超小型車で街スイスイ、元トヨタ社長秘書も起業で参入-認可で脚光

遊園地のゴーカートのように小さ なクルマでちょっとそこまで買い物に-。こんな光景が近い将来、日 本のあちこちで見られるかもしれない。国土交通省は軽自動車よりも コンパクトな超小型車普及に向け規制緩和に乗り出した。新たな商機 をつかもうと、民間でも事業化への取り組みが活発化している。

トヨタ自動車を脱サラして起業した杉本祥郎氏もその一人だ。ト ヨタ勤務時に豊田英二最高顧問の会長時代と、豊田章一郎名誉会長の 社長、会長時代に秘書を務めた杉本氏は1996年、45歳でサラリーマ ン以外の生き方を試したいと独立した。

当初はトヨタ時代の人脈をもとにコンサルタント業に取り組んだ が、数年前から電気自動車(EV)開発に方向転換。その後、簡単に つくれる超小型車を導入する機運が高まり、「時代の転換点になりチャ ンス」と感じて超小型車開発への特化を決め、昨年3月にタウンEV を設立した。

国交省のガイドラインによると、超小型車は高齢者や子育て世帯 などの身近な交通手段としての役割が期待されている。1-2人乗り 程度で環境性能にすぐれ、用途は5キロメートル圏内の移動や小規模 の配送サービスなどを想定している。

国交省環境政策課の星明彦氏によると、現在は既存の車両区分に 収まらないため公道を走れないが、今年度中に安全性などの基準を示 した認定制度を導入し、新基準を満たした車両の走行を認める方針。 今後の利用状況を見極めた上で、普通、小型、軽などの車両区分に超 小型車を新設することも視野に入れている。新たな車両区分ができれ ば半世紀ぶりとなる。

軽とスクーターの中間

国交省は昨年度まで2年間、一部地域で超小型車の実証実験を実 施、一定の需要があることを確認した。具体的な規格は未定だが、実 証実験では2人乗りゴルフカートのような大きさの車から、電動立ち 乗り二輪車「セグウェイ」のようなタイプ(ウイングレット)まで、 さまざまな形状やサイズの9車両が使用された。フル充電で走行距離 は10キロメートルから110キロ、最高速度は時速6キロから80キロ までとさまざまだ。

調査会社IHSオートモーティブの川野義昭アナリストは「軽自 動車とスクーターの間を埋める車がこれまでなかった。お年寄りだけ でなく、子供を送迎する母親や若い女性の通勤通学などの用途が考え られる」と述べ、超小型車が国内市場に一定のインパクトを与える可 能性があるとみている。

杉本氏のタウンEVでは制度の変更に合わせ、昨年の名古屋モー ターショー出展のEVコンセプトカー「ZEVe(ゼヴェ)」をベース に、来年まず1人乗りを発売する計画だ。当初は1台80万-90万円 程度に設定する。バッテリーやモーターの値下がりを見込み、2015年 度には60万円程度まで引き下げたいとしている。15年度までに年間 販売1000台、売上高30億円程度を目指す。売上高にはもう一つの柱 の軽自動車をEVに改造する事業を含む。

「ZEVe」は50キロ走行

ゼヴェは宅配ピザなどの屋根付きバイクを少し幅広にした四輪車 というイメージで、現状は最高時速約50キロメートル、フル充電で 50キロ程度の走行能力がある。将来は2人乗りの投入も視野に入れて いる。

国が普及を後押しする背景には、高齢化と過疎化に伴う地方の商 店や公共交通機関の減少で、日常生活で気軽に使える交通手段へのニ ーズが高まっていることがある。

11年版の高齢社会白書によると、10年10月時点の総人口1億 2806万人のうち65歳以上の高齢者は2958万人で過去最高となった。 国際的にも05年で既に総人口に占める高齢者の割合が20%と、イタ リアやスウェーデンを上回って世界一。50年には高齢化率が約40%ま で上昇する見込みで、白書では「わが国は世界のどの国も経験したこ とのない高齢社会を迎えている」と警鐘を鳴らしている。

