【コラム】信用格付けに挑む安倍政権の危うさ-W・ペセック

麻生太郎氏(72)は多忙な毎日を送 っている。彼ほどの歳になれば大半の日本人は幸せに引退しているのが 相場だが、麻生氏は3つの仕事を新たに引き受けた。副首相と財務相、 それに金融担当相の3つだ。

この3つの重責を同時に背負ったということは、麻生氏がデフレ終 息と円高是正を断固やり遂げるべく任ぜられたということだ。また、こ れまでだれもがやったことのないこととして、麻生氏は政策立案者や投 資家にとって非常に関心の高い実験を行おうとしている。すなわち、信 用格付けが重要かどうかを試そうというのだ。

麻生氏が先月首相に選ばれた安倍晋三氏から全幅の信頼を得ている ことは明らかだ。同氏は経済政策の専門家ではあるが、それだけではな く先週はミャンマーに出向き、中国の地域覇権の野望をくじこうともし ている。

安倍首相と麻生財務相はアジア地域における日本の優位という思想 とケインジアン的な景気刺激策への思いが強いという点で考え方が共通 している。ケインジアン的施策に関して言えば、それによって日本は先 進国の中で累積債務残高の対国内総生産(GDP)比率が最も高くなっ てしまっている。しかし、お金の蛇口を再び開こうとしている彼らの計 画をめぐって、ムーディーズ ・インベスターズ・サービスやスタンダ ード・アンド・プアーズ(S&P)、フィッチ ・レーティングスとい った格付け会社とどのように対立することになるのかについて、2人は ほとんど説明していない。

魔法の処方箋

自民党は2009年に政権の座を失うまで約50年間にわたり日本を支配 してきた。そして3年間の野党時代を経て自民党がどれだけ変化したの かを示すべく安倍氏は日本の沈滞に終止符を打つ「危機突破内閣」を樹 立した。自民党は改革のお題目を考案するのは得意だが、実行するのは さほどでもない。自民党政権がこれまで実施してきた景気刺激策は日本 の競争力を高め、次のアップルとなる企業を生み出し、中国の経済力拡 大に歯止めを掛け、さらに韓国がアジアの革新のリーダーとなるのを阻 止することができただろうか。

新しく生まれ変わった自民党を信じてくれと、安倍首相と麻生財政 相は国民に訴える。彼らは積極的なインフレ目標設定と日銀に対して無 制限に国債を購入するよう求める2本柱の経済政策こそが日本を再び繁 栄に導く魔法の処方箋だと断言する。

動機は十分はっきりしている。日本は過去15年間にわたりデフレを 撃退しようとしてきた。日本はなぜありとあらゆる資金を問題克服のた めに投入しないのか。目的のために手段を選ばないことが許されないの か。だが、この目論見については東京の政府当局者らが考慮していない 関係者がいる。すなわち、日本の財政の健全性に影響を与える見解に関 する裁定者たちだ。

格付け会社

奇妙な国債格下げがあっても影響は及ぼさないとの説を唱える見解 もある。ガイトナー米財務長官に聞いてみるがいい。米国がAAA格付 けを失ったのはだれの見立てによるのかと。S&Pがやったことは米債 券市場に強気相場をもたらしただけだ。投資家は十分な国債を手に入れ ることができず、利回りは歴史的低水準に落ち込み、S&Pの数値分析 家が赤っ恥をかく結果となった。

ただし、格下げされた後の日本が1%を下回る利回りを維持し、格 付け会社にとってはまた不面目な事態となるかどうかはまだわからな い。2002年にボツワナよりも低い格付けを与えられた日本は格付け各社 に宣戦布告した。日本は格付け会社の評価方法を調査し、それが世界的 にも大きく報道された。

安倍首相と麻生財務相は、格付け会社が日本の格下げにどこまで忍 耐できるかをまさに試そうとしている。だが、債務の対GDP比 率171%のギリシャが投資不適格に格付けされているのに対して、対 GDP比率が250%に近づき、さらに突破しようとしている日本の債務 状況を信用アナリストらが看過することはあるまい。また自民党から新 しい考え方が示されていないことも好ましいとは思わないだろう。新し い景気刺激策が一気に実施されるにあたっては、その潜在的効果を高め る戦略が伴わなければならない。

乗数効果

過去に見られた無用の公共事業を繰り返さないためには、しっかり とした説明責任が求められる。もし新たな大規模インフラ支出があると するなら、大震災被害を受けた東北地方に集中させるべきだ。また、銀 行に政府債をため込めさせないために、銀行の政府債保有に新たに課税 することも必要だろう。銀行に資金を融資に回すインセンティブを与え ることで、金融政策の乗数効果を高めることができよう。そうでなけれ ば日本はまたも何兆円、あるいはそれ以上の資金をドブに捨てることに なってしまう。

麻生財務相は元首相であり、筋金入りの自民党員だ。彼が何も語ら ず、何も実行に移していないのは、新しい仕事に新たな目線あるいは道 具で取り組もうとしていることを示唆している。それは安倍首相につい ても言える。安倍氏の2006年から07年にかけての首相としての実績はと ても際立っていたとは言い難い。

2大顧客

安倍氏は外交政策に関してビジョンを持っているとは言い難い。軽 率なナショナリストとして近隣諸国をいらだたせるのに余念がなかっ た。彼は第二次世界大戦時に主に韓国で起こした慰安婦問題に1990年代 に謝罪したことを再検討しようとしている。また彼はより優勢な中国と 対峙するため戦後に制定された日本の平和憲法を書き換えたいと考えて いる。S&Pは中国に対しても日本と同じ「AAマイナス」の格付けを 付与している。安倍氏は尖閣諸島をめぐる緊張を間違いなく高めてい る。もし日本の2大顧客が日本製品をボイコットする事態となれば、円 を押し下げることにどんな意味があるというのだろうか。

財政が泥沼状況にある中で、刺激策だけに頼るのは日本の信用力を 損ねる恐れがある。安倍首相がいま、中国が日本に対して優位に立って いることに激怒しているなら、中国の格付けが日本のそれを大幅に上回 る事態になった時にはどれだけ怒り心頭に発するのか知りたいものだ。 (ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏はブルームバーグ・ビューのコラムニス トです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

原題:Do Credit Ratings Matter? We Will Soon Find Out: William Pesek(抜粋)

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