約束は控えめに、結果は大きめに-失敗から学んだモイニハン氏

米銀バンク・オブ・アメリカ (BOA)のブライアン・モイニハン最高経営責任者(CEO)は心が はやっていた。デビットカードの利用者に月額5ドルの手数料を課す計 画を検討していた2011年8月のことだ。

当時リテール部門責任者だったジョー・プライス氏は、ライバルの JPモルガン・チェースやウェルズ・ファーゴが行っていた同様の手数 料を試験的に小規模な市場で実施したいと考えていた。しかしこうした 慎重なプライス氏の姿勢をモイニハンCEOは揶揄(やゆ)し、全米規 模でこの手数料を導入するよう部下に指示したという。ノースカロライ ナ州シャーロットにある同行本社での会議について知る4人の関係者が 公に語る権限がないとして匿名を条件に明らかにした。ブルームバー グ・マーケッツ誌4月号が報じている。

9月に発表されたこの決定に対し、ロサンゼルスからボストンに至 るまで各地の支店から抗議の声が上がり、多数の顧客が口座を閉じた。 こうした事態にオバマ大統領が注目。10年の米金融規制改革法に基づく デビットカード購入手数料規制で失われる収入約80億ドル(約7300億 円)を埋め合わせようとする銀行の姿勢を大統領は激しく批判した。

厳しい1年

1兆1000億ドルの預金と5300万人の顧客を持ち、5500カ所に上る支 店網を展開するBOAはそれから5週間後、方針を転換した。これは相 次ぎ苦難に見舞われるモイニハンCEOにとって厳しい1年を象徴する 出来事となった。

11年1月には投資家に対し、ファニーメイ(米連邦住宅抵当金庫) に売却した欠陥ある住宅ローン債権の買い戻しをめぐる問題は過去のこ とになったと発言したが、そうした見方は間もなく覆された。米政府管 理下の住宅金融会社からの債権買い戻し請求は1-3月(第1四半期) に90%増加し54億ドルに達した。同CEOは増配期待をあおる発言を行 っていたが、3月に監督当局に増配の計画を砕かれた。株価はその年 に58%の大幅安を記録し、モイニハンCEOの交代観測も浮上した。

事情に詳しい複数の関係者によれば、次々と浮かぶ考えを口に出し て聞き手を当惑させることもある赤ら顔のモイニハン氏は、デビットカ ード手数料問題で強い反発を招いた後、アン・フィヌカン最高戦略・マ ーケティング責任者から表舞台に出る回数を減らし、自分でコントロー ルできることに集中したほうが良いと助言されたという。モイニハン氏 やフィヌカン氏ら同行上層部はインタビューに応じなかった。

この助言は効果をもたらした。モイニハンCEOは事業の縮小を進 め、バランスシート上の過大な負債を圧縮。ケネス・ルイス前CEOに よるカントリーワイド・ファイナンシャル買収で引き継いだ住宅ローン の不良債権を徐々に減らした。株価は12年に2倍強となり、ダウ工業 株30種平均の構成銘柄では最大の値上がりを演じた。

BOAの最高財務責任者(CFO)を04-06年に務めたマーク・オ ケン氏はモイニハンCEOについて、「約束は控えめにして、結果は大 きく出すのがCEOにとって一番の戦略であることを彼はかなり迅速に 学んだ」と評価する。

目覚ましい復活

仕事ぶりからCEO職にとどまれるかどうか疑問が持たれた経営者 としては、モイニハン氏は目覚ましい復活を遂げている。これは同行取 締役会も認めるところで、昨年の同氏の業績に対する報酬を70%余り引 き上げて1200万ドルとした。11年8月にBOAへの50億ドルの投資を発 表した米バークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェットCEO も、同行の回復ぶりには感心した。

BOAとの合意で10年間で7億株を購入できるワラントを得たバフ ェット氏は「メディアや当局からたたかれ、1週間や1カ月、1年間で は結果が見えてこないのを承知の上で、そのような仕事を引き受けるに はかなりのガッツが必要だ」と述べている。

同行は10年のモイニハンCEO就任以降に600億ドルの資産とビジ ネスを売却。同CEOはカントリーワイド絡みで450億ドル強に上る和 解を承認するとともに、15年までに3万人の人員整理と80億ドルの経費 圧縮を行うと発表した。

1月17日の行員向けタウンホールミーティングで同CEOは過去3 年を振り返り、比較的身軽なライバルに対し250ポンド(約113キログラ ム)のバックパックを背負って挑んだ上り坂レースだったと表現。「12 年にわれわれが行ったのは、バックパックを空にしたことだ。今後、誰 がレースで勝つと思いますか」と語った。

課題

クレディ・スイス・グループのアナリスト、モシュ・オレンバック 氏(ニューヨーク在勤)は、BOAが利益を拡大できるかどうかが今の 課題だとみている。同行の12年通期税引き前利益は31億ドルにとどまっ た。11年は2億3000万ドル、10年は13億ドルのそれぞれ赤字だった。

10年1月のモイニハン氏のCEO就任前日のBOAの株価は15.06 ドル。これを超えるためには、残る住宅ローン関連の問題を解決しなが ら増収を図る必要がある。最近会談したという投資家によれば、同 CEOはようやくカントリーワイド問題を収拾できたと考えているとい う。ブルームバーグの集計データによると、今年1-3月(第1四半 期)は6四半期ぶりの増収が予想されている。

筆頭株主になる見込みのバフェット氏は、モイニハンCEOが成功 することをほとんど疑わないと話す。

「潜在的には大きな強さを秘めながら、何らかの大きな出来事で大 問題に陥った別の企業を私は知っている」と言うバフェット氏(82) は、「そうした状況が発生した時こそ極めて良い投資を実行できること も時としてある」と語った。

--取材協力:Greg Farrell、Bradley Keoun.