【コラム】アベノミクスには賢明さと勇気が必要-Cクルック

安倍晋三首相は日本経済再生への大 胆なかじ取りを提唱している。その主張は大筋で正しい。日本の低迷は 続いており、主要因は不適切なマクロ経済政策だった。しかしアベノミ クスは簡単ではないし、リスクも伴う。安倍政権は賢明さと勇気を併せ 持つ必要がある。

安倍首相は金融緩和、財政出動、成長戦略をアベノミクスの「3本 の矢」としている。このうち、最初の2つは既に変化が胎動している。 首相は日本銀行に対し、インフレ目標導入と金融緩和を通じてデフレ脱 却を進めるよう圧力を加えた。大型の補正予算も閣議決定した。しかし サプライサイド(供給面)の計画は依然視界不良のままだ。

首相の要望を受けて日銀は先月、2%のインフレ目標を導入。従来 は事実上の目標1%を掲げていた。また一段と積極的な資産買い入れも 明言した。現在、市場の関心は次期日銀総裁人事へと移っており、来週 中にも新総裁が指名される可能性がある。安倍首相は自分の考えに近い 人物を起用して政策シフトを加速させようとするはずだ。

安倍首相は新たな財政刺激策にも前向きだ。補正予算は始まりにす ぎないだろう。日本の公的債務は対国内総生産(GDP)比率はグロス で約220%に達しており、ネットでもGDPの約130%だ。

財政危機リスク

確かに高い数字だが、日本国債の利回りは低く、投資家が政府の支 払い能力を懸念していないことを示している。国債の外国人保有率 は10%未満であり、貯蓄率は高い。さらに国際的な基準からみて税と政 府支出は適切で、債務返済のための財政的余裕がある。こうした理由か ら、突然財政危機に陥るリスクは極めて小さい。安倍首相は金融刺激重 視の姿勢を維持するのが賢明だろう。

懐疑論者は次のような疑問を呈するかもしれない。過去の政策金利 を見れば明らかなように、日銀は前から金融緩和策を講じていたのでは ないか。日銀は資産購入も実施していたが、これらの措置でこれまで需 要を喚起できなかったとしても、金融政策以外が原因かもしれないの で、過去の金融政策を批判できないのではないかと。

この主張は必ずしも正しくない。物価が下落していたため、実質金 利はこれまで名目金利を上回ってきた。また日銀は大胆な措置に踏み切 れず、量的緩和(QE)は短期資産に限定されていた。効果を出すに は、米国や英国のQEプログラムと同じく、長期資産の購入が必要だ。

日銀の自らの政策に関するコメントは自滅的な結果をもたらしてき た。インフレ目標は確かに低過ぎたが、恐らく目標に達しないとコメン トしたことがさらに事態を悪化させた。効力のないQE形態への依存も あり、日銀の戦略がうまく行かなかったのも当然だ。

安倍首相の判断は正しい。日銀はより高いインフレ目標と、何があ ってもその目標を達成させるという強い決意を示すことが必要だった。 日銀は確かに政策を修正したが、この新たなアプローチが完全に機能す るためには、次期日銀総裁が心から同意し、言葉を守って行動すること が前提になる。

通貨戦争

金融刺激策の強化は通貨戦争を宣言するものだとの批判も起こっ た。これは大げさだが、確かに安倍首相にも若干の非はある。金融刺激 策は通貨安を招く傾向がある。日本の場合、この副作用がプラスに働い たのだ。しかしこれはあくまでも副作用でしかない。

政策の主目的が内需拡大なら、近隣諸国を刺激することはない。日 本の成長加速は諸外国にとって利益となるからだ。日本の内需が拡大す れば、諸外国は通貨安もさほど気に掛けないだろう。しかし通貨安を主 目的とする政策は報復を招き、破滅的な通貨切り下げ競争を引き起こし 得る。

安倍首相はこの重要な点を明確にしていない。自由民主党は選挙公 約で、円安を最優先課題に挙げていた。先週末にモスクワで開かれた20 カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で麻生太郎財務相は、こ のような誤解を解きたいと述べたが、まさに得策だ。

財政政策

通貨戦争に関して諸外国を刺激しないためには、財政政策を重視す るのが良いと思われるかもしれないが、これは間違いだ。

ピーターソン国際経済研究所(PIIE)のアダム・ポーゼン氏が 指摘しているように、日本にとって財政刺激策はもはや魅力的な選択肢 ではなくなった。

長年の政府借り入れにより、日本の銀行には多くの国債が蓄積して おり、これが民間への貸し渋りを引き起こしている。さらに低金利とは いえ、返済コストが増大している。財政刺激策は無制限に行うべきでは ないとポーゼン氏は主張する。日本に必要なのは債務を抑制・削減する 計画だ。

しかしアベノミクスの第3の矢であるサプライサイドの経済改革に はこうした制限がなく、金融刺激策と同じくらい熱意をもって取り組む べきだ。安倍首相は今週末のワシントンでの日米首脳会談で、議題の一 つとして環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への日本の参加問題を話 し合う予定で、これは経済改革を前進させる好機となる。

コメなどの農産物の関税撤廃につながり得るTPP参加に対して、 日本国内には根強い反対論がある。しかし、経済改革の勢いをつけると いう意味では、むしろできるだけ早くTPPに参加する必要がある。安 倍首相にとって試金石となろう。(クライブ・クルック)

(クライブ・クルック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニ ストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

原題:Abenomics Cure for Japan Must Be Wiser and Braver: Clive Crook(抜粋)

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