悲哀の5段階踏む大震災後の日本、成長戦略に危うさ-ペセック

マグニチュード9の巨大地震と大津 波が東日本を襲った大震災から2年。精神科医エリザベス・キューブラ ー・ロスの悲哀に関する研究に思いが及んだ。

キューブラー・ロスの1969年の著書「On Death and Dying(邦題: 死ぬ瞬間)」に記された悲哀の5段階は、大震災で日本の原子力発電所 と自然の関係が永久に変わったこの2年間に日本人の心理がどう変遷し たかを理解する上でうってつけだ。

私がキューブラー・ロスを初めて知ったのはニューヨークで死別カ ウンセラーを務める母からだ。90年代にキューブラー・ロスと時折、情 報交換していたという母によれば、キューブラー・ロスは「死をクロー ゼットから取り出して」、多くの末期患者の不安を和らげたという。

大震災から2年の間に私は、日本も末期患者と同じように否認、怒 り、取引、抑うつ、受容という死を受け入れるまでの悲哀の5段階をた どっているのではないかと感じた。

否認という段階は、2011年3月11日の大震災の数日後に訪れた。一 部では41メートルに上る大津波が町全体をのみ込み、東京から135マイ ル(約217キロ)にある福島第一原子力発電所の施設にも大打撃を与え た。原発から放射性物質が漏れたが、政府は日本国民に全て大丈夫だと 断言。怠慢によってチェルノブイリ原発事故後で最悪の惨事を招いた東 京電力は危機の重大性を公表しなかった。

怒り

首都東京を失いかねない状況にあるとの報道が相次ぐ中、次に来た のは怒りだった。福島原発がメルトダウン(炉心溶融)して、東京が滅 亡の危機一歩手前だったことを知らされた。東北地方の被災者が悲惨な 状況に置かれ、復興作業は遅々として進まないことに、国中が強い怒り を覚えた。

そうした中で日本人は変化を求めた。指導者に一層の透明性を求 め、20年にわたり惰性で進んできた国政の改革を望んだ。東電幹部を刑 務所に送って官僚の解雇を望む声も上がった。こうした怒りは1960年代 以降最大の街頭デモにつながった。

その後日本人は、神と取引しても新時代への変化は期待できないこ とに気付いた。原発に代わる代替電力源を探し、東北地方を再建するこ とは望み薄で、政治家は目が覚めてすべては悪夢だった信じるほうがま しだと思ったほどだ。仮設住宅や放射性物質に汚染された学校、復興予 算の浪費に関して頻繁には報道されなくなった。

大震災から1年を迎えるまでは、ほとんど変化がないことが明らか になり、抑うつの段階が来た。日本の軌道修正からは程遠い現状は、日 本の政治・社会の強い硬直性を浮き彫りにした。地震や中国の汚染、北 朝鮮の脅威という日本が直面するリスクの多くは制御不能であることを 思い知らせるものでもあった。有権者は幻滅し、総選挙では自民党政権 を復活させる道を選んだ。

受容

2006-07年の在任中に辛酸をなめた安倍晋三氏が再登板した今は受 容の段階だ。2年前に運転停止となった50余りの原発を安倍首相が再び 稼働させることを有権者は覚悟しているかのようだ。「ショウガナ イ」、つまり運命を受け入れて耐え忍ぶしかない時期と呼べよう。

今のところ、日本再生の期待で日経平均株価は急上昇し、日本経済 は再び世界の注目を浴びている。だが「アベノミクス」をめぐる楽観論 は大部分が海外の現象だ。国民は選挙で自民党を選んだが、安倍首相を 長年待望された救国者と見る人は少ない。

だからこそ今のような耐え忍ぶ段階は非常に気掛かりだ。デフレか ら脱却するには、これから5年後に物価が著しく上昇すると投資家や企 業、消費者を確信させる以外に道はない。安倍首相が財政刺激策を拡大 し、日銀が近く新指導部を迎えることは結構なことだが、所詮は信頼感 の問題だ。信認を得るには疲弊した経済に大量の資金を投入する以上の 策が必要だ。

白紙小切手

アベノミクスは新しい経済政策のように見えるかもしれない。だ が、実際にはマーケティング戦略にすぎない。その効果は円の大幅下落 と輸出業者の円安歓迎論に早々と表われているとはいえ、安倍首相は国 の借金を原動力にした旧態依然の成長戦略を踏襲しているだけで、自ら 受容プロセスのわなにはまっている。

安倍首相は規制緩和や企業統治の改善に取り組み、東電を機能不全 にした政府と企業の密接な関係を断絶し、次の大地震までにより安全な エネルギー源を探し出さなければ、日本の資産バブルを再発させるだけ に終わろう。

日本人が安倍首相に白紙小切手を振り出し、深い傷を負った国の立 て直しを任せているなら危険だ。賢明で大きな視点で目標を定めた計画 を打ち出さなければ、結局は悲哀の新たなサイクルが発生しかねない。 (ウィリアム・ペセック)

(ペセック氏はブルームバーグ・ビューのコラムニストです。この コラムの内容は同氏自身の見解です)

原題:Grief’s Five Stages Explain Post-Quake Japan: William Pesek(抜粋)

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