黒田東彦氏の原点は英オックスフォード大の地下講義室

1970年代初め、英オックスフォード 大学オール・ソウルズ・カレッジの地下にあった質素な装飾の小部屋 で、少数のエリート大学院生を対象に極めて高度な内容の経済学講義が 行われた。

教べんを取っていたノーベル経済学賞受賞者のジョン・ヒックス氏 は学生らから恐れられていたが、同時にその素晴らしい講義で学生らを 魅了した。出席していた大学院生16人のうち少なくとも11人がその後エ コノミストとなった。その1人が次期日銀総裁に就任する黒田東彦アジ ア開発銀行(ADB)総裁だ。

黒田氏(68)と15年余り親交があるADB研究所の河合正弘所長は 「オックスフォード時代が黒田氏に大きな影響を及ぼした」とした上 で、「恩師らのことをよく語っていた」と述べた。

オックスフォードでの経験は黒田氏に現総裁の白川方明氏とは異な る信念を植え付けた。15年間続いたデフレからの脱却を掲げて日銀に乗 り込む黒田氏に対して、白川氏はシカゴ大学大学院に留学、低インフレ と中銀の規律を重んじる故ミルトン・フリードマン氏の薫陶を受けた。 元英中銀金融政策委員会(MPC)委員のアダム・ポーゼン氏は歴代日 銀総裁の「受動攻撃的」政策がデフレ長期化の要因になったと指摘。黒 田氏の総裁就任で改善されると予想する。

恩師たち

黒田氏のオックスフォード時代の恩師であるロビン・マシューズ氏 やノーベル経済学賞受賞者ジェームズ・マーリーズ氏は、自分の頭で考 えるよう学生を指導していたと、当時の学生らは振り返る。黒田氏の1 年前に経済学修士号を取得した英ルウェリン・コンサルティングのパー トナー、ジョン・ルウェリン氏は、それは「独善を排す」ということだ ったと説明する。当時、黒田氏を指導したリチャード・スメサースト氏 は、黒田氏は「本当に極めて優秀な学生だったので、中銀総裁という重 要な役職に就いても全く驚かない」と電子メールで述べた。

オックスフォードの校風は飽くなき読書欲を持つ黒田氏にぴったり だったようだ。大蔵省(現在の財務省)時代に黒田氏の下で働いた経験 がある有吉章・一橋大学教授はインタビューで、「黒田氏は経済学、数 学、哲学関連の書物を読みあさっていた」と当時を振り返った。

黒田氏は経済学者の故アービング・フィッシャー氏の考え方を信奉 しており、デフレリスクに関するフィッシャー氏の学説を基に紙幣増刷 によるリフレの有効性を信じるようになった。

黒田氏が財務官に就任する8年前まで同職を務めていた内海孚氏は インタビューで、「黒田氏は物価は金融政策によってすべて決まると固 く信じている」とした上で、「安倍晋三首相の下で選ばれる人物でこれ ほどの適任者はいない」と指摘した。

「懲りた懲りた」

内海氏はまた黒田氏の別の一面について、長野県の標高1500メート ルぐらいの山に一緒に上った後、「懲りた懲りた」と言っていたので 「あまりスポーツマンタイプではないのかも」と語った。

黒田氏の前に財務官を務め「ミスター円」の異名を取った榊原英資 氏は、アジア危機の際に黒田氏と共にタイやインドネシアなどを訪れた 時のことを振り返り、「飛行機の中で私はワインを飲んで仮眠を取って いたが黒田氏はいつも何かを読んでいた」とした上で、「酒を飲んだり とかおしゃべりは時間の無駄で、読書の方が良いと考えていたようだ」 と語った。

一方、黒田氏と東京教育大(現筑波大学)附属駒場高校で同窓の伊 藤隆敏東京大学教授は、「黒田氏に高校図書館の本を全部読んだという のは本当かとたずねたことがあるが、それは事実ではないが科学関係の 文献はほとんど読破したとのことだった」と電子メールでエピソードを 披露した。

原題:Kuroda Brings Oxford Mindset to BOJ After Shirakawa Chicago View (抜粋)

--取材協力:Shamim Adam.

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