財政破綻阻止へ2%インフレ、日銀法改正で義務付けを-岩田教授

学習院大学経済学部の岩田規久男教 授は、財政破綻の阻止には主要国で一般的な前年比2%のインフレを含 めた年率3%の名目成長率が不可欠だとみている。長年にわたり円高・ 株安・低成長を招いたデフレは金融政策だけで脱却可能だとし、過度の 独立性を付与した日銀法を改正してインフレ目標の達成を日本銀行に義 務付けるべきだと主張する。

日銀に批判的な言説で知られる岩田教授(69)は、財政再建は「名 目3%成長なら増税なしでもできる。デフレのままでは不可能だ」と言 明。財政の持続可能性を測る政府債務残高の対国内総生産(GDP)比 率に歯止めをかけるには、税収を増やす必要があると説明した。同教授 の試算によると、税収は名目成長率の2.9倍のペースで伸びる。また日 本国債の総合的な利回りは足元で約1.48%と推計。名目成長率が同水準 に届かないと、同比率が「青天井で上がってしまう」と警告した。

名目3%成長なら、野田佳彦内閣が2020年度の達成を目指す基礎的 財政収支(プライマリーバランス、PB)は、消費増税なしでも22年度 ごろに黒字化すると、岩田教授は試算。債務残高の対GDP比も18年度 に177%まで高まった後、やや低下し安定化するという。一方、名目 1%成長にとどまると、現在5%の消費税率を参院で審議中の法案通 り14年4月に8%、15年10月に10%へ引き上げても、PBの黒字化は40 年度頃まで実現できないと推計する。インタビューは19日に行った。

日本の公的債務残高はGDPの約2倍と主要国で最悪の状況だが、 長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは世界で2番目に低く、23 日には0.72%と約9年ぶりの水準に低下。円相場も最近3か月間に主 要10通貨で最も上昇した。衆院は先月26日、消費増税法案を可決。参院 で成立させ、計画通り実施できれば1997年4月以来となる。

金融政策だけで名目3%成長

政府の目標は「名目3%、実質2%」成長だが、岩田教授は日銀の 金融政策だけで「実質1%と2%のインフレで名目3%の成長軌道に乗 せられる」と主張。成長力をさらに高める成長戦略を担う政府との「役 割分担を明確化すべきだ」と話した。一方、日銀の白川方明総裁はデフ レ脱却には金融政策と成長力強化の両方が必要との見解だ。

岩田教授は日銀法の改正によるインフレ目標の導入が「不可避だ」 と主張する。主要国のインフレ目標では最終的な目標設定権は政府にあ り、達成を義務付けられた中央銀行は手段についての独立性を有すると 指摘。両方を事実上併せ持つ「日銀ほど独立性の強い中銀はない」にも かかわらず、新日銀法が施行された1998年度以降、いまだにデフレを脱 却できていないと批判する。

具体的には、日銀に「最低2%、望ましいのは3-4%程度」を 「5-10年ではなく1年半-2年程度の『中期的』に達成するフレキシ ブルなインフレ目標を義務付けるべきだ」と提言。日本経済は「デフレ で痛めつけられた期間が相当長いので、最初は高めのインフレ率で元気 づけるリフレ政策」を採り、その後に2%程度に目標水準を変更するの が適切だと語った。

80年代以降の主要国より低いインフレ実績は日銀がもたらしたもの だと指摘。逆に高めのインフレ目標を掲げても、日銀の強い姿勢が伝わ れば物価予想は不安定化しないし、財政ファイナンス懸念も生じず、財 政再建の径路は保たれるとの見方を示した。

元凶はデフレ期待

岩田教授は長年の円高・株安、低成長と財政の悪化は全てデフレの せいだと分析。デフレの原因については「人間は予想で動くので自己実 現的にデフレになる」と語り、低すぎる予想インフレ率を挙げた。予想 インフレ率が低いので名目金利との差である予想実質金利が下がらず、 通貨の購買力が目減りしないため、企業や家計が投資・消費に消極的に なると指摘。株式や不動産、外貨建て資産への投資も進まず、長期的な 円高をもたらすと説明した。

投資家や企業、家計の「予想インフレ率をコントロールできるのは 金融政策」だと、岩田教授は強調。中銀が実現に強くコミット(約束) し、金融機関への資金供給量を示すマネタリーベースを果敢に操作する 必要があると語った。マネタリーベースと予想インフレ率には明確な相 関関係があり、日本でも日銀が不十分ながらもデフレ脱却への姿勢を強 めた2月以降、予想インフレ率は上昇したと指摘した。

日銀は2月、消費者物価の上昇率で「当面1%」とする「中長期的 な物価安定のめど」を導入。達成の見通しが立つまで、実質ゼロ金利と 資産買い入れ等によって強力に金融緩和を推進するとした。白川方明総 裁は、14年度にも1%に達するとの見解だ。ただ、達成後の目標水準な どは不明。一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は1月、前年比2% のインフレ目標を初めて導入した。