日産自:女性登用が購買層の心をつかむ、投資家の評価も向上

「私が最初でいいのか。私が失敗し たら後が続かなくなるかも」-水口美絵さん(44)は日産自動車で女性 として初めてチーフ・プロダクト・スペシャリストに抜擢された。新車 の企画から投入までを統括する責任者で、手掛けた新型車「ノート」は 昨年9月に発売した。

新型ノートは発売後、国内登録車販売ランキングで3位に急浮上。 発売5カ月の販売は前年同期比3倍のヒット商品となった。トランク部 分が片手で操作でき、ドア開閉は2段階でいったん停止するなど力の弱 い人に扱いやすくなっている。水口さんは「女性だからというより、た またま私の力が弱く、私自身が使いやすい車をと考えた」と語った。

日産自は04年以来、多様な人材が能力を発揮できるようにダイバー シティプログラムに取り組んでいる。女性の管理職比率は8年間で4倍 の6.7%となった。17年までに10%に引き上げる計画だ。昨年4月には 谷内陽子さん(45)がクロスオーバーSUV「デュアリス」の開発責任 者に、青木佐知子さん(44)が今後投入予定の新型車の責任者となっ た。国内自動車産業に従事する79万人のうち、女性開発責任者は日産自 の3人というのが現状だ。

青山学院大学大学院の北川哲雄教授は、日産自の取り組みは「女性 の社会進出が遅れている日本で突出している」と評価。「理念をきちん と社内外に示して、目標を設定」しており、透明性が高く長期的に企業 価値を高めていくという点で投資家の信頼を得られていると指摘した。

経済協力開発機構(OECD)の昨年12月の報告書によると、日本 の上場企業の役員のうち女性は5%、加盟国で最低となっている。米国 の非営利団体カタリストによると、米自動車産業ではマネジャークラス の3人に1人が女性なのに対し、日本ではトヨタ自動車、ホンダとも女 性の管理職比率は1%以下、女性の開発責任者はいない。

競争力の源泉

日産自で人材多様化を担当するダイバーシティ・ディベロップメン ト・オフィスの桐竹里佳室長は、女性能力の活用を「競争力の源泉」と 位置付ける。自動車メーカーの顧客の半数以上は女性であり、家族が車 を選ぶときの選択権が女性にあるケースも多いため、「ビジネスに直結 する課題」だと語った。

12年発表の経済産業省委託調査によると、家庭で「日常的な買い 物」の意思決定権は約74%が妻にあり、自動車など耐久消費財では、決 定に妻がかかわるケースが76.8%に上る。

都内の主婦、内田洋子さん(34)は昨年、子供の塾の送迎用に日産 自の小型車「キューブ」を買った。決め手は「ビターショコラ」という 車体カラーのネーミング。「女性の感性を分かっている」と感じ、日産 自は「女性向けの車をつくるのが得意な会社」というイメージだと語っ た。ハイヒールの靴で車に乗り、ネイルを施した指でドアを開けること などへの配慮は、女性から出た声を商品に反映させた例だ。

ゴーン氏のトップ・メッセージ

調査会社IHSオートモーティブの川野義昭アナリストは「新型ノ ートは女性だけでなく男性や若者の取り込みも期待される難しいモデル チェンジだったが、現時点では成功している」と評価した。内装の高級 感や、後部座席の広さ、女性に人気のタレントを使った広告戦略などが 奏功しているという。一方、今年秋にはホンダの人気小型車「フィッ ト」のモデルチェンジが控えており、「競争は厳しくなる」と指摘し た。

日産自の女性能力活用が順調な背景に、北川教授はカルロス・ゴー ン最高経営責任者(CEO)の存在を挙げる。ゴーン氏自身の言葉でメ ッセージを発して経営哲学として取り組んでおり、企業価値創造の一環 として全社的な取り組みができていると指摘した。

一方、志賀俊之最高執行責任者(COO)は「すべての男性社員 が100%理解をしているかというとそうでもない」と運用の難しさを指 摘した。優秀な男性社員もいる中で「なぜ役員は女性だけをフォローす るのか」という批判もあるという。こうした声に対し、結婚や出産の時 期が昇進時期と重なる女性は、「前に押し出してあげなければ」女性管 理職登用は進まないと実感していると語った。

多様な人材が活躍できる組織文化

女性管理職の数値目標は、部門別に役員のコミットメントとして課 している。出産や育児休暇をとった女性に対しては、休暇期間中に復職 セミナーを開き仕事に戻りやすい環境をつくるほか、国内事業所3カ所 には2歳児まで受け入れる託児所も設置している。

そうまでして女性能力活用を進めるのは「多様な人材が活躍できる 組織文化をつくることにある」と志賀氏は述べた。女性に限らず、優秀 な人材を外部から招いたとき、企業として受け入れ成長の糧にする文化 は重要で、企業パフォーマンスを出すという点で、投資家からも長期的 な評価が得られると語った。

大和証券の吉野貴晶アナリストが昨年発表したリポートによると、 厚生労働省が「女性労働者の能力発揮を促進する積極的取組」をしてい る企業として選んだ159企業の株式パフォーマンスは、対TOPIX累 積超過リターンで、選定の1年後には4.55%、5年後には13.80%が得 られるなど安定して上昇している。

重要な投資指標に

投資家が企業価値分析に際し、ESG(環境・社会的責任・ガバナ ンス)要因を組み込む傾向は増えつつあり、女性管理職比率は社会的責 任をチェックする指標の一つにもなっている。

みずほ第一フィナンシャルテクノロジーの伊藤敬介投資技術開発部 長は、2年前に自らが投資助言をするポートフォリオにESG要因を取 り入れ始めた。ESG要素は1年間程度の中期的なパフォーマンスと関 連があると確認しており、ESG銘柄が組み込まれたポートフォリオ は、リスク調整後リターンのパフォーマンスが5-10パーセントポイン ト高いという。

大和証券投資信託委託で運用本部長を務めた荒井勝氏は、日本に概 念が定着していなかった10年前に自らの運用にESG要素を取り入れ た。女性管理職比率が極端に低い企業は「女性の意見を聞けないか、女 性が意見を言う機会がない会社」であり、海外進出時には地域の環境や 人種多様性への対応などでリスクに直面する可能性もあると指摘した。

投資は拡大

現在は民間非営利団体「社会的責任フォーラム」の会長として企業 や投資の傾向を分析しており、今後は日本でも女性能力を活用する企業 を「リスクの低い銘柄」としてファンドに組み入れる機会は増えるとい う見通しを示した。ブルームバーグでは09年から本格的にESGデータ の提供を始めており、11年は1億8000万回のデータ利用があった。

日産自は04年から新卒採用の女性比率で事務系50%、技術系15%を 目安とし、横浜本社では39歳以下の従業員のうち44%が女性となった。 水口さんは開発責任者の仕事を通じ、「女性というよりも、私自身の個 性を問われることが多かった」と語った。「女性だからと馬鹿にされる ことはなかった」が、間違った意見には手厳しいフィードバックがあっ たと振り返り、性別でなく能力そのものが問われる環境だと語った。

--取材協力:Christoph Rauwald、Chris Reiter、Dorothee Tschampa、Alan Ohnsman、Chris Cooper. Editors: 浅井秀樹, 沖本健 四郎

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