10年後明らかになった日銀の二枚舌-国債購入の真の理由は政治判断

日本銀行は31日午前、2002年1-6 月に開いた金融政策決定会合の内容を一言一句記録した議事録を公開し た。同年2月の会合で決まった長期国債の買い入れの狙いについて、表 向きは当時進めていた量的緩和政策の下での流動性供給手段という説明 がなされてきたが、実際は政治圧力とメディアの報道によって外堀を埋 められ、やむなく下した政治的判断だったことが明らかになった。

日銀は01年3月、日銀当座預金残高を操作目標とする量的緩和政策 を実施。同年12月19日会合で同目標を10兆-15兆円に拡大した。当時は 銀行の不良債権問題で金融システム不安が高まっており、株価がバブル 後最安値を更新するなど、金融市場で緊張が高まっていた。

そうした中、小泉純一郎首相は年明け後の2月13日、総合的なデフ レ対策を月内にまとめるよう指示。日銀に対して「デフレ克服に向けて 思い切った金融政策をお願いしたい」と発言。塩川正十郎財務相も同 月19日、「もう少し国債の買い入れを増やしてほしい」と述べるなど、 政府首脳が表立って金融緩和を要求。これを受けて、日銀が同月28日の 決定会合で長期国債買い入れを増額するとの報道が相次いだ。

同会合では情勢判断については、植田和男審議委員が「金融経済情 勢にそれほど大きな変化はない」としながらも、「世界的にはやや明る い兆しが幾つか、あるいはそこそこ出てきている」と発言。田谷禎三審 議委員も「生産は底打ち時期を探る展開になっている」と述べるなど、 一部で明るさが見え始めているとの認識が示された。

大半の委員が「必要でない」

そうした情勢判断の下、政策判断については、当座預金残高目標を 据え置きつつ、一時的に資金需要が高まる年度末をにらんで「一層潤沢 な資金供給を行う」ことで一致。議論が集中したのは、現在と同様、資 金供給オペで応札額が提示額に達しない札割れが頻発する中で、月8000 億円の長期国債の買い入れを増額すべきか否か、仮に増額するとすれ ば、どのような理屈付けを行うか、という点だった。

量的緩和政策の下での長期国債の買い入れの位置付けは、01年3 月19日の公表文によると、「当座預金を円滑に供給する上で必要と判断 される場合」に限られる。その必要性について、藤原作弥副総裁が「札 割れが発生していると言っても、かなり高い当座預金残高が維持できて いる点に着目すると、長期オペの増額は必ずしも必要でない」と述べる など、ほとんどの委員が懐疑的な見方を示した。

しかし、その藤原副総裁が「政府のデフレ策との関係も意識」し て、「私自身はここで潤沢な資金供給ということをアピールするために は増額しても良いかなと思っている」と発言。田谷委員も「政府がデフ レ対策を策定し、金融政策面での協調を要請されているこのタイミング で実施することが良いのではないか」と述べるなど、政治圧力の中で、 多くの委員が買い入れ増額はやむなし、という方向に傾いた。

「非常に不愉快」

問題はその理屈付けだった。中原真審議委員は「もしあえてここで 長期国債の買い切りを増やすとすれば、その買い切りの目的を、需給あ るいは金利に直接影響するという考え方に変える必要がある」と指摘。 山口泰副総裁は「あえて言えば、政府と中央銀行との協力関係を示すよ うな意味でのシンボルになってしまっているというようなことも事実と してあろうかと思う」と述べた。

須田美矢子審議委員は「私は理屈ではやる必要はないと思っている が、政治判断として政府の申し出のとおり長期国債買い切りオペを2000 億円増額することを甘受できないわけではない」とした上で、政府首脳 の発言は「ルール違反」であり、「非常に不愉快」と述べた。

植田委員は長期国債の買い入れ増額を行うための理屈として、①資 金供給を円滑にするため②長期金利の低下を狙う③政府その他の政策と の協調のシンボルとしての役割-を指摘。「もしやるとすれば、私はこ こは第1番目の理屈で、少なくとも公式には押していくしかないのでは ないかと思う。そうでないと大混乱になる」と述べた。

真意は10年後の議事録まで

長期金利の押し下げを目的とする買い入れは、日銀が現在行ってい る資産買い入れ等基金の下での長期国債買い入れと同じ考え方だ。山口 副総裁は「昨年3月来のフレームの中で過去2回オペの額を増額してき たが、振り返ってみると、8月それから12月と2回増額した後、10年債 の流通利回りはいずれも上昇した」と指摘。「長期金利引き下げの道具 として使うことはやはりできないだろう」と述べた。

山口副総裁はその上で「仮にこういうことを決めるのであれば、理 屈付けの点では植田委員が言われたように、期末に向けての流動性供給 を強化するための施策の一環として、という説明しかないと思う」と言 明。その上で、こうした自らの発言について「議事要旨で残したい部分 と議事録まで取っておきたい部分と両方ある」と語った。

中原真委員は「量的な調節のサポートという位置付けを変えるわけ にはいかないということだが、恐らく誰の心にもあるのは、現在のわが 国の厳しい状況の下で、政府・日銀一体となって、という政治的な判断 に基づく結果であっても、それほど大きな効果も量的な意味ではないだ ろうし、害もなかろうという程度だろう」と述べた。

日本の社会全体の未成熟

報道に対しても不満の声が集中した。藤原副総裁は「マスコミに誇 大に翻弄(ほんろう)されている感がある」と指摘。「こうなると、日 銀がオペを増額してもしなくても市場に悪影響を与えるリスクが高まっ てしまう」とした上で、報道の在り方に対して「日本の社会全体の未成 熟な度合いというものも感じてしまう」と述べた。

須田委員は「マスコミは『政府関係者が非常にストレートな形で日 本銀行に対して、長期国債オペ増額を要請した』と盛んに報道してい る」とした上で、「こうした中で仮に国債買い入れ増額に踏み切ると、 それは政治判断の結果とみられるのが自然である」と発言。中原真委員 は「メディアに踊らされた日銀あるいは金融政策決定会合というそしり も受けることを覚悟しなければならないだろう」と述べた。

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