渋沢栄一なら「先手打て」、子孫が憂う日本取引所の船出

国内の2大証券取引所が経営統合し て新たに船出したこの2カ月、安倍政権を評価する株高の恩恵で日本取 引所グループ(JPX)の経営は順風だった。しかし、明治時代に日本 の取引所設立に尽力した渋沢栄一なら、市場間の国際競争が激しい折、 新会社に厳しく助言しようとその子孫は先祖の気持ちを思いやる。

栄一から数え5代目に当たるコモンズ投信の渋沢健会長はブルーム バーグ・ニュースの取材で、「東京証券取引所と大阪証券取引所の合併 は、どうすればグローバル水準の取引所にできるかという点で、134年 前に設立された時と状況は変わらない」と指摘。合併で危機感が薄れ、 経営判断が遅くなると効果は半減するとし、「株式取引だけでなく、経 営もスピードを持って先手を打たないといけない」と述べた。

日本取引所の斉藤惇グループ最高経営責任者(CEO)は2月、訪 問先のロンドンでブルームバーグの取材に応じ、海外取引所との提携、 合併の交渉用意があることを明らかにした。斉藤氏は事業の幅が広く、 大きな市場シェアを持つ取引所からの提案を待っているとし、魅力的な 取引所から打診があれば、交渉する用意があると言及。ただ、話し合い はまだ行われておらず、合意に至るかどうかは確実でないとする。

世界的な取引所再編やアジア新興国が台頭する中、日本市場の先行 きに危機感を抱き、旧東証グループと大証は2011年11月22日に統合を発 表。1年余りの準備期間を経て、ことし1月に上場企業の日本取引所と してスタートした。

最近の相場反転で日経平均株価はリーマン危機直後の08年9月以来 の水準に戻し、東証1部の売買高も2月7日に51億株と史上2番目の多 さを記録。大証の2月のデリバティブ取引高は過去3番目となり、昨年 末以降の売買盛況は日本取引所の業績押し上げに一役買っている。

成長に挑んだ「資本主義の父」

コモンズの渋沢会長は、安倍政権の経済政策「アベノミクス」を評 価した株高、売買増加を受け「このままでいいのではないかという空気 がもし広がると、それは間違っている」と強調。足踏みすれば自らの価 値としてオファーできるものが小さくなるとし、栄一なら「悠長に待つ のではなく、どうすれば競争力を付けられるか、積極的に動くべきと言 ったと思う」と話した。

明治維新から間もない1878年、渋沢栄一らが東証前身の東京株式取 引所を、政商として名高い五代友厚が大証前身の大阪株式取引所を創 設。2大都市での企業の資金調達支援を目的とし、以来両取引所は切磋 琢磨しながら日本の直接金融を担い、資本主義発展に寄与してきた。栄 一は、現在のみずほ銀行につながる第一国立銀行など多くの上場企業設 立に携わったことで、「日本の資本主義の父」と呼ばれる。

栄一研究でも知られる渋沢会長は現在、日本取引所が仕掛ける投資 普及セミナーの講師陣の1人だ。「東証設立当時の栄一は、日本が海外 に飲み込まれてしまう、国に頼っていただけではだめだと考えていた」 とし、偉大な先祖の決断理由を「日本経済をスケールアップするための 成長目的のグローバル化だった」とおもんぱかる。

やまぬ合従連衡

世界取引所連盟の公表データによると、東証の上場時価総額は12年 末時点で3479億米ドルとNYSEユーロネクスト(米国)、ナスダック OMXグループ(米国)に次ぐ世界3位。大証分を加味後も、ロンドン 証券取引所グループなどと激しい3番手争いを繰り広げている。

昨年には、135年の歴史を持つ商品取引所のロンドン金属取引所( LME)が香港取引所に買収され、商品先物市場運営の米インターコン チネンタル・エクスチェンジ(ICE)が世界最大の株式市場運営会 社、NYSEユーロネクストの買収で合意。先物市場運営の米CMEグ ループが、ドイツ取引所に統合協議の開始検討を打診する事実もことし 明らかになった。アジアのみならず、世界のトップ市場も巻き込む取引 所間の合従連衡の流れは止まらない。

日本取引所では、今月末にも来期から3カ年の中期経営計画を公表 予定。斉藤CEOは1月の定例会見で、「アジアで最も選ばれる取引所 を将来ビジョンとして掲げ、そのための第1期と位置付けている」と意 義を説明した。同社はアジア展開強化の一環で、1月にインドとトルコ の証券取引所と相次ぎ提携。インドの株価指数先物の大証への上場、ト ルコとは指数連動型上場投資信託(ETF)の相互上場を目指す。

サムライ魂で国境越えよ

一方、同社では今月4日、大証の先物取引システム「J- GATE」で初の大規模システム障害が発生した。7月16日付で現物市 場を東証に統合、来年3月にデリバティブ市場を大証に集約するスケジ ュールが迫る中、根本原因の究明と再発防止の徹底という新たな課題も 抱えた。金融庁は、大証からの報告内容を踏まえて業務改善命令などの 行政処分も検討する方針だ、と共同通信は4日に伝えている。

日本株活況の追い風から、日本取引所株は2月27日に高値7890円を 付け、東証上場後の2カ月間で株価は2倍以上に達したが、世界の取引 所の時価総額ランキングでは10位前後を往来。日本の経済規模と比較 し、グローバル投資家からの市場での評価が高いとは言い難い。

渋沢栄一は経営において、守るだけの姿勢では周囲が先に進んでし まうとし、発展の重要さを説いている。コモンズの渋沢会長は、合併後 のさらなる飛躍を求めるため、「成長性があるだけでなく、日本の考え 方に耳を傾けてくれるASEAN(東南アジア諸国連合)諸国を合併や 提携先に選ぶのが現実的だ」と今後を展望。取引所の設立理念である 「日本の産業・国の発展というサムライ魂を忘れずに、国境を越えてお 互いウインウインの関係で繁栄する」ことを平成の新市場に望む。

7日の日本取引所株は、前日比1.6%高の7130円と続伸して終了。 米国経済の改善や国内景気回復への期待が広がり、TOPIX、日経平 均株価はともにリーマン・ショック後の高値を更新した。東証1部売買 代金は2兆1705億円と2月26日以来、7営業日ぶりの高水準だった。

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