UBSは退却、クレディSは執着-正反対の賭けに出た2巨人

ウォルフスバーグ城は作家のアレク サンドル・デュマや音楽家のフランツ・リストなどを迎えてきた、437 年の歴史を誇るスイスの名城だ。この城にスイス最大の銀行UBSのセ ルジオ・エルモッティ最高経営責任者(CEO)は昨年9月、幹部を集 め晩餐会を開いた。ダイニングホールの壁には「カルペ・ディエム(そ の日をつかめ)」の文字。晩餐会の目的は同行の株主リターンを高める 計画を練ることだった。ブルームバーグ・マーケッツ誌2月号が報じ た。

金融危機中に570億ドル(約5兆800億円)余りの損失を出して以 来、UBSは苦しい立場に立たされている。国内同業のクレディ・スイ ス・グループも同じだ。スイス議会は2011年に銀行の資本と流動性に関 し世界で最も厳格はな規制を承認。このため同国の銀行は証券部門の利 益を犠牲に、リスク低減化と資本増強を迫られている。

銀行の守秘権をめぐる見直しも、世界の富裕層資産を引き付けてき たスイスの銀行に、運用事業モデルの転換を余儀なくさせる。また、元 従業員のクウェク・アドボリ被告(32)は23億ドルの損失をめぐりその 翌週にロンドンで裁判を受けることになっていた。未承認取引による損 失として、23億ドルは英史上最大の規模。

ウォルフスバーグ城でのUBS会合の2日前、スイス国立銀行(中 央銀行)のヨルダン総裁はチューリヒでの会議で、「スイスの銀行の事 業・収益環境は厳しくなっている」とし、「スイスの金融センターへの 圧力は強さを増している」と語っていた。

80年ぶりの大改革

このような環境の下で就任1年弱のエルモッティCEO(52)は行 動を起こそうとしていた。ボーデン湖を見下ろすウォルフスバーグ城で 2日にわたり、同CEOは、アドボリ被告が所属し、金融危機時に過去 最悪の損失を出し、債券事業が苦戦している投資銀行を縮小する計画を 説明した。これは数千人の解雇につながり、創業151年のUBSを資産 運用という基本に回帰させる大胆な手術だ。

会議から2カ月後、エルモッティCEOはUBS本社でインタビュ ーに応じ、「数字と自行の位置を確認し、7月終わりまでにさまざまな 仮定を検討し選択肢を絞り込んだ。数週間の休暇の後戻ってきてみる と、事態はむしろ悪化していた」と語った。UBSが1万人を削減し債 券トレーディング事業の大半から撤退すると発表した後だった。

安全の象徴として世界から高く評価されていたスイス銀行業界の80 年ぶりの大変革は、同国経済にも爪痕を残している。UBSとクレデ ィ・スイスを合わせた資産はスイス国内総生産(GDP)の4倍を上回 る。金融業界は1990-2009年のスイスの経済成長のほぼ3分の1を支え てきたが、GDPに占める同業界の割合は低下しつつある。スイス銀行 協会によれば、2011年は6.2%と07年の8.7%から低下していた。

引き返すという選択肢はない

スイスの金融市場監督当局であるFINMAの銀行監督責任者、マ ーク・ブランソン氏は「スイスでの大き過ぎてつぶせない問題は、世界 の大半の主要金融センターよりも深刻だ」と指摘。「そのリスクを認識 していて、悪条件下で何が起こるかを近年目の当たりにしていれば、シ ステム内にバッファーを求めない方が無責任というものだろう」と語っ た。

厳格な資本規則に対応しUBSは11年に、投資銀行部門の資産をリ スク加重ベースでほぼ半減させると表明した。ウォルフスバーグ城での 晩餐会の翌朝、城の敷地内にある近代的なデザインの会議室でU字型テ ーブルを囲んだUBS幹部らに、引き返すという選択肢はなかった。

