安倍首相:日銀人事決着方向で政権に弾み-TPP交渉も近く判断

安倍晋三政権が国会に提示した日本 銀行総裁に黒田東彦アジア開発銀行(ADB)総裁を充てるなどの日銀 人事案は今週中にも衆参両院本会議で可決され、決着する方向となって いる。夏の参院選を前に政権運営にも弾みがつきそうで、首相は環太平 洋連携協定(TPP)交渉参加についても近く判断する構えだ。

首相は5日の衆院本会議で、日銀正副総裁人事について「私自ら候 補者本人と私の金融政策、経済政策の考え方について意見交換を行い、 最適任の方々として国会に提示した」と指摘。正副総裁候補の3人が国 会で承認されて日銀が大胆な金融緩和を行っていくことへの期待感も示 した。

安倍政権が提示した人事案のうち、黒田総裁案と日銀理事の中曽宏 副総裁案に関しては民主党内で容認論が拡大。岩田規久男学習院大学教 授を副総裁に充てる案には民主党内で反対論が出ているが、みんなの党 や新党改革、一部無所属議員などは賛成に回る方針で、結果的に3人と も承認される公算だ。

コロンビア大学のジェラルド・カーチス教授は、日銀人事が決着す れば、安倍首相の掲げるインフレ目標政策とその政治手法にとって大き な勝利となるとの見解を示す。同氏は自民党が参院選で勝利すれば、次 は構造改革など本当に厳しいテーマにどう取り組むかが課題になると指 摘する。

これに対し、昨年9月の自民党総裁選で安倍首相を支持した柴山昌 彦衆院議員(総務副大臣)は8日のインタビューで、参院選までは党改 革や政治制度改革などに取り組む必要性を強調。参院選を乗り切った後 は「消費税率の引き上げ、歳出の削減、規制改革など、いよいよ厳しい 政策に取り組まなくてはいけない」との認識を明らかにした。

支持率

安倍内閣の支持率は2月23、24両日に共同通信が実施した世論調査 で、1月調査から6・1ポイント増の72.8%に上昇。8日の日経平均株 価は1万2283円62銭で引け、米証券リーマン・ブラザーズ破綻前夜 の2008年9月12日の終値1万2214円を上回った。野田佳彦前首相が昨 年11月14日に衆院解散を宣言した時点では79円台にあったドル・円相場 も11日、1ドル=96円台にまで円が売られている。

野党第一党である民主党の党勢低迷と野党の足並みの乱れも安倍政 権に有利に働いている。民主党では2月に参院議員2人が離党届を提 出。2012年度補正予算の採決ではこのうちの1人や「日本維新の会」な どが賛成に回り、1票差で可決するという劇的な展開となった。日銀正 副総裁人事では黒田、中曽両氏に民主党が、岩田氏にみんなの党などが 賛成に回る見通しで、野党の対応が異なりそうだ。

空席回避

民主党の細野豪志幹事長は5日の記者会見で、衆院での黒田日銀総 裁候補の所信聴取について「非常に落ち着いて答弁をされていた。そう いった意味では安定感はある人かな、というそんな印象は受けた」と評 価。11日に行われた参院議院運営委員会での所信聴取で質問した同党の 尾立源幸参院議員は記者団に対し、「真摯(しんし)にお答えになって いる」と語った。

海江田万里代表はこれまで日銀総裁の空席を回避する姿勢を示して おり、武藤敏郎元財務事務次官を総裁に充てるなど財務省OBを起用す る人事案に次々と反対し、結果として一時、総裁が空席になる事態を招 いた08年とは違う対応を見せている。

日銀理事の中曽氏に対しては、衆院での所信質疑で質問した民主党 の津村啓介衆院議員が問題ないとの認識を示している。同党は08年の人 事でも白川方明総裁ら日銀職員出身者の起用には賛成しており、今回も 表立った異論は出ていない。

リフレ派

積極的な金融緩和で物価上昇を起こそうとする「リフレ派」の代表 的な経済学者として知られる岩田氏については、津村氏が反対を表明。 桜井充政調会長は6日の会見で名指しこそ避けたものの、「極端なリフ レ派はいかがなものか」と指摘した。

ただ、「みんなの党」や新党改革は岩田氏に賛成する方針。物価目 標や日銀法改正など「リフレ派」的な政策を掲げている維新の会や、安 倍政権に協力的な無所属議員の一部も賛成に回る可能性が高く、民主党 が反対しても同意される公算だ。

首相が近く判断する方針を示しているのはTPP交渉参加問題だ。 自民党は昨年の衆院選で「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉 参加に反対する方針を示していた。

流れが変わったのは2月のオバマ米大統領との日米首脳会談だ。直 後に発表した共同声明は、「TPP交渉参加に際し、一方的に全ての関 税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではない ことを確認する」と明記。安倍首相は記者会見で「大統領との議論を踏 まえ、私は聖域なき関税撤廃が前提ではないとの認識に立った」と言明 したことで交渉参加に向けた動きが加速した。

TPP

安倍首相は7日午後の衆院予算委員会で、TPP交渉参加について 「戦略的に日米がしっかりとタッグを組んで世界に広がっていく自由貿 易圏のルール作りを行っていくという意義、意味、またメリットはあ る」とその利点を強調。西村康稔内閣府副大臣は9日のフォーラムで、 TPP交渉について「個人的には参加をすべきだと思っている」と明言 した。

ただ、全国農業協同組合中央会(JA全中)は1日、政府がTPP 交渉が「聖域なき関税撤廃が前提ではない」という認識に立つのなら、 米、麦、牛肉、乳製品、甘味資源作物など農業における重要品目の除外 を「必ず実現しなければならない」と要求する文書を政府に提出。農村 部出身議員からもTPPへの警戒は根強くある。

前出の柴山氏はTPPに関して「特に地方を中心として懸念が大変 大きい」と認めた上で、「安倍政権としては前に進まざるを得ない状況 だ。あとは党でしっかりとそれをチェックできる仕組みを作るとともに プロセスを丁寧に踏んでいくこと、国民に対する説明責任を丁寧にして いくことだ」と指摘している。

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE