【コラム】日中両国はヤギに囲まれて首脳会談を開け-ペセック

日本が尖閣諸島、中国が釣魚島と呼 ぶ島には、もっといい名前がある。ヤギ島はどうだろうか。

ヤギしかいない岩ばかりのこの無人島のために、日本と中国は戦争 でもしかねないありさまだ。パネッタ米国防長官が軍事的衝突の心配を するこの対立は、今の世界にとって最も避けなくてはならないことだ。

大げさと思うだろうがそうではない。日本のビジネスマンが上海の オフィスから引きずり出されて暴徒に殴打される、あるいはさらに悲惨 な目に遭わされるといった出来事さえ想像に難くない。事態は急激に手 に負えなくなる恐れがある。パナソニックやキヤノンが中国工場の操業 を停止したのもそのためだ。問題の島付近にいる日本と中国の船舶にも 同じ危険がある。判断ミス、衝突そして銃撃がより規模の大きな争いに つながることも想像できないことではない。

日本と中国は今すぐ愚かな論争をやめる必要がある。野田佳彦首相 と中国の胡錦濤国家主席は直ちに話し合い、何らかの休戦協定を結ぶべ きだ。首脳会談が開ければもっといい。両国にとってそんなにも大切な 島でヤギたちに囲まれて会談すればどうか。あるいはホワイトハウスで オバマ米大統領のチームが仲を取り持つのがいいかもしれない。

今回の日中危機はこれまでとは異なるように感じる。国際社会のメ ディアはこれを2005年以来で最悪だが同じような危機の1つと見なしが ちだ。当時は日本の歴史教科書への抗議で中国市民らが多数の都市でデ モを繰り広げ、日本製品のボイコットを叫んだ。7年後の今日、再び似 た事態になっているものの、問題を取り巻く一連の状況ははるかに複雑 だ。

根底にあるもの

われわれはこれを、さして価値のない土地をめぐる争いだと思い込 むこともできるし、漁業権と天然資源の奪い合いだと考えることもでき る。しかし実は、島は代用品なのだ。根底にあるのは、第2次世界大戦 中に日本がアジアに与えた痛みを十分に償っていないという中国側の認 識だ。この悪感情は今後も燃え上がり、アジアの可能性に水を差すこと だろう。

中国と日本の間のもめごとだけでも、過去10年で3倍になり、3400 億ドル(約27兆円)余りの規模に達した貿易を脅かす。その上、これは 韓国、インドネシア、ベトナム、フィリピンなどが関与するアジアの中 の対立の一つなのだ。業を煮やしたフィリピンのアキノ大統領は南シナ 海を西フィリピン海と改名して中国を逆なでした。

今回の緊張の高まりでこれまでと違うところは、中国と日本の内政 事情だ。

内政問題

不祥事や今年の政権交代の潜在的な問題点から国民の目をそらした い中国は、火に油を注いでいる。同国で抗議行動は決して寛大に扱われ ることはないが、外国の大使館の前で中国共産党の政策を推進するよう な行動だけはとがめられない。中国全土で何千何万の市民が反日デモに 繰り出しても、警察官は街頭に所在なげに立っている。

一方、日本を1年半前に襲った大地震は地面ばかりでなく日本の自 信を揺さぶった。デフレと政治的まひが、かつては日本経済の誇るべき 核だった銀行や製造業、輸出産業をむしばんでいる。日本の外交努力は 中国の世界的な広報戦略と資金力の前に影が薄い。

国家主義的発言で知られる東京都の石原慎太郎知事には、そんな日 本の影響力低下が歯がゆくてならない。同知事は4月に尖閣諸島を都の 予算で買収する計画を表明、危機の発端を作った。結局、政府がこれら 諸島を直接買い取ることになり、中国との対立は激化した。

日本の政治家は支持率が下がるたびに反中国カードを切る傾向があ る。しかし今回の日本国民の行動はいつもと違う気がする。今までの抗 議行動と言えば、黒い宣伝カーに乗った右翼がスピーカーで過激なスロ ーガンをがなりたてるというのが定番だった。今回は何か、家族の出来 事のような感じだ。流行の先端の渋谷付近の街角で、子供連れの若い母 親がパンフレットを配っている。今回は日本国民もより強い関心を持っ ているようなのだ。

危うい未来

中国と日本はこのような緊張に歯止めをかけるために行動する必要 がある。手をこまぬいて事態が日々悪化するに任せていてはアジアの未 来を危うくする。アジアがすべきことは山積している。自由貿易協定 (FTA)の締結、移民政策と税制、会計基準の調和、各国政府のバラ ンスシートに積み上がる米国債をどうするかの相談などだ。しかしアジ アの過去が、豊かで平和であるべき未来の妨げになり続ける限り、アジ アはこれらのどれ一つ実現できない。

最後にもう一つ言わせてもらえば、島を買い取るのに巨額の税金を 使うのは賢明ではなかった。金持ちの石原知事に自分の資産で買い取っ てもらい、尖閣諸島に引っ越してもらうのはどうか。多くの仲間たちが 歓迎してくれるだろう。(ウィリアム・ペセック )

(ウィリアム・ペセック 氏はブルームバーグ・ビューのコラムニ ストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

コラムに関するコラムニストへの問い合わせ先: 東京 Willie Pesek +81-3-3201-7570 wpesek@bloomberg.net

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