一方で、投資銀行事業から完全に撤退することも不可能だった。エ ルモッティCEOと幹部らは数カ月前に、UBSは富裕層や法人の顧客 向けに株式売却などのサービスの提供を続ける必要があるとの結論に達 していた。残る決定は、同部門をどの程度縮小させるかだった。10時間 にわたる会議が休憩に入るころにUBSのバンカーらは、月末にオース トラリアで開かれる取締役会で提示する案で合意していた。

クレディ・スイスが選んだ異なる道

エルモッティCEOはシドニーでの取締役会の反応について、「取 締役たちはショックを受けたようだった」と振り返った。取締役会はこ の会議で同案を暫定的に承認した。「役員らは恐らくわれわれの案に満 足していたが、経営陣がそんな提案をするとは信じられなかったのだろ う」と同CEOは述べた。

投資家も満足した。株価は計画が発表された11月30日の週に18%上 昇と週間ベースで3年半ぶりの大幅高になった。株価上昇は、イタリア 最大の銀行、ウニクレディトの投資銀行バンカーだったエルモッティ CEOとドイツ連邦銀行(中銀)前総裁のアクセル・ウェーバー会長に 対する信任票だった。

一方、クレディ・スイスは異なる道を選んだ。UBSのように過 去20年にわたって構築してきた事業から撤退するのではなく、クレデ ィ・スイスはゴールドマン・サックス・グループやJPモルガン・チェ ースなどのグローバル企業とあらゆるレベルでの競争を続けることを望 んだ。

ドゥーガン氏の賭け

1990年からクレディ・スイスに在籍し、07年にトップに上り詰める 前の3年間投資銀行を率いた米国人のブレイディ・ドゥーガンCEO は、部門を縮小するのではなくコストを削減し、他行が撤退しつつある 証券事業で収入の世界シェアを伸ばせばリターンを高められるとの賭け に出た。

両行とも新規制に対応するため資産をリスク加重ベースで減らし、 自己勘定トレーディングから撤退してはいるが、クレディ・スイスの投 資銀行部門は最終的に、UBSの2倍の規模になる見込みだ。ドゥーガ ンCEOは、通常の環境であれば投資銀行は全行の利益の半分程度を稼 ぐはずだと述べた。12年1-9月は39%。UBSでは、07年より前は投 資銀行が税引き前利益の約40%を生み出していたが、将来的には20%前 後になる見通し。

ドゥーガンCEO(53)は昨年11月のインタビューで、「投資銀行 で資本コスト以上の収益を出せるならば、投資家は当行が資本を投資銀 行事業に割り当てるのに賛成するはずだ」と話した。「そのように投資 家を説得したいが、今のところ納得してくれていない」という。

クレディ・スイスの株価は昨年0.9%上昇。一方UBSは28%上昇 した。

勝敗は投資家が見極める

JPモルガンのロンドン在勤の銀行アナリスト、キアン・アボホセ イン氏も納得していない1人だ。コスト削減はクレディ・スイスの収益 力を回復させるだろうが、UBSの戦略の方が成功する確率が高いとい う。

アボホセイン氏は「クレディ・スイスは依然としてクレジット事業 に固執しているが、これは極めて変動の激しい事業だ」と話す。「クレ ディ・スイス経営陣に与えられた時間は限られている。13年中に成果を 見せなければならない。株主に適切なリターンを提供するよう求める圧 力は厳然としてあり、できない場合はUBSと同じ道を取らなければな らないだろう」と同氏は指摘した。

クレディ・スイスとUBSの両方でCEOを務めた経験のあるオズ ワルド・グルーベル氏は、それぞれ異なる賭けに出た両行が出す結果 を、投資家は容易に見極めることができると話す。「両行の戦略が分か れたことは、債券事業を継続するのが得策か、あるいは撤退するのが有 利かを見極める絶好の機会を提供する。四半期ごとにこれを判断でき る」と同氏は述べた。

原題:UBS Retreat Plotted at Castle as Credit Suisse Attacks Expenses(抜粋)

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