買い物難民

農林水産省は、高齢者の増加や食料品店の減少などで「買い物難 民」、「買い物弱者」問題が顕在化し、高齢者などが食料品調達に困っ ていると、食料品へのアクセス状況に関するリポートで指摘。道路距 離が1キロを超えると不便や苦労が大幅に増大し、自分で自動車を運 転する場合はそれが大幅に軽減されるという。また高齢者に限らず、 大都市郊外団地でもこうした傾向があるとした。

国内販売の頭打ちが見込まれる既存の自動車メーカーも新たなビ ジネスチャンスをうかがっている。日産自動車と資本・業務提携する 仏ルノーは「TWIZY」を欧州などで販売。都市在住者の2台目需 要を見込み、価格は6990ユーロから(約70万円、バッテリーはリー ス)。日産自・広報担当の井下寿丈氏は、新しい認定制度を活用して超 小型車を販売するかについてはまだ決まっていないとしながら、「顧客 の選択肢が広がるのはいいこと」と話した。

トヨタでは子会社のトヨタ車体が7月2日、1人乗りEV「コム ス」の新モデルを発売した。希望小売価格は66万8000円からで、発 売1カ月間の受注は約730台、年間販売目標が3000台。新モデルは 2000年から昨年まで販売したコムスの後継車種。既存の制度を活用し て、第一種原動機付自転車(四輪)の扱いとなっている。

既存メーカーも続々

大手自動車メーカーのホンダ、スズキやダイハツ工業などもコン セプトモデルを昨年の東京モーターショーに出展した。このほか、胃 薬「キャベジンコーワ」を扱う興和も子会社のコボット(福岡県)で 超小型車の開発を進めるなど、異業種からの参入も出ている。

次世代環境車について杉本氏は、短距離はEV、長距離は燃料電 池車、その中間はハイブリッドやガソリン車というように使い分けが 進むだろうと指摘。限られた地域を走る法人車両ならEVを夜間に充 電すれば1日中使え、軽自動車からの移行も含め十分な需要が見込め るという。市場は、2人乗りタイプが普及すれば年間10万台ぐらいに なり、「1台100万円とすると市場規模は約1000億円。そこそこの産 業になる」とみている。

新車開発は通常100億円以上かかるが、ゼヴェは1000万円程度で 済んだという。杉本氏は、今後も日産自の「リーフ」のような大きな EVは手掛けず、「大手ではペイしないので本腰になってやらない」と いう超小型車に特化することで、ベンチャーでも大手と伍して競争で きると話している。

最も人材豊富なEVベンチャー

トヨタの秘書時代にトップの右腕として、政府や業界関係者と調 整を重ね、一般道路沿いの休憩施設「道の駅」や新東名高速道路など の施策実現に奔走したという杉本氏。豊富な人脈を生かし、タウンE V役員にはトヨタの製品企画チーフエンジニアやデザイン部長などユ ニークな人材が集う。杉本氏は「これだけの人材を揃えているEVベ ンチャーは世界中探してもない」と胸を張る。小規模で小回りがきく 利点を生かし、「大手が参考にしないようなニッチなところで勝負をし たい」と話した。

一方、高齢者からは超小型車の安全性や利便性への懸念も聞かれ、 行政や業界の期待通り高齢者などの足として利用が進むかは未知数だ。

京都府綾部市のNPO法人事務局長、土井郁夫さん(73)は超小 型車について「高齢者の運転が心配といっても、地方では交通がそう 多くなく、せいぜい田んぼに落ちるくらい。逆に超小型車のほうがぶ つかったときに潰れやすそうで心配」と安全性に疑問を呈する。「地方 では70歳でも80歳でも農作業をしている。農機具や畑仕事の道具が 運べないのはとても不便」とも注文をつけた。

IHSの川野氏は、超小型車が普及するかどうかは、価格設定が 鍵になるとみている。「天井がついてEVで60万-70万円なら需要は あるだろうが、100万円にかかってくると厳しい」と指摘。その上で、 自動車関連税や車検費用、補助金などを含めた総コストではまだ不確 定要素が多く、販売台数の予想は現時点で難しいと話した。

--取材協力:萩原ゆき Editor:Hideki Asai、Takeshi Awaji

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