ボーイング787のバッテリー不具 合問題は、航空会社による同型機の運航や米ボーイング社の納品も停止 状態が続いている。国内の主要部材メーカーである三菱重工業などの株 価や生産面への影響は出ていないが、この状態が長期化した場合、メー カーに悪影響が出る可能性もあり、見通しは不透明だ。

国土交通省がB787のバッテリーメーカーのGSユアサなどへ米 連邦航空局(FAA)と共同で実施した立ち入り検査では、全日空機が 高松空港へ緊急着陸したトラブルに直結するような要因は今のところ見 つかっていない。今後、さらに一つひとつのパーツなどへの慎重な調査 が続くことになり、同機の世界的な運航停止が長期化する可能性もあ り、メーカー側には懸念材料となる。

米ティール・グループのコンサルタント、リチャード・アボラフィ アは、B787問題で、ボーイングのみならず日本の航空宇宙プログラ ムも潜在的な危機の渦中にあると指摘する。

ボーイング社の資料によると、B767では機体構造に占める日本 勢のシェアは16%にすぎなかったが、最新鋭機のB787では約35%と なり、準国産機ともいえるほど貢献度が高まっている。2008年では航空 宇宙産業に携わる労働力のうち、ボーイング関連の仕事は33%だった が、11年は2万2000人と43%まで拡大している。このため、ボーイング の生産動向が国内の部材メーカーに及ぼす影響は一段と大きくなってい る。

米ジェフリーズのアナリスト、ハワード・ルベル氏は、最悪の場 合、ボーイングは約50億ドル(約4560億円)の損金計上を余儀なくされ る可能性があるという。ルベル氏はこのシナリオが実現する確率は約 4%という。

変更の連絡はなし

B787の主翼製造を担当する三菱重工は現在、生産で変更の予定 はないという。大宮英明社長は29日都内で、「ボーイングからは生産に ついて変更はないとの連絡しか受けておらず、われわれは粛々と生産に 努めることに徹するだけだ」と述べ、原因の調査については「日米当局 者に任せており、私は現時点ではそう心配はしていないとしか言えな い」とコメントした。

同社航空宇宙事業の本部長を務める鯨井洋一常務は同日、B787 の生産について、長期のプログラムとして10年程度で投資を回収したい との意向を示した。今後の主翼の部材生産について「懸念はない、むし ろ増産に向けた生産面の改善をプッシュされているところで、そのこと に対応することでわれわれは精一杯だ」と語った。

鯨井常務は、「主翼としての完成品、100号機目を昨年末にシアト ルに送り出した。これまで50機の完成機が世界にデリバーされたようだ が、主翼自体は100号機を超えた水準でわれわれは生産しているところ だ」と明らかにした。

ボーイング社のジム・マクナニー最高経営責任者(CEO)は30 日、決算発表での電話会議でB787の生産を現在の月5機から年央ま でに7機に引き上げ、年末までには10機に倍増させる従来通りの計画を あらためて表明した。

堅調な株価

主要部材メーカーの株価は、堅調さを維持している。三菱重の株価 は31日終値で489円と2008年のリーマンショック直前の水準に戻ってい る。全日空のB787が高松空港へ緊急着陸した16日以降も株価は高値 圏を維持している。同じく主要サプライヤーである富士重工業や川崎重 工業の株価も昨年12月から急上昇している。

独立系投資顧問会社、バリューサーチ投資顧問の松野実社長は「も しこのニュースが昨年だったらと考えると恐ろしい」と語る。「市場全 体が弱含みしていたため、三菱重をはじめB787のいわゆるボーイン グ関連銘柄は幅広く売られていた可能性は否定できない」と述べ、「そ の意味で時期としては恵まれている」という。

松野氏は、マーケットは安倍晋三首相が進める経済政策や円安を好 感しており、B787の運航停止の悪材料をのみ込む形で株価は上昇し ているとの見方を示した。「原因の詳細がはっきりすれば、個別には影 響も出てくる可能性はあるが、現時点では強い相場環境がバッテリー不 具合問題などの影響を打ち消す形となっている」と分析している。

B787に対する需要は強い。従来の同型機より燃料効率が20%高 く、騒音を約60%抑えることができ、メンテナンスコストも3割減が可 能という。このため、ボーイングジャパンのサイトによると、昨年末 で848機と受注は好調。うち50機が現在までに各航空会社に納入されて いる。

同型機に対して高く評価する声も根強い。航空経営研究所の稲垣秀 夫主席研究員は、トラブルがあっても、基本的に全体の完成度としてB 787を評価しているという。「燃料費が運航経費の3割と言われるこ とは、経営する側に立てば魅力は大きい」と指摘する。

個人投資家動向に詳しいライジングブル投資顧問の藤村哲也社長 は、サプライヤーである日本メーカーの株価が下げていないことについ て、「ボーイングが見解表明で大丈夫と言っていることを、日本の株式 市場はある意味信任していると言える」との見方を示す。同時に「全体 として日本の航空宇宙関連銘柄でボーイングへの依存度がそう高い企業 は多くなく、全体として無難な立ち位置も幸いしている」と付け加え た。

航空政策に詳しい慶応義塾大学の中条潮教授は、「部品に問題があ ることが分かれば、その個別のメーカーが信頼を失うことになることに なるかも知れない」と指摘。「日本の製造業全体の信用が揺らぐことに つながるとは考えていない」との見方を示した。

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