ゴーン氏に試練、肝入りの電気自動車伸び悩み、世界販売も減速

経営危機にあった日産自動車を復活 させたカルロス・ゴーン最高経営責任者(CEO)が試練のときを迎え ている。ゴーン氏肝入りの電気自動車(EV)は販売が伸び悩み、主力 市場の米国や中国の販売は昨年来、苦戦している。

EV開発に約5000億円を投じたゴーン氏は2009年9月、世界の自動 車市場で20年までにEVが10%に達すると予想した。だが、日産自にと って最大市場の米国でEV「リーフ」の販売は昨年、目標の半数以下 の9600台にとどまった。

てこ入れを図る日産自は4月から、志賀俊之最高執行責任者 (COO)が新たにゼロ・エミッションビークル企画・戦略などEV関 連事業を統括する。広報担当のクリス・キーフ氏によると、EV事業を 最重要課題と考えているため。ゴーン氏は昨年末の新年向けインタビュ ーで、EV販売を推進して、二酸化炭素や排出ガスを出さないゼロ・エ ミッションのリーダーであり続けると決意を示していた。

みずほ投信投資顧問の青木隆シニアファンドマネジャーは、ゴーン 氏について「目標数字を達成するコミットメント経営は信頼感が厚かっ たが、その信頼感が低下している」と述べた。同時に「投資家が一番気 にするのは利益の数字だ。ゴーン氏が確実に利益を達成するのであれば EVは急ぐ課題ではない」と指摘した。

日産自が日米を皮切りにリーフを投入したのは10年12月で、当時の 国内価格は376万4250円から。追浜工場(横須賀市)では年間5万台の 生産能力を整備し、バッテリーは座間事業所(神奈川県)のほか、米英 仏、ポルトガルなどで計50万基の生産体制にする計画だった。しかし、 今年2月までリーフの累計販売は約5万台にとどまった。11年にはフラ ンスとポルトガルでバッテリー工場の計画を中止している。

走行距離と充電時間

都内在住の獣医、柴籐徳洋さんは環境技術に関心が高く、リーフ発 売直後に試乗した。低重心で加速がよく、エンジン音のない静かさが気 に入った。以来ほぼ毎月、リーフをレンタルするが、買う決断には至ら なかった。「1回の充電で走る距離と充電時間」が問題だった。

往復100キロメートル程度の移動なら急速充電場所を把握していれ ば不安はない。ところが昨年、往復1200キロの距離をリーフで移動した とき、往路は100キロごとに30分かけて充電を繰り返したが、復路は夜 間で急速充電場所が閉鎖されて充電できず、機械音声が「目的地に到達 できません」と繰り返し始めた。柴籐さんは高速道路で違反ギリギリの 時速50キロメートルで運転し自宅にたどりついた。

結局、柴籐さんはダイハツ工業の天然ガス車「ハイゼット」を購入 した。燃料充てんが3分程度で可能なのがリーフとの違いだ。日産自は 昨年11月、車両をマイナーチェンジして最低価格が334万9500円の低価 格版を設定した。

EVへの傾注が早すぎた

中国国家発展改革委員会は15日、日産自が広東省でリーフを生産す る可能性があると声明で明らかにした。約309億円の投資で、15年には 年間5万台の生産能力となる見通しとしている。日産自・広報担当者シ ャロン・シェン氏(北京在勤)は、発改委の声明について今はコメント できないと述べた。

ブルームバーグ・ニューエナジー・ファイナンス(BNEF)によ ると、プラグインハイブリッド車を含むEVの13年の世界販売は前年 比89%増の22万5000台に達する見込みだが、これまで自動車メーカーが 見込んでいた需要の約3分の1にすぎない。

BNEF予測で20年の世界販売に占めるEV比率は、最大市場の米 国で5%程度、フランスやイタリアは2%と、ゴーン氏の掲げた10%に は届かない見込み。英投資会社GAMのファンドマネージャー、ベン・ ウイリアムス氏は「日産自はEVに傾注するタイミングが早過ぎた。充 電設備が整備されていないのに販売目標が挑戦的過ぎた」と指摘した。

業績減速

投資家がより注視しているのは業績の減速だ。11年6月に公表した 日産自の16年度までの中期経営計画では、世界市場占有率を10年度 の5.8%から8%に、売上高営業利益率を同6.1%から8%に引き上げる 目標を掲げた。しかし、中国で昨年起きた反日運動などで12年の中国販 売は前年比5.3%減となり、12年4-12月の売上高利益率は5.2%にとど まった。昨年度は5.8%だった。

米国では新車投入したにもかかわらず、昨年4-12月の市場占有率 が0.4ポイント下がった。新型アルティマの生産開始に際しては部品供 給や他車種の生産ライン移管などで混乱が生じ、同期の生産コスト上昇 分297億円のうち半分程度がこの混乱だった。

日産自の田川丈二執行役員は2月、中期計画について「まだ目標と する実績を挙げるに至っていない」と述べた。中国や米国での販売が想 定を下回っているためだ。

アドバンストリサーチジャパンの遠藤功治アナリストは「日産自は 長年の拡大の金属疲労が起きている状態」と指摘し、これをどう修正す るかでゴーン氏の経営手腕があらためて問われると語った。日産自が中 国のみならず、タイ、インド、ロシア、ブラジルなどあらゆる地域で急 拡大を推進し、コストが積み上がっているのに対し、それに見合う「良 い車」を投入できてないのが一番の問題点だと語った。

業績後退は一時的との見方

日産自は北米で中型セダン「アルティマ」、小型セダン「セント ラ」、多目的スポーツ車「パスファインダー」などを新たに投入してい るが、田川執行役員は2月、こうした新型車が貢献し始めるのは13年1 -3月からだと述べた。

BNPパリバ証券の杉本浩一アナリストは、日産自の業績後退を一 時的とみている。北米で生産混乱など問題があったことは間違いない が、今後どう経営に生かしていくかを注目したいと述べた。

EVについて、杉本氏は「ゴーン氏が普及のリーダーシップをとる と言ったのを覆さないのは好印象」と指摘。一方、「経営者は利益を問 われるもの」であり、EVが売れないのであれば投資計画の修正や、燃 料電池やハイブリッド車への対応など顧客ニーズに合わせた戦略の展開 を期待すると述べた。

ゴーン氏は99年、収益が悪化していた日産自の経営再建に乗り出 し、99年度に6844億円の赤字だったが、1年後に3311億円の黒字に転換 した。

日産自は今年2月、中国で新型セダン「ティアナ」を発表したほ か、6月には三菱自動車と共同開発した軽自動車を発売し、国内で拡大 する軽自動車市場に攻勢をかける計画だ。

富国生命投資顧問の桜井祐記社長は、投資家からみた日産自につい て「アトラクティブにはみえない」と述べた。「いろいろなところに種 を蒔いているが芽が出るまでには時間がかかり、その間、何に注力して いるのかがみえてこない」と指摘。世界で政治的交渉を進められるゴー ン氏がトップにいるのだから、魅力あるところをもっと前面に出してほ しいと語った。

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