コラム:ソロス氏失望させたら日本デフレ終わらない-ペセック

アジア開発銀行(ADB、マニラ) 総裁として黒田東彦氏はこの7年間、アジア・太平洋の48カ国・地域の 問題に真正面から取り組んできた。多様で躍動的、複雑な経済がひしめ くこの地域での仕事は大変だっただろう。しかし東京で待っているのは さらに困難な仕事かもしれない。

2005年から離れていた東京へ日本銀行総裁として戻るなら、黒田氏 (68)は蜜月期間を期待することはできない。市場はデフレ、産業空洞 化、政治の不安定に悩まされてきた日本の失われた20年間にうんざり し、直ちに決然とした行動を取ることを当局に望んでいる。長い「仕事 リスト」が黒田氏を待っている。その中でも優先順位の高い4つを次に 挙げよう。

仕事1:就任を高らかに宣言する。CLSAアジア太平洋マーケッ ツのニコラス・スミス日本担当ストラテジストは「黒田氏は日銀が今や 新しい執行部の下にあることを鳴り物入りで喧伝(けんでん)する必要 がある」と言う。

日銀の白川方明現総裁は期間1年以下の短期国債の購入で時間を無 駄にした。これは本質的に現金を現金に替えているに過ぎない。黒田氏 は初回の金融政策決定会合から早速、大量の10年物国債購入を打ち出さ なくてはいけない。新たな量的緩和(QE)は最初にたっぷり弾薬を使 い、後は市場に勢いを後押しさせる。

ヘッジファンドの運用者は安倍晋三首相の日銀総裁人事のはるかに 先を行っている。円安を見込む取引で昨年11月以降に10億ドル(約920 億円)近くをもうけたというジョージ・ソロス氏に聞いてみればいい。 少しでも市場を失望させるようなことがあれば円は急騰し、「アベノミ クス」を取り巻くプラスの評価は消え去るだろう。

米連邦準備制度から学ぶ

皮肉なことに、QEという東京で発明された非伝統的政策手段につ いて、米連邦準備制度は日銀に幾つかのことを教えることができるかも しれない。シンガポール銀行のチーフエコノミスト、リチャード・ジェ ラム氏はこうアドバイスする。「1、過去5年の連邦公開市場委員会 (FOMC)議事録を読む。2、過去5年のFOMC声明を読む。3、 切り張りする」

仕事2:明瞭に説明する。黒田氏とって幸運なことに、この点での ハードルは極めて低い。故三重野康氏から速水優氏、福井俊彦氏、そし て現在の白川総裁と、歴代日銀総裁はコミュニケーションが得意とは言 えなかった。日本の復活を宣言するとともに黒田氏は、銀行に融資をさ せ、企業と個人に借り入れをさせる計画について完全な透明性を持って 説明することが必要だ。

これは信頼感の問題だ。日本国民は今から5年後に自分たちの状況 が改善していると心底から信じられなければならない。勤労者は所得が 増えることを、企業は消費が活発化することを、銀行は融資が不良債権 化しないことを、信じられなければいけない。アベノミクスで盛り上が っているのはほぼ完全に、ソロス氏と仲間たちなど海外勢ばかりだ。し かし、デフレを終わらせるためには、当事者である日本国民を納得させ なければだめだ。

日本病の症状

仕事3:変化に向けて政府に圧力をかける。日銀に負担を押し付け る人々は、デフレが日本病の症状だという事実を忘れている。安倍氏の 経済再生計画は2つのやや使い古された手段に頼っている。巨額の公共 事業プロジェクトと一段の金融緩和だ。税制改革や規制緩和、環太平洋 経済連携協定(TPP)のような自由貿易協定への参加、女性の登用、 起業家支援、生産性向上など、競争力を高める抜本策がない。言葉ばか りで行動はゼロだ。

「デフレとの闘いはインフレ目標を設定して水道の蛇口を開けるこ とだけではない」と、テンプル大学(日本)のアジア研究責任者のジェ フ・キングストン氏は指摘する。「アベノミクスはこれまでのところ、 2本の矢しか持っていない。欠けている3本目の矢である構造改革を、 誰もが見たがっている。ただこれは時間のかかるものだ」と同氏は述べ た。

評判リスク

黒田氏はこれを推進させることができる。日本経済再生で日銀が役 割を果たした後、安倍氏の自由民主党に対し「今度はそちらの番です」 と言うことができるだろう。黒田氏の言葉は変化を嫌い硬直的な経済モ デルの変革を議員らに促す重みを持つだろう。

仕事4:評判リスクに用心する。次期日銀総裁は安倍総裁の言いな りになるという思い込みがまん延している。黒田氏の仕事は円の蛇口を できる限り大きく開けることであり、安倍首相がもっと流動性を求めれ ば従順にさらにマネーを増やすと考えられている。

矛盾した話だ。市場は1999-2003年にかけて財務官を務め、05年か らADB総裁として手腕を発揮した黒田氏が日銀総裁職に信頼性をもた らすことを歓迎している。一方で今、この尊敬されるエコノミストが経 験から学んだ全てを捨てて安倍首相の金融の道具になると考えている。

そのようなことは避けなければならない。黒田氏は新たな資産バブ ルではなく、本物の有機的な成長を創り出さなければならない。同氏は 自身の評判を守ることで、日本のそれも守ることになる。(ウィリア ム・ペセック)

(ペセック氏はブルームバーグ・ビューのコラムニストです。この コラムの内容は同氏自身の見解です)

原題:Give George Soros Good Reasons to Stay in Japan: William Pesek(抜粋)

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