル96円台前半の円高水準で推移。 TOPIXは1000ポイント超程度と、異次元緩和前の水準(4月3日終 値1010.43)に接近している。みずほ証券の上野泰也チーフマーケット エコノミストは「株価が緩和前日の4月3日終値を明確かつ大幅に下回 ってくれば、指数連動型上場投資信託(ETF)の買い入れ増額が決定 される可能性がにわかに高くなる」と指摘する。

見送りの背景

日銀は4月4日、2年を念頭に2%の物価安定目標の実現を目指す と表明。長期国債の保有残高を2年で倍以上に拡大する量的・質的金融 緩和を導入した。この「異次元緩和」を受けて、長期金利は乱高下。5 日に過去最低水準の0.315%に低下した後、急速な株高もあって一本調 子で上昇。5月23日には昨年4月5日以来となる1%まで上昇した。

日銀はこうした事態を受けて、数次にわたり期間1年の共通担保資 金供給オペを実施。日銀が前月29日に開いた市場参加者との意見交換会 で、一部の出席者から1年超の資金供給オペを求める声が出たのに加 え、複数のメディアが日銀が10、11日の決定会合で同オペの導入を検討 すると報じたことで、市場でにわかに期待感が高まっていた。

しかし、結果は見送り。黒田総裁は会合後の会見で「将来、必要に なったら検討する」としながらも、「今のところそういう必要性はな い」との認識を示した。黒田総裁はその背景として①足元で長期金利の ボラティリティ(変動)が低下している②白川総裁時代に枠組みが作ら れ、0.1%で最大3年まで借り入れが可能な貸出増加支援制度の1回目 の資金供給とちょうどタイミングが重なった-ことなどを挙げた。

「ちょっとずれている」

関係者によると、異次元緩和は安全資産である国債から株式などリ スク資産にシフトさせるポートフォリオ・リバランス(資産の再構成) を狙いなので、国債保有を促す長めの資金供給はそれに反するほか、2 年の資金を0.1%で供給すれば、今後2年は量的・質的金融緩和を続け ると受け取られる可能性もあるが、そのようなオペを金融市場局の裁量 で実施させてよいのか、という「授権」問題も障害になったようだ。

日銀のチーフエコノミスト的な存在である調査統計局長を2001年か ら6年以上務め、今年3月に退職した早川英男前理事(現富士通総研エ グゼクティブ・フェロー)は7日のインタビューで「長期金利が注目さ れていたタイミングであればともかく、今はそうでもない。そういう意 味でちょっとずれている」と疑問を呈していた。

戦力の逐次投入せず、という初志は貫徹した黒田日銀だが、今後も 市場からの催促の声は高まる可能性がある。バークレイズ証券の森田長 太郎チーフストラテジストは「今回の会合への市場反応は、日本のみな らずグローバル金融市場が日銀の金融融和に大きく依存しつつある構図 を鮮明に示した」と指摘。「今後1カ月間、リスク資産市場はこのイベ ントをターゲットに動くことになるだろう」とみる。

「全くそんな感じはない」物価2%実現

次回7月10、11日の会合で「経済・物価情勢の展望(展望リポー ト)」の中間評価が行われる。5月の東京都区部の消費者物価(生鮮食 品除くコアCPI)は前年同月比0.1%上昇と、マイナスの予想に反し て4年2カ月ぶりにプラスに転じた。しかし、早川氏は2年で2%の物 価上昇率が実現する可能性について「全くそんな感じはない」と語る。

宮前氏は14年度のコアCPI前年比は0.3%上昇(消費税率引き上 げの影響を除く)と予想。「日銀が展望リポートで掲げた1.4%上昇に は遠く及ばない」とした上で、日銀が物価見通しの大幅下方修正を余儀 なくされる際に「正念場を迎えるだろう」とみている。

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