脱デフレへ黒田氏起用、筋金入り緩和論者-日銀、次の一手にハードル

日本銀行の総裁候補としてアジア開 発銀行(ADB)の黒田東彦総裁、副総裁として岩田規久男学習院大学 教授が提示される見通しとなった。安倍晋三首相の期待する異次元の大 胆な金融緩和を実現するにはハードルが待ち構えているとの声もある。

黒田氏は11日、ブルームバーグ・ニュースのインタビューで、金融 政策だけで2%の物価目標の達成は可能との見解を示した上で、「日銀 は2%の物価目標を達成するための手段をたくさん持っている」と言 明。また、2%の物価目標を達成するための期限については「2年とい うのがグローバルスタンダードだ」と語った。

バンク・オブ・シンガポールのチーフエコノミスト、リチャード・ ジェラム氏は「黒田氏は長年にわたって日銀にはもっとやることがある と主張してきたので、信頼がある」と指摘。「日銀が何をすべきかも明 確にしてきた。日本国債の大規模な買い入れとして結果が現れるだろ う」とみている。

「日銀総裁に黒田氏」との報道を受けて25日の円相場は一時2010年 5月以来の安値となる94円77銭まで下落。26日はイタリア政局の不透明 感から円高に振れ午前10時半は92円台で推移している。

モルガン・スタンレーMUFG証券のロバート・フェルドマン経済 調査部長は「問題は日銀の独立性ではなくアカウンタビリティ(説明責 任)だ」とみる。日銀は国際社会の信頼を取り戻す必要があるが、「黒 田氏はそれを実現するだろう」と指摘、「日銀の先頭に立つ人物として 黒田氏よりふさわしい候補は思いつかない」と述べた。

日銀でのリフレ思想浸透に注目-市場

黒田氏は内閣参与だった2004年にブルームバーグ・ニュースのイン タビューに対し、消費者物価指数は1-2%ないとデフレ脱却と言えな いと主張。同年5月11日付の英フィナンシャルタイムズへの寄稿では、 「デフレが続く中で、為替市場での円売り介入が少なくなることを考慮 すれば、より革新的な金融緩和の手法を探す圧力が日銀に働く」と指摘 していた。

ドイツ証券の山下周債券ストラテジストは「黒田氏は具体的な緩和 手段が明確ではないものの積極緩和論者であり、岩田氏は強硬なリフ レ、反日銀派。この組み合わせが実現すれば、リフレ色は強いと言えよ う」と語る。JPモルガン証券の足立正道シニアエコノミストは「岩田 氏はリフレ派の代表で、もしこの人事が現実化すると、日銀内部でリフ レ思想がどこまで広がるかが見物となる」という。

バークレイズ証券の森田長太郎チーフストラテジストは「政府の金 融政策についての考え方をこれだけ強烈に反映させた総裁人事決定はか つてなかった」と指摘。「経済財政諮問会議に設けられた四半期に一度 の金融政策集中審議が日銀の金融政策の大きな方向性を左右していくこ とも既定路線であり、実質的に日銀の政策決定が政府の意向と齟齬(そ ご)を来していくことは容認されないだろう」みている。

政策委員会は活性化へ

日銀が19日公表した1月21、22日の金融政策決定会合の議事要旨に よると、2%の物価目標の導入に反対した佐藤健裕、木内登英両審議委 員以外にも、何人かの委員が「現状を前提に考えると2%の達成には困 難が伴う」との認識を示した。

森田氏は「このうち3月で退任する委員が何人含まれているかは分 からないが、4月以降、これまでの日銀の政策を全面的に刷新するよう な方向性が執行部から打ち出されてくれば、金融政策決定会合では反対 票が恒常化してくる事態もあり得るだろう」と指摘。「皮肉なことだ が、スリーピング・ボード(休眠会議)の様相を呈していた決定会合の 議論が、この人事を機に活性化されてくるのではないか」とみる。

足立氏は「もちろん、既存の委員達が新体制になびく可能性は否定 できないが、新体制は既存の考え方を否定することで選ばれてくるのだ から、当初は政策委員会の中で軋轢(あつれき)が生じることは当然と も言える。総裁・副総裁がどういう議論で既存の委員を説得するのか、 そしてそれに既存の委員達がどう応えるのか実に興味深い」という。

岩田氏の主張と現実

岩田氏はブルームバーグ・ニュースのインタビューなどで、2年以 内に物価目標2%を達成するため、現在40兆円台の日銀当座預金残高 を70-80兆円に拡大する必要があると主張している。しかし、佐藤委員 が6日、前橋市内で行った会見で、日銀当座預金は年内にも「90兆 -100兆円に達してくる可能性がある」と述べたように、岩田氏が主張 する程度の量的な金融緩和は既に決定済みだ。

第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、新体制が4月 以降の会合で①2014年以降のオープンエンド化の前倒し②資産買い入れ 等基金における買い入れ対象国債の残存期間の長期化-などを行うと予 想。その結果、「日銀のバランスシートが急激に拡大する」という。

しかし、「これだけで今のように過熱している市場の期待感は満足 するだろうか。現状、『次元の違う大胆な金融緩和』という抽象的な言 葉だけが独り歩きして、金融政策の次の一手に高い心理的ハードルを課 している。いつまでも期待に応え続けることは不可能だろう。目新しさ という点で新体制の弾は早晩尽きてしまう公算が大きい」とみる。

足立氏は、主要7カ国(G7)や20カ国・地域(G20)の財務相・ 中央銀行総裁会議の結果を踏まえ、「外債購入は難しくなった」と指 摘。「『次元が異なる・大胆な』施策と人々が思えるような具体策は何 なのか、市場の思惑は今後錯綜(さくそう)することになるだろう」と している。

--取材協力:John Brinsley. Editors: 谷合謙三, 小坂紀彦

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