新規公開の日本航空株式の仮条件が きょう決定されるが、一部の個人投資家などから日航の株主となること に冷めた声も聞かれる。格安航空会社(LCC)の相次ぐ運航開始によ り、普通運賃の半額という株主優待の魅力が薄れつつあることなどが理 由のようだ。

LCCのエアアジア・ジャパンで28日に沖縄に向かう上間隆さんは 成田国際空港でブルームバーグ・ニュースに対して「日航の株式は買う つもりはない」と明言した。上間さんは以前、日航の株主だったが、保 有株式が100%減資で紙くずになった経験があるためだ。

以前は優待券を楽しみにしていた上間さんは「運賃が安いから格安 航空を使ってみる」と述べ、低価格で利用できるLCCがあるため、半 額運賃で搭乗できる優待券に魅力を感じなくなっていることも理由。

9月19日に予定される日航上場は2010年の第一生命以来の規模にな る見通し。売り出し価格は、30日に仮条件が決まる。正式決定は9月10 日の予定。売り出し株数は国内外で計1億7500万株。売り出し価格が1 株当たり3790円とした想定売り出し価格通りの場合、売り出し総額 は6600億円超の見通しで、巨額の資金が市場から吸い上げられる。

経営破たんした2009年12月末段階では、日航の個人株主は全体の 約59%を占めていた。個人投資家が航空会社の株主となる魅力のひとつ に株主優待制度がある。日航は3月末と9月末の株主を対象に国内線の 株主割引券を配布する計画。上場廃止前と同じ普通運賃1人分の1区間 片道を50%の割引で利用できる。

しかし、今年はエアアジア・ジャパンが成田-札幌線で片道の最安 運賃を4580円とするなど、LCC3社が既存大手より半分またはそれ以 下の運賃で運航を開始。その中の1社、ジェットスタージャパンは、夏 休み期間の8月10日から19日までの利用実績が9割近くとなり日航、全 日空の国内線の利用率を上回るなどLCCの人気は高い。

株主優待の比較

マッコーリー・キャピタル・セキュリティーズのアナリスト、ニ コラス・カニンガム氏は、24日付のリポートで、日系LCCの台頭によ り長期的には既存大手航空会社にネガティブな効果が出ると指摘した。 また、日航と全日本空輸の株主優待を比べると、全日空の方が優位にあ るとしている。その根拠に国内線網がより拡充していることや繁忙期な どの時期的な制約を受けない点を挙げた。

7月の1日当たりの国内便数は、全日空が約802便、日本航空は 約560便と、全日空が日航を約4割上回っている。また日航の広報担 当、武田守人氏によると「混雑時には株主割引の利用に一部制限が出る 可能性がある」。この条件は、今回新たに導入されることになった。一 方の全日空は、有効期限内ではいつでも利用でき、利便性でも全日空が 有利となっている。

日航と全日空の株主優待券の配布基準を比較すると、株式取得直後 3年以内では、株式売買の最低単位となる1単元で日航が年間1枚だ が、全日空は2枚。10単元では日航は年間10枚に対して、全日空は14枚 と多い。ただ、保有期間が3年以上なら日航株は優待が増え、全日空と の差はなくなる仕組みという。

日航への期待も

新規公開銘柄を中心に株式など市場関係の情報を配信する東京 IPOの西堀敬編集長によると、25日に「講演した個人投資家対象のセ ミナーで、実際に日航の株主になりますかと聞いたところ、数百人いた 参加者のうち誰も手を挙げた人はいなかった」という。

理由は「上場廃止になる直前の個人株主数は約36万人で、多くの人 が株式投資で実損を被っている。また、公的資金を使った支援や税制優 遇などの点での不満などが背景にあるようだ」と指摘する。

一方で、地方ではまだまだ日航への期待も高い。LCCは成田や関 西国際空港を拠点に主要都市を結ぶ幹線での運航にとどまっているた め。徳島県在住の岸本多加美さんは「全日空より東京への便数が多い日 航が半額で使える優待券は魅力が大きい」として、友人や知人も日航の 株式購入については前向きな意欲を示しているという。

マーケット環境

市場関係者の見方では、日航に対して評価する見方がある半面、い くつかのマイナス要因を指摘する声もある。独立系の投資顧問会社、バ リューサーチの松野実社長は「日航自身のコストカットが相当進んでお り、想定価格からの利益率などを見る限りそう悪くない」と評価する。

ただ「マーケットの地合いが悪過ぎる。東証1部銘柄の1日の売買 高が6000億から7000億円の日もあるなかで、ここまで大型の新規株式公 開はかなり厳しい」と述べるとともに「国内外の市場で株式を販売する 際にリーダーシップをとるグローバル・コーディネーターの立場から野 村証券が抜けたこともマイナス要因」との見方を示した。

バークレイズ証券の姫野良太シニアアナリストは「順調に準備は進 んでいると聞いている」としながらも、「個人投資家向けはやや苦戦し ているとの情報もあるようだ」と指摘。個人投資家が積極的な買いの姿 勢に出られないのは「政治リスクや全日空の公募増資などの影響も大き いのではないか」との見方を示した。

自民党は日航の再建については厳しい見方を示しており、7月には 党として日航の再上場に反対する決議を採択。国会で航空業界の競争環 境の公平性や日航再建の過程での情報開示などを求めており、国交省は ガイドラインの策定に向け検討を始めている。

中長期的には投資妙味も

さらに同党は28日、公的資金による事業再生支援が競合他社との公 正な自由競争を阻することを防ぐための法案を今国会に提出する方針を 決めた。同党の塩崎恭久衆院議員によると、同法案が将来成立した場合 は、日航の収益に約740億円の影響が出ることが予想されるという。

また、競合の全日空は7月、市場から最大で2100億円近くを集める 公募増資の計画を発表。実際に調達したのは1700億円程度に収まったも のの、9月の日航上場を前に、航空業界に関心を持つ国内外の投資家か ら大規模な資金を先取りする格好となった。

東京IPOの西堀氏は30日の仮条件発表を前に個人投資家へのアド バイスとして「感情的な側面はある程度排除して考えるべきだ」と指 摘。「日航の現在の売上高や利益、また株式投資指標で見る限り日航株 は中長期的には投資妙味のある銘柄といえる」と見方を示した。

日航は、前期(2012年3月期)決算で、連結営業利益が2049億円と 過去最高益を計上した。不採算路線からの撤退や部門別・路線別でのコ スト削減などが奏功した。1株当たりの純利益は985円、自己資本比率 は33.6%。今期の営業利益見通しは1500億円としている。

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