「液晶のシャープ」、液晶に溺れる-投機的格付けで試練の101年目

液晶事業の不振、財務の悪化という 苦境にあえぐシャープは15日に創業100周年を迎える。今期(2013年3 月期)の純損益も大幅な赤字見通しで、株価も低迷、格付けも「投機的 等級」まで下げられた。市場が注視する中、試練の101年目が始まる。

「液晶のシャープ」、同社を形容するこの言葉が、2000年代の初め から液晶テレビで世界をリードしてきたシャープの存在感を表してい る。業績も、08年3月期に過去最高の1020億円の純利益を記録した。そ れが今では、金融機関や他社からの支援を受けなければ立ち行かないほ どの状態に陥っている。

台湾・鴻海精密工業との提携で活路を見出そうとしたが、鴻海が1 株550円で新株を引き受ける当初の条件は、株価の大幅下落で見直しを 迫られている。鴻海との交渉妥結の見通しは立っておらず、本社や亀山 工場などの資産を金融機関向けの担保に設定するなど、苦しい経営状態 が続く。

その理由についてミョウジョウ・アセット・マネジメントの菊池真 代表取締役は「ほぼ一本足打法に近い状態で液晶事業に特化してしまっ た」ことを要因に挙げシャープが経営資源を集中し過ぎたと指摘する。

シャープの液晶事業強化戦略で陣頭指揮を執ったのは、1998年に就 任した町田勝彦社長(現相談役)。町田氏は、「05年までに国内のテレ ビをすべて液晶に置き換える」と宣言し、液晶専用工場である亀山工場 を04年に稼働。07年に就任した片山幹雄社長もこの路線を踏襲し、09年 には、世界最先端をうたう第10世代液晶製造装置を導入した大阪・堺工 場が稼働した。

その結果、11年3月期には、ソニーやパナソニックの全売上高に占 めるテレビ事業の売上高比率が10%台なのに対し、シャープは売上高の 約半分を液晶テレビと大型液晶ディスプレーに依存するようになった。

想定を超える円高と価格下落

かつては液晶で世界のトップメーカーだったシャープだが、予想以 上の円高や価格下落に悩むことになる。為替は、リーマンショック前 の08年8月は1ドル=110円水準だったが、11年11月には同75円台とな り約3割も円高が進行。主力液晶工場を日本に集中させたシャープにと って逆風となった。一方、ウォン安などを背景に、競合する韓国のサム スン電子やLG電子の攻勢が強まった。

片山氏は3月14日の社長交代会見で、米国で大型液晶パネルが生産 できる工場の建設を検討したものの、実現しなかった結果、「円高で会 社を非常に痛めている」と述べた。

リーマンショックなどによる世界経済の悪化から液晶パネル需要も 想定を下回り、価格下落が進行した。米調査会社ディスプレイサーチに よれば、液晶テレビの米国店頭平均価格は08年から10年までの3年間で 中小型は約5割、大型は約7割下落した。世界の出荷台数シェアでは、 韓国勢2社の合計が05年の17%から11年には31%まで躍進したのに対 し、シャープ、ソニー、パナソニックの日本勢3社は同期間に33%か ら22%に落とした。

液晶集中投資がむしばんだ財務体質

マッコーリーキャピタル証券のアナリスト、ジェフ・ロフ氏は、 「海外のライバル企業とは対照的に、シャープは売上高減少時に迅速に 社員数を減らせなかった」とし、過去最高益だった08年3月期よりも12 年3月期の社員数が増加していることなど、対策が遅れたと指摘した。

また、スタッツ・アセットマネジメントの大木昌光シニアファンド マネージャーは、シャープの体力からみて非常に大きな「1兆円以上の 借り入れをしてしまったのは問題」とコメント。経営陣が、どこまで借 りていいのかというリスクを認識していなかったとみている。

亀山工場と堺工場への液晶関連の総投資額は9450億円にのぼる。亀 山工場投資前の01年3月期の自己資本比率は47.1%だったのに対し12年 6月末は18.7%まで低下。一方で、有利子負債残高は1兆2520億円まで 増加した。

財務悪化は、液晶事業に費用をかけ過ぎたことが要因だ。06年 に2000億円の無担保転換社債型新株予約権付社債(CB)の起債を決断 するまで、シャープは10年以上、投資資金を内部留保の範囲内で行って きた。当時の方針転換の理由について、広報担当の武浪裕氏は「サムス ン電子や松下電器産業(当時)との競争が激化し、急ピッチな追加投資 が必要になった」と述べている。

重荷

CBの株式への転換価格は2531円と現在の株価の10倍以上で来年9 月の償還期限までに株式に転換できる見込みは極めて低く、財務の重荷 になっている。

6月末時点で約7000億円もの短期債務残高を抱えるシャープに対 し、格付け会社、米ムーディーズや米スタンダード・アンド・プアーズ (S&P)は8月末以降、相次いで格付けを、過去最低の「投機的等 級」に引き下げており、資金繰りに大きなマイナス要因となっている。

S&Pの小林修主席アナリストは、「ここまで格付けが下がってし まうと市場からの資金調達は難しくなり、金融機関との連携がますます 重要となる」と話す。資金調達という点からも期待されている鴻海精密 工業との資本提携交渉については、最終合意に至っていない。

62年前の奇跡再現となるか

8月2日、シャープは5000人の人員削減を発表した。人員削減を行 うのは、62年ぶりのこと。同社ウェブサイトによれば、前回、1950年の 「存亡の危機」は、「金融機関の援助、組合の捨て身の協力。そして全 社一丸となった必死の経営努力の末に、奇跡的に倒産を免れた」と記載 されている。

創業者、早川徳次氏が、ベルトのバックルやシャープペンシルなど の革新的な商品を作ることで事業を伸ばし、今年で創業100周年を迎え るシャープ。奥田社長は8月の会見で、中長期の展望について「クリー ンな水や空気を作る」環境関連技術はじめ、さまざまな事業の種があり 今後も成長が可能と訴えた。

ミョウジョウの菊池氏は、「今後の100年間を考える前にまず今後 1年間をどう乗り切るのか考えなければいけない」と強調する。シャー プの10日午前終値は、前週末比1円(0.5%)高の207円。

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