金融財閥ロスチャイルド家の御曹司 ナサニエル・ロスチャイルド氏(41)は、スイスのスキーリゾート、ク ロスタースに保有するさほど大きくないシャレー(伝統的な木造家屋) スタイルの集合住宅で牛革製のソファーに腰を下ろしている。

ロスチャイルド氏は、世界中でビジネスチャンスを探し求めてい た2010年10月、「ブミ」という言葉を初めて耳にした運命の日のことを 思い出していた。ブルームバーグ・マーケッツ誌6月号が報じている。

米JPモルガン・チェースの著名バンカー、イアン・ハナム氏がロ スチャイルド氏に、インドネシアの有力財閥バクリ一族と関係のあるブ ミ・リソーシズなど石炭会社2社はどうかと提案する電子メールを送付 してきたのだ。「彼はこれまでの人生で目にした中で最高の案件だと語 っていた」とロスチャイルド氏は振り返る。

このハナム氏の提案をきっかけに、ロスチャイルド氏は役員室で繰 り広げられるバクリ一族との厄介な対立へと続くいばらの道の第一歩を 踏み出した。計画が進むにつれ、両者は電子メールのハッキングや不誠 実な行為、詐欺的行為があったなどとの応酬を繰り返すようになる。ロ スチャイルド氏も含め評判に傷がつくのは避け難い状況だった。バクリ 一族と手を結ぶ決断について「ひどい過ちを犯してしまったことを最初 に認めたのは私だ」と同氏は語る。

インドネシアの富豪サミン・タン氏(49)がバクリ一族の支援に動 きブミを実質的に支配するようになる中、投資家らにはさらに胃が痛く なるような展開があるかもしれない。投資家の多くは75%の損失を被っ ている。タン氏は上流階級のロスチャイルド氏とは全く対照的な境遇か ら億万長者になった人物だ。同氏は地方の村落出身で、15歳になるまで 自動車というものを見たことがなかった。

危険な賭け

10年7月、ロスチャイルド氏は賭けに出た。しかし、それが後々自 身を悩ませることになる。同氏は英投資会社バラーについて、7億700 万ポンド(現在の為替レートで約1100億円)規模の新規株式公開 (IPO)を実施し、ロンドン証券取引所に上場した。バラーはいわゆ る「白紙小切手会社」(買収先を決めずに投資家から資金を集めて自身 のIPOを行う企業)だった。ロスチャイルド氏の場合、バラーの IPOで集めた資金を、独立取締役会の承認を得て2年以内に鉱業資産 の取得に充てることを約束していたにすぎなかった。

バクリ一族との交渉で、ロスチャイルド氏率いるバラーは最終的に ブミ・リソーシズの株式の29%と、同一族の関連企業ベラウ・コール・ エナジーの株式の85%を取得。バクリ一族はバラーの株式の55%を取得 し、同社の名称を英ブミに変更した。

ハナム氏が連絡して来た時点で、ロスチャイルド氏はバクリ一族に ついてほとんど知らなかった。アフマド・バクリ氏は1988年に死亡し、 長男のアブリザル・バクリ氏(66)が鉄鋼とプランテーション、不動 産、情報通信の分野にわたって政治と結び付いた企業帝国を築き上げ た。

不審な取引

当初、英ブミの事業はうまくいっているかのように見えた。10年7 月のIPO時点で10ポンドだった株価は11年4月に14ポンドに上昇。し かし、石炭企業の運命は永遠に石炭価格と共にある。アジアの指標とな るオーストラリアのニューカッスル港の発電用石炭価格は11年1月に1 トン当たり138.50ドルに達した後、最大の消費国である中国の経済成長 鈍化に伴い同年9月には122ドルに下落。ブミの株価もその間に4月の ピークからほぼ30%下げた。

ロスチャイルド氏は、ブミ・リソーシズとベラウとの約10億ドル (約1000億円)相当の不審な取引に懸念を抱くようになっていたと述懐 する。同氏が全員を任命した英ブミの独立取締役会にそうした懸念を表 明したところ、取締役たちは行動するのを拒んだという。「彼らは身動 きができない状態だった」とロスチャイルド氏は語った。

関係悪化の深淵

元税理士のタン氏は、自身が経営権を握っていた石炭採掘会社ボル ネオ・ランブン・エネルギ・アンド・メタルが10年にジャカルタで IPOを実施したのに伴い、富を築いた。11年11月には英銀スタンダー ドチャータードから10億ドルを借り入れ、バクリ一族が保有するブミの 株式の半数を取得した。タン氏は今にして思えば2つの過ちを犯したと 思っている。まず「石炭価格の大幅な下落を予想していなかった」こ と、そして「バクリ一族とロスチャイルド氏との関係悪化を甘く見てい た」という点だ。

その間ずっと、ロスチャイルド氏は取締役会の支持を失い続けてい た。同氏はブミを再び支配しようとし、自身を含め腹心の取締役候補を 提案してブミの会長に就任していたタン氏をはじめ取締役のほぼ全員を 交代させようとした。

13年2月21日、ロスチャイルド氏の提案について株主投票が行わ れ、同氏の22件の提案のうち19件が否決された。ブミの最終的な運命は はっきりしないままだ。いずれにせよ差し当たり、ブミが世界的な巨大 石炭企業になるという夢は消え去った。

株主総会で敗北を喫した後、ロスチャイルド氏はクロスターズにこ もっている。朝の陽光が差し込む居間で、「私の人生は幸運に恵まれて きたが、今回は不運に見舞われたようだ」と語る。ブミが同氏のロンド ンでの資金調達能力を台無しにしたとの見方には異論を唱えつつも、次 の案件にすぐに取り組むつもりはないと語った。スマートフォン(多機 能携帯電話)「ブラックベリー」をポケットに突っ込み、スキーゲレン デに出かけて行った。

原題:Nat Rothschild Rues Terrible Mistake in Indonesia Deal Gone Sour(抜粋)

--取材協力:Jesse Riseborough、Thomas Biesheuvel.

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