飛べないパイロット、ラップで不遇訴え-B787運航停止で波紋

ボーイング787の運航停止で飛べ なくなった世界各地のパイロットに波紋が広がっている。インドのパイ ロットはラップミュージックのビデオで不遇を訴え、動画サイトのユー チューブに投稿。日本では全日本空輸所属の機長が小学生ら次世代の顧 客に飛行機のPR活動なども展開している。

エア・インディアのB787パイロットで自宅待機中のアンジュ ン・チャブラ氏は、創作したビデオの中で、「俺にはフライトがない し、シンガポール行きもない、カジノもないから、金もない」「空を飛 べずに家にいて、俺は一体なんてパイロット」と歌った。

航空機の操縦資格は、コックピット内でのミスを回避するためにほ ぼ1機種に絞られる傾向があり、B787の操縦資格を持つパイロット の多くは他の機種を操縦することができない。日本でも、同型機を保有 する全日空と日本航空の787担当機長などの有資格者330人は、基本 的には自宅待機となっている。

全日空のパイロット5人は、2月に田園調布学園大学の学生が主催 したイベントの「ミニたまゆり」という体験教室で、小学生約120人の 前で講演。パイロットのなり方や仕事内容、航空機などに関する質問に 答えた。同社広報担当の手塚愛美氏は、B787のパイロットは講演な どのほか、フライトシュミレーターを活用した訓練や知識の再点検など 空いた時間を有効に活用していると説明する。

日本のパイロットの9割超が加盟する日本乗務員組合連絡会議(日 乗連)理事の長沢利一氏は、パイロットは不規則な勤務が多い職業柄、 時間の使い方をコントロールができると語る。自由時間を生かし、これ までできなかった勉強をしたり、東北の被災地へのボランティア参加を 考えるなど前向きな発想で日々を過ごしている例が多いという。

航空会社

全日空は同型機を17機と世界で最も多く保有している。手塚氏によ ると、B787担当の機長と副操縦士は計200人。1月末の段階で全日 空は、運航停止により1月の約2週間で14億円程度の減収になる見込み と発表済み。発表資料によると5月末に国内、国際線合わせ欠航は3601 便に上るという。

日航は同機を7機保有、130人のパイロットが在籍する。同社の広 報担当者のヤン・ジェン氏によると、パイロットはフライトシュミレー ターでの訓練やレクチャーなどで技量維持に努めている。一方で現在、 B787の新規の訓練は行っていないという。

同機を6機保有する米ユナイテッド・コンチネンタルホールディン グス傘下のユナイテッド・コンチネンタル航空は約125人が同機の訓練 を終了していると、広報担当者のクリステン・デビット氏が明らかにし た。航空パイロット協会(ALPA)コンチネンタル支部のジェイ・ピ アース氏によると、同社では「通用すれば」以前に操縦していた航空機 に戻れるパイロットもいるという。

減収

運航停止はパイロットの収入にも影響を及ぼす。長沢氏は、基本的 な賃金はこれまでと変わらないが、全日空の場合、国際線を飛行した際 の長距離手当や深夜手当なども含めると、20%程度の減収となるとい う。日航ではB787は国際便だけであり、運賃体系も違いがあるた め30%程度の減収になる場合もあると述べた。

こうした中、国土交通省は2月26日、B787の運航停止に伴い、 定期路線審査が実施できず、同型機の資格を有する機長や副操縦士の認 定が失効することを避けるため、柔軟な取り扱いを行うと発表した。実 地審査を口述の知識確認に切り替え、座学訓練やフライトシュミレータ ーによる技量維持訓練などの措置を講じるという。

資格認定は年に1度、実際に飛行機に乗り試験を受けることが法律 で定められている。長沢氏は、国交省の措置について「パイロットの立 場からすると、資格を失わないですむ点では喜ばしい」と述べたが、一 方で「なぜB787だけに例外措置が適用されるのかという説明がきち んとなされていない」とも指摘する。

その上で「B787以外の機種の資格を有するパイロットや格安航 空会社の経営者などの立場からすれば、他の航空機にも適用してもよい のではないかとの声が挙がる可能性がある」とみている。

調査難航

B787のバッテリーの不具合について、日米当局が原因究明と予 防措置に取り組んでいるが、原因の特定調査は難航している。運輸安全 委員会はGSユアサ製のバッテリーについて京都での調査を5日に終え たが、現在までのところ異常は見いだせないとしている。

日乗連は運航停止を受け、リチウムイオンバッテリーなどの電気系 統の不具合は、空中火災などの事故につながりかねないため、徹底した 原因究明と再発防止が確立される必要があるとした上で、「リスクを抱 えたままでの運航再開は行われるべきでない」と表明した。

B787の1機当たりの価格は約2億ドル(約197億円)を超え る。全日空など各国の航空会社に納入された49機が運航再開を待ち続け ている。

単純な話ではない

国際航空運送協会(IATA)のトニー・タイラー事務総長は「既 に同機を受け取った航空会社にとって由々しき問題だ」としながらも 「適切な問題解決が図られるまでこれらの航空機が空を飛ぶことはな い」との見通しを示している。

世界航空市場のシンクタンクでシドニーに拠点を置くアジア太平洋 航空センター(CAPA)のエグゼクティブ・チェアマンのピーター・ ハービソン氏は、「いつB787が再び活用できるのかが分からない状 況下では、他の航空機にパイロットを置き換える決断はなかなかできる ものではない」と指摘。その上で、決断した場合でも「そこにさまざま な問題が生じる可能性があり、単純な話ではない」という。

ハービソン氏は「ほとんどの航空会社に余剰の航空機はなく、仮に B787のパイロットが他の機体の操縦資格を取り直したとしても、す ぐに運航できるとは限らない」と指摘。「パイロットの数は必要な水準 を超えているが、そもそも彼らが元居た場所は既に埋まっている」と語 った。

問題提起

民間航空業界労組の連合である航空労組連絡会は6日午後、太田昭 宏国土交通相にボーイング787の異常運航に関し、安全なサービスを 提供するための積極的な問題提起を申し入れた。バッテリー不具合だけ でなく熱暴走の防止対策やバッテリー取り付け位置など12項目にわたる 内容。

この中で、同機の運航停止で代替運航を行っているB777やB7 67の乗員繰りが厳しくなっている実態があると指摘。航空連の津恵正 三事務局長は同日、都内で会見し「公共性維持の観点からB787によ る欠航を少なくする努力は必要だが、そのために過酷な勤務で安全に影 響をきたす事態は避けなければならない」とコメントした。

--取材協力:Rishaad Salamat in Hong Kong and Mary Jane Credeur in Atlanta.

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