【FRBウオッチ】FOMCは気づかない「実体経済の崖」

米民間経済調査機関(コンファレン スボード)が29日公表した1月の消費者信頼感指数は58.6と、前月か ら12.1%も急落した。低下率もさることながら、3カ月連続マイナスは 警戒を要する。

いわゆる「財政の崖」を回避したので消費者の自信は回復するとみ ていた多くの市場関係者の期待は、裏切られてしまった。S&P500種 株価指数は月間ベースで3カ月連続上昇に向かっている。その間、消費 者の自信は連続して落ち込んできたわけだ。

このかい離はいずれ収束される。市場と市民、どちらが実体経済を 正確に認識しているのだろうか。過去の例では市民に軍配が上がる。前 回の景気後退は2007年12月から始まったが、消費者信頼感指数は同年7 月にピークアウトしていた。株価指数がピークに達したのは同年10月の ことだった。

財政の崖は今年元旦に回避したとされているが、これは政治ゲーム に過ぎない。実体経済は確実に大きな崖に接近しつつある。消費者信頼 感指数は既に3カ月連続で低下している。財政の崖を回避したと安心し た時が、実は最後の一突きになった可能性がある。

オバマ政権と共和党は最終的に最上位の富裕層増税で妥協したが、 民主党側が差し出した給与税減税の失効が米経済の背中を一押ししたよ うだ。米国の実体経済は既に下降局面に向かっており、いずれ崖から落 ちる方向にあった。給与税の引き上げが、その時期を早めた可能性があ る。

FRBは景気遅行指標

「財政の崖」では、オバマ大統領主導で富裕層の増税に焦点が絞り 込まれていたため、ほぼ全納税者に適用される給与税減税の失効にはあ まり注目が集まっていなかった。とはいえ、税率がこれまでの4.2%か ら6.2%へと2ポイントも上がったのだから、消費者には大きな影響を 与えずにはおかない。

給与税とは社会保障年金基金に充当されるもので、給与から源泉徴 収されることからこの名前が付けられた。庶民の感覚からすれば、所得 増税となんら変わりない。特に若い勤労者にとっては、将来まともに支 給されるかどうか保証がないだけに、増税感はより大きい。

前回の景気後退局面を見ることで、これからの先行きを占うヒント が得られるだろう。消費者信頼感指数は07年7月にピークを付けた後、 4カ月連続でマイナスを記録。5カ月目の12月にほぼ横ばいになったも のの、ここで景気後退に突入した。最も遅れていたのは金融当局だっ た。バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長は同年12月に、失 業保険申請件数はなお低く、米国経済は持ち直すと自信を表明していた ほどだ。

FOMC「狂想曲」

金融当局が異変に気づき始めたのは同年12月末のことだった。そし て翌08年1月22日、金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC) は緊急大幅利下げに追い込まれる。このように景気動向を認知する能力 では市民、市場、FOMCの順となる。

今回も昨年12月のFOMCで、「資産購入の縮小あるいは停止」が 議論され始めた。議事録で公表されたこの議論は、金融当局者の景気見 通しが改善されたことを示している。しかし、この会合の議論は景気に 遅行している恐れが大きい。

「歴史は同じように繰り返すわけではないが、韻を踏む」。米国の 作家、マーク・トウェインが残した言葉である。FOMCは08年8月の 定例会合で、「次の政策変更は引き締め方向になる」という点でメンバ ーの意見が概ね一致した。この一文も議事録で公表されたものだった。 この時点で、既に景気後退に入ってから8カ月も経過している。1カ月 後に史上最悪のリーマン・ショックが控えていた。

政策当局は市場に勝てず

FOMCメンバーは市場や市民と違って、金融政策を執行する主体 である。市場参加者から注目されるのは当然だ。しかし、政策決定過程 に参加できるのは19人にすぎない。グリーンスパン前FRB議長は、 「金融当局は数百万人の市場参加者に経済予測で勝てるわけがない」と 謙虚に語っていた。

FOMCメンバーは、法律で物価安定とともに雇用の最大化を義務 付けられているだけに、最大限の経済成長を追求している。賛成票を投 じる大部分のメンバーが、自ら決定した政策の効果を信じたいのは自然 である。こうして金融政策決定者の目は経済統計の示す明るい側面に向 かいがちになる。

たとえば、今月28日に発表された12月の製造業の耐久財受注。全体 で前月比4.6%も増えた。株式市場は早朝に発表された同統計を好感し て買いが先行していた。米国債は経済の強さを示す耐久財統計に反応し て、10年債利回りは2%台に乗せてきた。

ただし、統計をよく見ると前月比で4.6%増加したものの、前年比 では0.2%増と、ほぼ横ばいに過ぎない。このマジックは国防資本財受 注が前月比110%急増したことから生じた。国防資本財は前年同月比で も115%増加していた。

耐久財統計が示す深淵

耐久財受注統計で最も重要な項目であるコア資本財(国防と民間 航空機を除く)は前年比で4.2%減少している。しかもコア資本財は 2011年12月が今回の景気拡大局面でピークを形成している。

景気が転換点に近づくなかでは、経済統計の各項目でも明暗が交錯 する。この局面で、政策当局者は明るい要素に注目しがちだ。政策当局 の動向を注視する多くの市場関係者も、当局者と同じ方向にポジション を傾斜させる。

こうした景気の転換点では、長期的な視野が欠かせない。耐久財統 計は1993年までさかのぼることができる。コア資本財項目が過去19年間 で形成したピークは2008年4月の698億ドル。その前は2000年6月の686 億ドル。そして、2011年12月は667億ドル。市場用語でいうヘッド・ア ンド・ショルダーズ(三尊天井)の三山のうち、既に二つの山の形成が 終わり、現在三つ目の山を形作っているように見える。

市民の景気認識と実体経済のリズムはほぼ一致してきた。早晩、金 融市場も市民の認識に追随してくることになるだろう。そして、最後に なって最もあわてるのは今回もFRBということになりかねない。

(FRBウオッチの内容は記者個人の見解です)

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