2012年を振り返ると、米経済の回復 は長い昼寝からぐずぐずと目覚める程度の勢いしかなく、債務を抱えて リセッション(景気後退)に見舞われた欧州では、スペインの救済やギ リシャのデフォルト(債務不履行)懸念が強まり、さらにはユーロ崩壊 の可能性さえ取り沙汰された。アジアでは、中国やインドの景気減速で 新興市場の2大国である両国の成長物語に疑問符が付き、世界中の企業 収益や商品相場の足を引っ張った。

こうした悪材料に追い打ちをかけるように、昨年夏、ノースウェス タン大学のロバート・ゴードン教授(経済学)が「米経済成長は終わっ たのか」と題する論文を発表し、話題になった。

ゴードン教授(72)が意味した「終わり」というのは、幸せな日々 はまだ戻っていないがあと1四半期待てばいいというような程度のもの ではない。完全な終わり、終えんであり、二度と幸せな日々は戻らない という意味だ。「1人当たりの実質国内総生産(GDP)は将来、19世 紀後半以降の期間で最も低い伸びになる」と教授は論じている。ブルー ムバーグ・マーケッツ誌2月号が報じている。

こうした厳しい景気停滞の証拠が出そろう中で、今年の世界経済フ ォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)が「弾力性のあるダイナミ ズム」という明るいテーマの下で開催されるというのは意外であり、少 なくとも時代の逆を行くものである。ダボス会議の出席者はゴードン教 授の論文の中に楽観できる要因をさほど見いだせないだろう。

6つの逆風

ゴードン教授は米経済成長を押し下げる6つの「逆風」を挙げた。 人口の高齢化、学力到達度の低下、所得格差の拡大、海外への業務委託 と自動化、気候変動と炭素税導入の可能性、そして家計と政府の高い債 務負担がそれだ。これらの逆風が重なれば、1.4%の成長率はゼロに近 づく可能性があると言う。

教授によれば、極めて低い成長率というのは、人類の歴史において その早い時期には標準だった。教授は英イングランドのGDPの伸び が1300年から1750年の間に年平均でわずか0.2%だったことに言及し、 それが再び標準になる可能性があると説く。

世界の成長が限界に達したという考え方は、ばかげたようにみえる かもしれない。アップルの製品のように、われわれの暮らしを変えるこ とを約束する新製品が毎月のように発売されるからだ。それでもゴード ン教授は、こうした製品は素晴らしいかもしれないが、生活水準にもた らした変化は屋内トイレの半分にも届かないと語る。

大停滞

ジョージメイスン大学のタイラー・コーエン教授(経済学)もゴー ドン教授のイノベーション(技術革新)の停滞という考えに賛同す る。2011年に出版した「大停滞」でコーエン教授は、歴史を通じて人口 1人当たりのイノベーションに注目した米国防総省の物理学者ジョナサ ン・ヒューブナー氏の研究を引用。1人当たりのイノベーションは第2 次産業革命の初期に当たる1873年ごろがピークだったと指摘した。

中国とインドでは、2012年の経済活動の緩慢なペースが心配された とはいえ、宴は終わったと考える理由はほとんどない。中国の一人っ子 政策で人口が急速に高齢化しているが、国内に累積した貯蓄と需要も十 分ある。インドはお役所仕事と保護主義、汚職がはびこり、インフラが 不足している状況に取り組んでいる。

米国の生産性低下というゴードン教授の指摘は正しいとしても、将 来に関する見方は間違いかもしれないと指摘するのは、元モルガン・ス タンレーのチーフ・グローバルエコノミスト、スティーブン・ローチ 氏。エール大学でアジアによる世界経済への影響を研究し、生産性に関 して長年探究しているローチ氏は、ゴードン教授が挙げた逆風につい て、「永続するものは1つもなく」、重要性は薄れていくとみる。

悲観ムード

ニューヨークに本拠を置くシンクタンク、インスティチュート・フ ォー・ニュー・エコノミック・シンキング(INET)の幹部、ロバー ト・ジョンソン氏は、エコノミストは現在から未来を推測する傾向があ るだけに、「今のセンチメントが増幅されがちだ。現在は下降局面のた め、センチメントは少し悲観的だ」と指摘する。

コロラド大学の政治学者で環境やイノベーション政策を専門にする ロジャー・ピールク氏はこうした悲観論を検証するため、ゴードン教授 と同じ歴史データを分析した。同氏の結論は、経済成長のペースは変化 し得るが、成長は尽きることがないというものだ。伝染病や戦争、景気 下降を通り抜け、リスクを管理しながら成長を促進していく力は人類の 歴史の中で永続している特性だ。

世界経済フォーラムが掲げる弾力性のあるダイナミズムというテー マもこうした信念に通ずるものだ。このスローガンを実現する方法を見 いだしていくことは、ダボス会議にとどまらない世界の課題である。

原題:Davos Pitch for Resilient Dynamism Meets Gordian Knot on Growth(抜粋)

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