アベノミクスで脚光浴びるリフレ派、日銀総裁人事で影響力も

安倍晋三首相が進める経済活性化策 「アベノミクス」が円安や株高をもたらしたことで、首相に金融政策を 指南してきた「リフレ派」の経済学者や国会議員が一躍、脚光を浴びる 存在になっている。その首相との関係は政府が来週にも国会に提示する 日銀総裁人事にも一定の影響力を発揮する可能性もある。

首相がとりわけ頼りにするのが浜田宏一エール大学名誉教授だ。安 倍首相は昨年10月、米コネチカット州にある浜田氏の自宅に国際電話を 入れ、金融政策に関する意見を求めた。デフレで苦しむ日本の不況は、 「ほぼすべてが日銀の金融政策に由来する」と東大の教え子だった日銀 の白川方明総裁を批判してきた浜田氏。自民党総裁として政権復帰を視 野に入れていた政治家からの依頼に「本当に驚いた」と振り返る。

首相は12月の政権樹立後、浜田氏と本田悦朗静岡県立大学教授を内 閣官房参与に起用した。本田氏は次の日銀総裁候補に関する情報を収集 し、首相に伝える役割も担っている。1月15日に官邸で開かれた金融政 策に関する意見交換会には、浜田氏、本田両氏に加えて岩田規久男学習 院大教授、中原伸之元日銀審議委員らリフレ派の論客が結集した。

三菱東京UFJ銀行の関戸孝洋ジャパンストラテジストは、これま で屋外の寒い場所に追いやられていたリフレ派の面々は首相の隣の暖炉 のそばに席を用意されるようになった、と指摘。日本の金融政策はドラ マティックなまでの転換点にあるとの認識を示す。

本田氏は、日本で自分たちリフレ派は少数派で首相には一般国民に どうやってこの政策を理解してもらうかについてアドバイスしていると いう。

山本幸三氏

「たとえ財務省出身でも山本幸三さんのような人は日銀総裁にする ことはないが能力は十分にある」-。首相は2月8日の衆院予算委員会 で、みんなの党の江田憲司幹事長が日銀総裁候補から財務省出身者を外 すよう訴えたのに対し、予算委員である自民党の山本衆院議員の名前を 挙げて委員の笑いを誘った。

旧大蔵省出身でコーネル大学経営大学院に留学経験を持つ山本氏 は、みんなの党の渡辺喜美代表らと政府の金融政策への影響力を強める ための日銀法改正の必要性を早くから訴えていた。首相とは所属する派 閥も違うため、それほど親しい関係にはなかったが、2011年3月の東日 本大震災をきっかけに急接近する。

震災発生直後から、復興財源を賄うための国債20兆円を日銀が直接 引き受けるよう主張していた山本氏。超党派の「増税によらない復興財 源を求める会」を結成する際、安倍首相と面会し、「経済の安倍として やりだした方がいいのではないか」と訴え、会長に担ぎ上げた。

アコード

この会は11年6月、声明を発表。復興に必要な財源を調達するた め、政府と日銀の間で政策協定(アコード)を締結し、政府が発行する 震災国債を日銀が原則全額オペで購入するよう求めた。実際には同年11 月に復興増税の関連法案が国会で成立したため、提案は実現しなかっ た。

山本氏は安倍首相に対して自らの政策を個人的に説明する一方、復 興増税が決まった後には、首相や復興財源の会に参加した自民党議員に 呼びかけて日銀法改正に関する勉強会を開始。浜田、岩田規久男両氏や 伊藤隆敏東大教授らを講師に招き、党本部で議論を重ねたという。

首相自身も11年10月に出演したBSフジの番組「プライムニュー ス」で、山本氏の主張を最初は「うさんくさいのではないか」と思って いたと指摘。その後、金融政策について勉強を重ねるうちに「日銀は大 切なところで間違っている」と気づいたことを明かしている。

山本氏は当時の安倍首相について「もともと日銀の早すぎる引き締 めでせっかく回復しかけた経済がしぼんだという問題意識があった。勉 強会で浜田さんとか岩田さんとかの話を聞いて、砂漠に水がしみとおる ように頭に入っていった」と指摘。アベノミクスはこの時期に山本氏や リフレ派の経済学者らとの議論を通じて生まれたとの見方を示す。

歩調

12年に入ると、首相は金融政策に関し、山本氏と歩調を合わせて行 動するようになる。同年1月に米連邦準備制度理事会(FRB)がイン フレ目標の設定に踏み切ると、一日も早い日銀法改正と「物価安定目標 政策」の導入を求める緊急アピール文を山本氏、中川秀直元幹事長らと 連名で作成し、党所属議員に呼び掛けた。

党財務金融部会で4月に日銀法改正案について議論した際も首相は 一議員として出席。日銀は06年に政府の反対を押し切って量的緩和やゼ ロ金利の解除に踏み切ったとして、「あの判断で結果としてその後のリ ーマンショックにおける大きな打撃につながった」と批判した。

日銀総裁人事

金融政策の焦点は政府が来週中に国会提示する方針の日銀正副総裁 人事に集まりつつある。総裁候補としては日銀副総裁経験者の岩田一政 日本経済研究センター理事長、武藤敏郎大和総研理事長(元財務事務次 官)や、黒田春彦アジア開発銀行総裁(元財務官)のほか、リフレ派の 岩田紀久男学習院大教授らの名前が政界で取り沙汰されている。

正副総裁の人事は衆参両院での同意が必要なため、自民、公明の連 立与党が参院で過半数に満たない「ねじれ国会」では、参院最大会派で 野党第1党の民主党か、参院では野党第2党のみんなの党など一部野党 の賛同を得なければ否決される。

このうち、みんなの党は財務省出身の武藤、黒田両氏や岩田一政氏 の起用には反対する方針だ。同党の江田幹事長は19日の記者会見で、 「安倍政権には日銀総裁、副総裁人事の提示でぜひ、大胆な金融緩和、 パラダイム転換を担える学者を含めた民間人を提示してほしい」と指摘 し、リフレ派の民間人を起用するよう重ねて要求。同人事は「安倍政権 と霞が関、特に財務省との距離感をはかるリトマス試験紙だ」と首相を けん制した。

一方、安倍首相は19日の参院予算委で、日銀総裁に望ましい人物像 を聞かれ、「基本的にデフレ脱却に向けて強い意思、能力を持ってそれ を遂行していく、政策を進めていくことのできる人物」と述べるにとど めた。06年の量的緩和解除に副総裁として関与した岩田一政、武藤両氏 についてコメントは避けている。