日本航空は19日、経営破たんによる 上場廃止から2年7カ月で東京証券取引所1部に再上場した。同社の終 値は、公開価格比1.1%高の3830円となった。今後は出遅れていたサー ビスを刷新することで国際線のビジネス客などを取り込めるかどうかが 収益力の鍵を握る。

同株の初値は、公開価格3790円と比べ0.5%高の3810円。その後、 一時同3.0%高の3905円まで買われた。売買代金は1556億円で東証首 位。終値を基に算出した時価総額は約6950億円で全日本空輸を上回り、 国内最大の航空事業会社となった。ブルームバーグ・データによると、 アジアで2番目に大きな航空会社の中国国際航空に近づいている。

日航上場は今年、最大の新規株式公開(IPO)で、2010年4月に 日本の大手生保会社では初めて新規上場した第一生命以来の大きさ。今 年の東証での新規上場は、日航が32社目。昨年は通年で41社。東証は今 年、新規上場で50社以上を目指す方針。上場申請した企業の中で、日航 を上回る規模の上場は見当たらない。国際的にみても米フェイスブック に次ぐ規模のデビューとなる。

グローバル・コーディネーターは大和証券が努め、国内の共同主幹 事は大和のほか、みずほ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、 野村証券、SMBC日興証券が務めた。海外の共同幹事会社はダイワ・ キャピタルマーケッツ・ヨーロッパ、メリルリンチ・インターナショナ ル、モルガン・スタンレー。日航の売り出し株式数は1億7500万株、売 買単位は100株。

再建を主導した企業再生支援機構は、日航の保有株をすべて売却 し、同社への再生支援を終了した。出資した3500億円のほぼ2倍の金額 を回収し、国庫に返納する。政府系ファンドとして大型の企業再生を成 功させたことになる。日航は同日、支援機構の持ち株比率がゼロになっ たと発表した。

証券会社BTIGによると、上場前の株式を取引する香港のグレー マーケットでは18日の取引で、公開価格を大きく上回る4170円を付けて いた。

初値は公開価格の0.5%高

バークレイズ証券の姫野良太シニアアナリストは日航株の初値の印 象について「想定通り堅調だ。きょうはマーケット全体も好調なことや やはりメディアも大きく取り上げるなど期待先行の部分が大きく影響し てるようだ」と語った。

フィスコの小川佳紀株式アナリストは初値について「思ったほどの 高値にはならなかった」と印象を述べた上で、「寄り付き前からあまり 注文が入ってなかった。現在は個人投資家の買いが中心になっているよ うだ。ただ、逆に言えば買いやすい値段になったとも言えるので、値ご ろ感から買いに出る投資家も多いのではないか」と指摘。「今後は MSCIなど複数の指数に日航株が組み込まれることから機関投資家が 月末にかけて買ってくる形が想定される」という。

独立系投資顧問会社バリューサーチ投資顧問の松野実社長は「売り 出し価格がやや高すぎた。仮上限の上限というのは厳しかったのではな いか。ただプラスになったことで順当な寄りとも言える。短期的には株 価のじり高の展開になるとみいている」と述べた。

過去の大型上場の例をみると、第一生命や今年最大のIPOの米フ ェイスブックの株価は、同じように初値は公開価格を上回ったものの、 その後は値を崩した。第一生命の初値は16万円だったが、その後2カ月 を経ずして公開価格14万円を割り込んだ。19日の株価終値は9万8000 円。同様に公開価格38ドルのフェイスブックは18日終値で21.87ドルと なっている。

大和証券チーフテクニカルアナリストの木野内栄治氏は同日付のア ナリストリポートで、市場全体の影響について「JALが公募価格を上 回って寄り付いたことで安心感が拡がった印象。それに連れてか電力や 通信などの公共関連株がしっかり。同じ様な現象はANAの公募株が売 買可能となった7月下旬以降にも一時見られた」と指摘。株式市場への 新規資金の誘導もあったはずであり、7月下旬以降と同様の資金の流動 化が期待できるとしている。

約10年ぶりの新商品発表

日航が、成長の期待できる国際線の中でも採算性の高いビジネス客 をいかに獲得するかが、今後の経営上の重要な要素になる。同社は13 日、国際線ボーイング777-300ER型機に導入する新しい座席と サービスを発表。ファーストクラスからビジネスクラスまでの4クラス すべてで新商品を発表するのは、ほぼ10年ぶり。初めてビジネスクラス で、乗客が水平に寝ることができるフルフラットシートを採用した。競 合他社は既に数年前に導入済みだが、同社は経営破たんに伴う混乱から この分野の設備投資は遅れていた。

