白川日銀総裁:期待への働き掛けには「危うさ感じる」-退任会見

日本銀行の白川方明総裁は19日午 後、退任会見を行い、5年間の任期について「一言で言うと、激動の5 年間だった」と述べた。20日から発足する新体制については「物価安定 の下での持続的成長を実現するよう、適切な政策運営がなされることを 期待している」と表明。一方で、市場の期待に働き掛ける金融政策運営 については「危うさを感じる」との持論をあらためて展開した。

20日に総裁に就任する黒田東彦氏は先に衆院で行われた所信聴取で 「金利引き下げの余地が乏しい現状では、市場の期待に働き掛けること が不可欠だ。もし私が総裁に選任されれば、市場とのコミュニケーショ ンを通じて、デフレ脱却に向けてやれることは何でもやるという姿勢を 明確に打ち出していきたい」と表明した。

白川総裁は「市場とどう向き合うのかというテーマは非常に重たい 課題だ」と指摘。「もちろん市場は中央銀行のコミュニケーションの重 要な相手だが、市場参加者にとって望ましいことが、長い目で見た経済 の安定にとって望ましいことと、必ずしも一致するわけではないと感じ ている」と述べた。

その上で「期待に働き掛けるという言葉が、中央銀行が言葉によっ て、市場を思い通りに動かすという意味であるとすれば、そうした市場 観、あるいは政策観には危うさを感じる」と語った。

物価だけ上がればよいわけではない

景気の現状に関しては「海外経済が持ち直しの兆しを見せ、またグ ローバルな金融市場でもリスク回避姿勢が後退するなかで円安や株高が 進行し、マインドも改善傾向にある。何よりも競争力と成長力の強化に 向けた議論が始まりつつある」と指摘。新体制に対して「せっかくのチ ャンスなので、是非ともこれを生かし、日本経済が物価安定の下での持 続的成長を実現するよう、適切な政策運営がなされることを期待してい る」と語った。

2%の物価目標に関連して、「われわれが実現したいことは、単に 物価が上がればよいということではなく、デフレから早期に脱却し、物 価安定の下での持続的成長を実現することだ」と言明。「物価が2%上 がり、給料も同率上がるだけでは、国民の生活水準が向上するわけでは ない。物価が上がり、円の為替レートが同率で円安化しても、対外競争 力が高まるわけではない」とし、「物価上昇の下では歳入も増えるが、 歳出も増えるので、財政バランスの改善効果も限定的だ」と述べた。

その上で「実現したいことは、実質経済成長率、人口減少社会では 1人当たり実質GDPやGNI(国民総所得)成長率になるかもしれな いが、これらが高まり、その結果として物価上昇率が高まっていくとい う姿だ」と語った。

また、消費者物価指数(生鮮食品を除いたコアCPI)の前年比上 昇率について「消費税率引き上げの影響を除いてみても、2014年度中の 平均はプラス0.9%と、同年度の後半には1%に達する可能性が開けつ つある」と述べた。

貨幣だけですべては説明できない

デフレは貨幣的現象か、あるいはデフレの原因は何かという質問に 対しては「ある意味でこれは5年間ずっと付いて回った問いだ。どのよ うな経済活動もすべてお金を必要とするという意味では、すべての経済 活動は貨幣的現象と言えるが、だからと言って、すべての経済現象を貨 幣だけで説明できるわけではない」と指摘。

さらに、「仮にこの命題を、中央銀行が供給する通貨、いわゆるマ ネタリーベースを増加すれば物価が上がると解釈すると、過去の日本の 数字、あるいは近年の欧米の数字が示すように、マネタリーベースと物 価との関係とのリンクは断ち切れている」と語った。

その上で「デフレを克服する上で中央銀行の強力な金融政策が必要 ないのかというと、もちろん必要だが、同時に、現在日本が置かれた状 況を考えると、競争力・成長力強化に向けた幅広い主体の取り組みが不 可欠だ」と述べた。

市場との対話

市場とのコミュニケーションが足りなかったのではないか、という 質問に対しては「異例の事態の下で政策を展開していく上では、政策の 背後にある経済情勢についての判断について丁寧に説明する、政策意図 を丁寧に説明するとともに、ありうべき効果とコストについても丁寧に 説明する必要がある、それこそが独立した中央銀行としての誠実な対応 であるという思いで対応した」と語った。

その上で「もちろん、効果だけあってコストやリスクがないという 政策があれば理想的だが、残念ながらそういう政策はない。金利水準が 極めて低く、中央銀行のバランスシートも著しく拡大し、財政状況も非 常に厳しいという現在の日本の状況では、効果とコストの比較衡量とい う視点は重要だ」と言明。「過去の経験が示すように、コストやリスク が顕在化するのはずっと後になってからであり、いったん顕在化した場 合は、その影響は大きくかつ長く持続する」と語った。

5年間の任期中は「リーマンショック、欧州債務危機、東日本大震 災、2回の政権交代と、めったには起きないことが次から次へと起き た」と指摘。「その下で急速な円高の進行をはじめ、経済・金融も当然 大きな影響を受けた」と述べた。

総裁時代を含め39年間の日銀在職期間については「中央銀行の仕事 は奥深い。大変恵まれた職業人生だった」と述べた。退任後については 「明日からはまったく自由の身になるので、趣味のバードウオッチング を含めてゆっくりしたい」と表明。生まれ変わっても再び日銀総裁をや りたいかという問いに対しては「そんなふうには思っていない。人生は それぞれチャレンジのしがいのあることがたくさんあるのだろうと思っ ている」と語った。

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