「違う人生を生きたい」、投資銀行の知識をカンボジア振興に

日没直前、アンコール・トムを囲む 環濠に停泊するボートでブース氏はジントニックをすすっている。クメ ール帝国(802-1431年)が築いた都市のひとつアンコール・トムはユ ネスコの世界遺産に指定されているアンコール遺跡の一部。中でもアン コールワットは最も有名な観光名所で年間200万人が訪れる。

アンコール・トムの中心バイヨン寺院からの日没を見ようと、何千 人もの観光客は寺院の階段を上り始める。そのころ空を映した濠の水面 に映るのは筆者とブース氏だけだ。巨大な仏頭の門を過ぎて数百メート ル、ボートを降りて土手を上ると沖積平野が見える。

ブース氏(48)は2002年、ロンドンの投資銀行で15年間にわたって 築いたキャリアに終止符を打った。今は「人混みのないアンコール」を 売り物に、非営利団体のツアー会社アバウトアジアを運営する。アバウ トアジアの顧客の大半は西欧からの旅行者で、ここでしか体験できない ツアーを目当てにやってくる。豪華なスイートルームやヘリコプターを 使った寺院めぐりは彼らに必要ない。ツアー価格は5日間で1人525ド ルから(約5万円、航空運賃は別途)。個人ツアーガイド付きで4つ星 ホテルの宿泊代も含まれている。

貧困と将来性のギャップに衝撃

ブース氏の目標は利益ではなく、社会奉仕だ。カンボジアの教育省 が学生1人あたりにかける費用は年間で3ドルに満たない。都市部を除 いて学校では教科書やトイレといった必需品や設備が不足している。ア バウトアジアの従業員34人に給料を支払ったら、それ以外のすべての利 益はカンボジア国内100校、5万3000人の学生の支援に充当される。ブ ース氏自身は一切、給料を受け取っていない。同氏は「私の目標は支援 する学生数を25万人まで拡大することだ」と語った。

ブース氏は若い頃に金融の専門知識を磨き、一時はABNアムロ銀 行で年間200万ポンド(約2億8700万円)とボーナスを稼いだ。その 後、2002年に失職するとイタリア人の妻と2歳の息子を連れ、貯めてい た航空会社のマイレージを使って世界旅行に出かけた。そしてロンドン のベビーシッターの奨めで訪れたのがカンボジアのシェムリアップだっ た。

カンボジアの田舎で現地の人の温かさに触れた同氏は、そこで暮ら す人たちの貧困と観光の将来性のギャップに衝撃を受けた。それだけで なく、現地の観光産業の汚れた部分も目にした。何よりも観光客の大半 は「カンボジア国外の旅行会社にツアー料金を支払って、カンボジア国 内では実質的にまったく金を使わない」と指摘する。

10年ごとに新しいことに挑戦

この場所なら自分のビジネススキルを活かした貢献ができるかもし れないと気づいたとき、ブース氏は大きなキャリア転換に踏み切った。 同氏は「一生のうちにいくつか違った人生を経験するために」、だいた い10年ごと新しいことに挑戦すると話した。カンボジア国内でのベンチ ャー事業が短命に終わった後、シェムリアップにある3つ星ホテルの一 室でアバウトアジアが設立されたのは2007年だった。

原題:AboutAsia Gets You to Centuries-Old Angkor Wat Without Mad Crowd(抜粋)

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