【コラム】ゴールドマンの「秘密チーム」で思うこと-コーハン

米ゴールドマン・サックス・グルー プの中に約10億ドル(約890億円)の自己資金の投資に携わる「秘密」 チームがあることを暴いたブルームバーグ・ニュースの記事に、ウォー ル街は眉をひそめた。

しかし、この記事でもっと大事なことは、銀行が取っても構わない リスクとそうではないリスクに細かい区別をつけようとするいわゆるボ ルカー・ルールに意味があるのかを問い掛けている点だ。ボルカー元連 邦準備制度理事会(FRB)議長は、銀行がどちらに転んでも損をしな いリスクテークを減らそうとしてきたが、これはボルカー・ルールによ っては達成されない。

バンカーやトレーダー、経営陣の行動を正しく取り締まる方法はた だ一つ。かつてウォール街の各社がプライベートパートナーシップであ ったころのように、自らの行動が直接自分たちの財布に響くようにする しかない。それ以外の方法では、意味のある変化は望めない。

これを念頭に、ゴールドマンの社内秘密チームについて考えてみよ う。ゴールドマンは自己勘定トレーディング事業を閉鎖したとロイド・ ブランクファイン会長兼最高経営責任者(CEO)が公に宣言したにも かかわらず、名門プリンストン大学出身者らで固めた「マルチストラテ ジー・インベスティング(MSI)」というチームを持ち、ブルームバ ーグ・ニュースの記事によれば、株主の金である「約10億ドルを企業の 株や債券に」投資している。

このチームの前身は、同じように秘密めかしたヘッジファンド風の 「スペシャル・シチュエーション・グループ」だ。ここはパートナーら が自らの大きな富をありとあらゆる金もうけ戦略に投資するための部門 だった。例えば、同グループは管財人の下にあった韓国の酒造業者、眞 露に投資して少なくとも8億ドルの利益を得た。

賢明な戦略

しかし、ゴールドマンがパートナーや株主の金を組織的かつ賢明に 投資したからどうだというのか。誰もゴールドマンに投資することを強 制されたわけではない。同社の事業内容が気に入らないなら、同社の株 や社債を買わなければいい。

ゴールドマンの高リスク行動が金融システムを崩壊させるのを防が なければならないという考え方もあるだろう。これがそもそも、ボルカ ー・ルールの原点だった。

だが忘れてはならないのは、ジョッシュ・バーンボーム氏を中心と するゴールドマンの少人数のトレーダーらが2007年の住宅ローン危機を 予想し、その見方に基づいた取引が同年のゴールドマンの利益を約40億 ドル押し上げたということだ。つまり、自己勘定取引は金融危機時にゴ ールドマンをリスクにさらしたどころか、どの同業者よりもうまく危機 を乗り切ることを可能にさせた。

07年のウォール街メルトダウンの中で、ゴールドマンは当時過去最 高だった170億ドルの税引き前利益を上げ繁栄していた。なぜボルカー 氏はそのような投資をやめさせようとするのか。

ゴールドマンの文化

むしろ、ウォール街の全ての企業がゴールドマンで見られた健全な リスクテーク文化を持つことが望ましいのではないか。規制する側とさ れる側がいずれも許容できるようなボルカー・ルールを作るために弁護 士やロビイストに何百万ドルも支払って時間を費やすよりも、この規則 を全部お釈迦にした方がよいのではないか。

ただ、その場合にはウォール街でのインセンティブを考え出す必要 がある。慎重にリスクを取る人は報われ、リスクテークが失敗した時に は自らの財布が直接痛むようなシステムだ。

ウォール街ではその昔、リスクテークと報いのバランスがまさに適 切で、世界の羨望(せんぼう)の的になった。しかしこの伝統は1970年 にドナルドソン・ラフキン・アンド・ジェンレットが株式を公開して先 例を作ると、他のパートナーシップも続々と追随する中でほぼ完全に失 われてしまった。

新規株式公開(IPO)ラッシュの中で失われたのは企業形態だけ ではない。賢いリスクテークが報いられ、説明責任というものが確実な システムが壊れてしまった。

10年以上にわたる社内での議論を経て、ゴールドマンは1999年5月 に株式を公開。フルサービスのウォール街の他の大手金融機関はどこも 実施済みだった。パートナーシップ時代の文化の名残を今も唯一残して いるゴールドマンには、多々問題がある。尊大、傲慢(ごうまん)、貪 欲などなど。しかし、リスクを理解する能力の欠如という問題はない。

過去10年のゴールドマンの行動から学ぶべきことは、慎重なリスク テークと真剣な説明責任こそがウォール街の進むべき道だということ だ。大勢の弁護士とロビイストが真夜中に作り上げた分厚い法律文書に 守ってもらえると信じることではない。(ウィリアム・D・コーハン)

(ウィリアム・D・コーハン氏は「Money and Power: How Goldman Sachs Came to Rule the World(マネー・アンド・パワー:ゴールドマ ンはいかにして世界の支配者になったか)」の作者で元バンカー、ブル ームバーグ・ビューのコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身 の見解です)

原題:Goldman’s ‘Secret’ Team Shows Volcker’s Folly: William D. Cohan(抜粋)

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