【コラム】ゴールドマン、モラルの王として君臨を-コーハン

皆が欲しがるマネジングディレクタ ーの肩書を毎年ではなく2年に1回付与することにしたゴールドマン・ サックス・グループの決定は、ニューヨーク本社のバイスプレジデント たちに激震をもたらしたことだろう。しかし世界や、ゴールドマン以外 のウォール街にとって何かが変わったということはない。

ロイド・ブランクファイン最高経営責任者(CEO)は本当に業界 に活を入れたいと思うなら、ウォール街の群れからもっと距離を置き、 リーダーらしく振る舞うべきだ。慎重にリスクを取る人に報い、愚かな リスクを取る者を罰する報酬システムへの改革を率先して行ってもらい たい。

私はそういうシステムを2年以上も前に提案した。旧来のパートナ ー制度の下でのインセンティブやリスク管理習慣に戻るのが最良だろ う。パートナーたちは自分の金を賭けていたし、税引き前利益が出なけ れば取り分はなかった。これと比べると信じられないことだが、現在の 報酬システムは巨額ボーナスを期待して他人の金で巨大なリスクを取る バンカーやトレーダー、経営幹部に、常に報い続ける。

現行システムはウォール街で働く人々を大金持ちにする一方、社会 には次々と金融危機をもたらした。このシステムは金融業界の人間に悪 行・愚行の責任を取らせようとしない。ウォール街は預金者や取引相手 方、債権者、株主の金でリスクを取ったことで報酬を受け取り続ける一 方で、賭けが失敗したときの責任はほとんど問われずに済まされ る。2008、09年の経験の後、報酬システムは危機の再来を防ぐように変 革されたと思うのが常識だが、実際はそうではない。

非ウォール街にとっては迷惑

バンカーのボーナスを固定給の2倍までに制限する欧州連合( EU)の計画など、業界に正気を取り戻させる試みは失敗に終わる運命 だ。バンカーらは既に、ボーナスが元通りの水準を維持できるところま で基本給を上げるという極めて賢い方法を考えついている。

ウォール街の報酬システムは危機以降、事実上何も変わっていない し、バンカーらの行動を実際に変えるようなシステム改革を呼び掛ける 声すらない。バンカーとトレーダー、経営陣は依然として、他人の金で リスクを取ることによって高報酬を得ている。このところの傾向ではウ ォール街の収入の40-50%が報酬・ボーナスに消える。ウォール街で働 く人にはいいだろうが、そうでない人には迷惑な話だ。

今こそゴールドマンが真のリーダーシップを発揮するチャンスだ。 同社は1999年5月に株式を公開。ウォール街でパートナーシップから公 開企業に転身した最後の企業として、かつての文化の名残をどこよりも 色濃く残している。ゴールドマンの最上級幹部は期末に税引き前利益が 出ていた場合にのみ、報酬を受け取る。同社従業員3万2600人中450人 余りを対象としたこの制度はもちろん、慎重なリスクテークと利益に対 して彼らを極めて敏感にする。

昔かたぎならではのリーダー

ゴールドマンは旧来のパートナーシップ精神の名残を土台に、業績 悪化や巨額損失の場合には経営陣の資産を債権者と株主が差し押さえる ことが可能になるよう、制度を整備するべきだ。

08年9月にリーマン・ブラザーズ・ホールディングスが破綻(はた ん)した時にそのような仕組みがあったなら、債権者らはリーマンのバ ンカーやトレーダー、経営陣が貯め込んだ資産-マンハッタンの集合住 宅やハンプトンズの海辺の別荘、米国債や美術品を押さえて数十億ドル を取り戻すことができただろう。

実際、そのような仕組みが同社破綻の何年か前に既にあったなら、 リーマンは今も存続していただろう。リチャード・ファルド会長(当 時)とその補佐役らはもっと慎重になり、自社が取っているリスクにつ いて時間をかけて分析しただろう。ゴールドマンは06年の遅い時期にこ の分析をした結果、住宅ローン関連商品をショートにして競合他社の愚 かさから利益を上げる戦略を立てることができた。

腐った報酬システム

ウォール街は深刻なリーダーシップ不在の問題を抱えている。ゴー ルドマンがそんなに賢明なら、この欠落を埋めてほしい。最上級幹部が 会社に利益が出た時しか報酬を受け取らず、悪い状況の時には金銭的に 責任を負うことを債権者と株主、顧客、取引相手方に対して表明すれ ば、ウォール街に対する米国民の信頼を回復させる大きな一歩となるだ ろう。さらに、この25年間、自ら招いた金融危機の繰り返しと過剰報酬 を当然とするバンカーやトレーダー、経営陣しか生み出さなかった腐敗 した報酬システムを打ち倒す一撃になり得る。

ゴールドマンが望ましい報酬システムを導入すれば、ウォール街の 他の真面目なプレーヤーらが追随することを私は保証できる。脆弱(ぜ いじゃく)な金融システムが今よりはるかに安全になることも確実だ。 (ウィリアム・D・コーハン)

(ウィリアム・D・コーハン氏は「Money and Power: How Goldman Sachs Came to Rule the World(マネー・アンド・パワー:ゴールドマ ンはいかにして世界の支配者になったか)」の作者で元バンカー、ブル ームバーグ・ビューのコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身 の見解です)

原題:Goldman Can Also Be Wall Street’s Moral Leader: William D. Cohan(抜粋)

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