植木義晴社長は発表会で、「ビジネスクラスのフルフラットシート 化は我々の切なる願いだった」と強調し、1クラス上の採用をテーマに 「顧客の要望に応えるべく取り組んできた」と語った。13年1月からロ ンドン線で開始し、その後ニューヨーク線などに順次導入する方針。同 社長は、再上場について「ひとつの通過地点」として「決して浮かれる ことなく、新たらしい株主の期待に応える」と述べた。

出遅れの挽回

バークレイズ証券の姫野氏は、新座席などの発表について、収益の 柱の1つとなる「ビジネスクラスのグレードをアップした意味は大き い」と指摘する。海外出張の多いビジネスマンは、「航空会社のサービ スや機内食にこだわりや好みのある人が多い」として、最新のシステム 導入は顧客を取り返すという意味で良い方向だ、という。

また同氏は、今年は不況を反映して出張ではビジネスクラスからエ コノミーに切り替えた企業が多いと説明。そのため、エコノミー席を前 後、横それぞれに余裕を持たせた改良も支持されるはずと述べた。

航空経営研究所のジェフリー・チューダー主席研究員は、アジア太 平洋地域での厳しい競争環境の中で、「日航はやや出遅れており、シー トだけでなく機内食や質を一段と向上させる必要があった」と指摘。そ の上で「今回の新商品、サービスの発表をみる限り、それらの弱点を克 服するものが提供できると確認できた」と評価する。

全日空の伊東信一郎社長は、ブルームバーグ・ニュースの問い合わ せに対し、日航の再生に向けた努力に敬意を表した上で「これからもよ きライバルとして切磋琢磨して、航空業界の発展のために尽力していき たい」との談話を発表した。さらに、日航が受けた税制・財務上の恩恵 に関連し、「いかなる時代でも、フェアな競争環境は正常な経済・企業 活動に不可欠で、そういう視点で見ていきたい」と強調した。

予想PER

同社の13年3月期連結業績予想は、売上高が前期比1.3%増の1 兆2200億円、営業利益は同27%減の1500億円、純利益は同30%減の1300 億円を見込んでいる。1株当たり利益は716円84銭を込んでいる。終値 から算出した予想PER(株価収益率)は5.3倍となる。全日空の2013 年3月期第1四半期の資料から算出した予想PERは14.4倍。ブルーム バーグ・データによると、市場全体のTOPIX構成銘柄の平均予想 PERは13.21倍。

日航は1951年8月に前身である日本航空株式会社が設立された。53 年に政府が折半出資することで日本航空が設立され、国内で唯一の国際 線航空事業の免許を持つ会社となった。61年に東京証券取引所などの2 部に上場し、70年に市場1部指定となった。83年には旅客・貨物輸送実 績で世界1位となり、その後5年間首位を維持するなど事業が好調だっ た時期もある。

87年の完全民営化後、2002年に日航と日本エアシステムが統合し た。その後、事業が低迷し、10年1月に会社更生法手続きを申請、2月 に上場廃止となった。企業再生支援機構の支援を受け、京セラの稲盛和 夫氏が主導で経営再建に取り組み、12年度は過去最高の収益を上げた。

コーポレート・ガバナンス支援事業などを手掛けるENアソシエイ ツの代表取締役で早稲田大学大学院客員教授の長友英資氏は、日航の再 上場に「わずか三年弱での再上場が是か非か、その評価は今後のステー ク・ホルダー全てへの対応の如何に掛かっている。残った全社員が本当 に真剣で意識改革をしてきたのか、経営陣もそうなのか、公器に返り咲 いたこれからが本当の勝負になる」とコメントした。

ダメな会社も建て直し実証

午後3時から日航と企業再生支援機構が合同で会見を行った。企業 再生支援委員会の瀬戸英雄委員長は、破たん直後に「公的資金を投入し ても毀損するのではないかとの見方が多かった」ものの、「ダメな会社 でもしっかりした経営指導があってリスクマネーを投入すれば建て直し できると実証された」と強調した。植木義晴社長は、「きょうの株価に 一喜一憂せず、企業価値を高め、長期的な経営に取り組んでいきたい」 と抱負を語った。

稲盛名誉会長は「企業というのは成長しなければならない、ただ拡 大路線をとることはリスクをとることにもなる」とした上で、内容の良 い経営を続けることが重要とし「大西会長と植木社長にはくれぐれもお 願いしたい」と述べた。上場を無事果たしたことで「来年1月でちょう ど3年をきりに辞めさせてもらう考えだ」と辞任の意向をあらためて示 した。

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