【コラム】リーマンの残骸が育むバークレイズ倫理観-コーハン

「新たな倫理観」がウォール街に 突然生まれたというのは本当だろうか。英銀バークレイズのアントニ ー・ジェンキンス最高経営責任者(CEO)の言葉を信じればそうな る。

スキャンダルに揺れるバークレイズのCEOに指名されて間もな い、この口のうまい英国人経営者を信じてみたい気もする。ロバート・ ダイアモンド前CEOの絶対君主制の下でまん延した悪質な行為から、 バークレイズと自分自身を遠ざけたいとジェンキンス氏が切望している 様子は理解できる。

ジェンキンスCEOは2月12日、13億ドル(約1220億円)の損失を 公表する一方、英国以外の欧州とアジアの投資銀行部門における1800人 を含めて3700人を削減する「大規模な事業再編」を打ち出した。しかし 同CEOには、バランスシートや人員以外にもっと考えなければいけな いことがあった。

ジェンキンス氏は「これまでのやり方への後戻りはない。われわれ の価値と相いれない活動を行う人々に再び報いることは決してないだろ う。これまでの手法は正しい行為ではなく、正しい結果ももたらさなか った」と説明。「個人は自分自身の行動に責任を持つ必要がある」と筆 者が好む信条にも言及した。

宗教的な変節

この宗教的な変節が何に起因するのかは明らかでない。同氏は、チ ベットの修道院から大衆を啓蒙するためにパラシュートで降り立ったの ではなさそうだ。ジェンキンス氏は1983年から(シティグループにいた 期間も一時あるが)バークレイズに勤務し、2009年に経営委員会メンバ ーとリテール(小口金融)ビジネスバンキング部門のCEOに昇格し た。

バークレイズの善良なはずの人々はこの間、ロンドン銀行間取引金 利(LIBOR)を操作し、米国のウェルスマネジメント(富裕層向け 資産運用)部門に関する好ましくない報告を破棄し、さらに英当局によ れば、政府による救済を避けるためにバークレイズに投資する資金を08 年にカタールに不正に融資していた疑いすら浮上している。

経営破綻した米リーマン・ブラザーズ・ホールディングスの残骸か ら08年9月にバークレイズのダイアモンド前CEOが二束三文で買いた たいた米国の投資銀行部門は、偶然にもジェンキンス氏が築き上げよう とする新たなバークレイズの中核事業の一つだ。

08年9月の破綻後、リーマンの行員として米投資銀行部門のバーク レイズへの売却交渉をダイアモンド前CEOと進めたスキップ・マギー 氏はその後バークレイズ入りし、昨年10月に米州法人・投資銀行の CEOに昇進した。マギー氏は、リーマンの破綻当時のCEO、リチャ ード・ファルド氏が信頼していた側近の筆頭格だった。

サソリに願いは通じない

ジェンキンス氏のCEO就任後の最初の行動がマギー氏の昇格だっ たとすれば、バークレイズの組織全体にどのようなメッセージを送るこ とになるだろうか。広報キャンペーンでボスが宣言したからといって、 そのような人々が行動を改めると期待するのは、サソリに刺すのをやめ てくれと頼むようなものだ。ウォール街の人間が行動を変えるのは、そ うすることが彼らの利益にかなう場合だけであり、事がうまくいかなけ れば金銭的な責任を課されることをそれは意味している。

倫理物語を披露した後、2月12日の英BBC放送とのインタビュー で、バークレイズのカルチャー(企業文化)をどう変えていくつもりか と尋ねられたジェンキンス氏は「日々の価値観や目的意識を定着させる ことだ」と発言。「尊敬」「誠実」「奉仕」「卓越性」「責務」の5つ の本質的価値を数え上げたが、聞き手の疑わしい心中を察知し、「人は あざ笑うかもしれないが」と述べた。あざ笑うだけの十分な理由があ る、と彼は付け加えたのかもしれない。(ウィリアム・コーハン)

(「Money and Power : How Goldman Sachs Came to Rule the World:仮題=カネと権力:ゴールドマンはいかにして世界の支配者に なったか」の著者であるウィリアム・コーハン氏は、ブルームバーグ・ ビューのコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

原題:Barclays’s New Morality, Same Old Wall Street: William D. Cohan(抜粋)