ホンダ:半世紀ぶり国内に自動車工場-埼玉・寄居町は日本復活の縮図か

国内3位の自動車メーカー、ホンダ は今年7月、半世紀ぶりに国内に自動車工場の新設を埼玉県北西部の寄 居町で計画している。

ホンダが最後に国内自動車工場を新設したのは、東京五輪が開催さ れた1964年にさかのぼる。日本が戦後の混乱期を脱し、高度成長期を突 き進んでいた時代だ。バブルが崩壊した90年代の前半から、日本では資 産価格が下落、国内で事業規模拡大の余地はほとんどなくなっていた。

円安の進行で国内製造業の採算が改善している最中に、年産能力25 万台のホンダの新工場は稼働する。最近は日本への投資が戻り、日経平 均株価は08年のリーマンショック以来の水準に上昇。エコノミストらは この1-3月期にも国内経済が不況から脱出すると予想。広範に回復の 兆候が出てきている。回復の兆候は、人口約3万6000人の寄居町にも広 がりつつある。

「世界のホンダがやって来るのですよ、そりゃみんな期待していま す」というのは、地元でカツ丼を名物メニューとする食堂「今井屋」を 営む横田富美子さん。店が一番繁盛していた高度成長時代には今の倍ぐ らいの来客があったという。新工場の効果で「もっと店にも人が来ても らえたら。お店自体は狭いけど、うちはお弁当も出しているので」と期 待を込めた。

閑古鳥

日本の多くの地方と同様に、寄居町も長年にわたる景気低迷の影響 を受けてきた。最近でも平日の昼間に、地元のある寿司店では3分の1 程度しか席が埋まらず、駅前商店街では多くの商店がシャッターを下ろ したままだった。

地元で長年暮らしてきたタクシー運転手の青柳正三郎さんによる と、行きつけの飲み屋が閉店、新しい店を開いても「人が来ない」た め、すぐ閉店したという。

寄居町企業誘致推進課では、それも変わるかもしれないと期待して いる。ホンダだけでなく、飲食・宿泊など周辺産業も恩恵を受け、17年 度までに約3800人の雇用が創出されるだろうとみている。

ホンダは新工場について、国内生産再編の一環と位置付けている。 革新技術を投入した世界トップクラスの省エネルギー工場となり、同社 の国内最販モデル「フィット」をはじめとしたコンパクト車専用とする ことで生産効率向上を図る。自動車工場として最大の2.6メガワットソ ーラー発電の設置や、中塗り工程を廃止したショートプロセス高機能塗 装技術の導入などを計画している。

日本経済の動向に連動して国内自動車需要が低迷する中、ホンダや トヨタ自動車、日産自動車はこれまで海外に生産拠点を開設してきた が、今回の新工場はこうした流れと違ったものとなる。ホンダの世界生 産は昨年411万台で、このうち4分の3程度が海外だった。

さまざまな経済効果

JPモルガン証券の株式調査部長、イェスパー・コール氏は、寄居 の工場新設の重要性について、大手自動車メーカーはすそ野が広く、雇 用など、さまざまな経済効果に結び付くだろうという。

安倍晋三氏が首相就任をにらみ、大胆な金融緩和を表明した昨年11 月半ばから対ドルで約15%の円安となった。円安の進行で輸出採算が改 善し、トヨタなどは今期(13年3月期)の業績予想を上方修正した。

ホンダは1月末の決算発表で、今期業績予想の売上高や営業利益を 据え置く一方、為替予約の時価評価損などを織り込み、純利益を引き下 げた。昨年10月末からの株価は、ホンダが46%の上昇となり、トヨタや 日産自はそれぞれ56%、40%の値上がりだった。

競争激化

富士通総研の主席研究員であるマルティン・シュルツ氏は、寄居の 新工場について、ホンダにとってタイミングが非常に良かったと指摘し た。それでも、アジアの他の国々からの競争が激化しており、国内製造 業はかつてのように優位に立つことは難しくなるだろうとみている。

総務省によると、昨年12月の製造業の就業者が61年以来となる1000 万人を割り込んだ。日本自動車工業会(自工会)のウェブサイトによる と、自動車関連産業の就業人口は約545万人。今年の国内四輪車需要は 前年比12%減の474万台と、自工会が予想している。

寄居町でラーメン店を営む今村和代さんは、最近はこの辺りで若い 人をあまり見かけなくなったとし、「経済とかはあまり分からないけ ど、若い人がもっと増えると良い」と話した。

--取材協力:堀江政嗣. Editors: 浅井秀樹, 谷合謙三

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