【コラム】変貌するゴールドマンと不変のメディア-コーハン

ここ3年間メディアでこれ以上ない ほどたたかれてきた米ゴールドマン・サックス・グループを取り巻く環 境が最近好転してきた。

これはゴールドマンのコミュニケーション責任者に就任したジェイ ク・シーベルト氏のメディア戦略の貢献が大きいのだが、ブランクファ イン最高経営責任者(CEO)のソフトな一面が知られるようになった ためでもある。同CEOは最近、テレビや新聞のインタビューに応じる ほか、シカゴ・クラブなどでも講演。オンラインメディアのポリティコ に論説記事を寄稿しただけではなく、金融規制改革法(ドッド・フラン ク法)を大方支持する姿勢を示し、「われわれには少し秘密主義的なと ころがあり、それは問題だった」と認めさえもした。

新生ゴールドマンの誕生と同時に、注目の対象はようやく同業者に 移ることになった。米銀JPモルガン・チェースが60億ドル(約4700億 円)のトレーディング損失を被った問題や、英銀バークレイズのロンド ン銀行間取引金利(LIBOR)の不正操作疑惑、それから英銀 HSBCホールディングスがテロリストやマネーロンダリング(資金洗 浄)への支援を指摘されるという、とりわけ悪質な問題も起こった。

多少の批判はあるとしても、ゴールドマンが多額のトレーディング 損失を出すことはめったにないし、LIBORのレートを提示する銀行 であったこともなく、テロリストに対するマネーロンダリングを疑われ たこともない。

NYタイムズ紙の記事

だからこそ、14日付の米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)の記 事は不可解に思える。同紙は突如、企業の売却をめぐりゴールドマンの M&A(合併と買収)担当者4人が行った助言、もしくは十分な助言を 行わなかったとみられることを批判する内容の記事を掲載した。記事 は、音声認識ソフトウェア会社のドラゴン・システムズが12年前、5 億8000万ドルでベルギーのラーンアウト・アンド・ホースピー(L& H)に売却された経緯をめぐるものだ。

NYTのローレン・フェルドマン記者は、裁判所への提出書類を使 い、記事を詳細にわたり執筆。それによると、コンピューター音声認識 の開拓者であるジェームズ・ベーカー、ジャネット・ベーカー夫妻は、 ドラゴン・システムズの売却代金としてL&H株を受け取ったが、L& Hが不正会計問題で破綻したため、すべてを失った。フェルドマン記者 は、ベーカー夫妻が関係者に対して起こした訴訟を調べ上げ、電子メー ルや供述書、8000ページ以上に及ぶ証言資料などに目を通した結果、 「ゴールドマンや同行を囲む神秘的な雰囲気」に風穴を開けることがで きたと記述した。

だが、事実はそうではない。フェルドマン記者が「ゴールドマンの 4人組」に対して憂慮すべき事実を掘り起こしているのは確かだ。例え ば、リチャード・ウェーナー氏は売却の極めて重要な時期に2回休暇を 取った上に、後になってL&Hに関するデューデリジェンス(資産査 定)の「懸案事項」が、「自分が満足できるように」解決されていない と証言した。

誤解

だがこの記事の大部分は、買収でバンカーが担う役割や、ベーカー 夫妻をめぐる合意内容について誤解が見られる (フェルドマン記者とベ ーカー夫妻の担当弁護士、アラン・コルター氏にこのコラムの執筆で取 材を試みたが、両氏ともコメントを控えた)。

ドラゴン・システムズの株主が、売却代金を現金と株式の両方で受 け取るという提案を受けていたにもかかわらず、L&H株で受け取ると 決定したのは、ゴールドマンではなくドラゴン・システムズの取締役会 だった。また、ゴールドマンの助言に反し、L&H株をヘッジしない決 断をしたのはベーカー夫妻だった。

結局、NYTの記事は興味深い内容であるものの、多くの事実の中 から自分に都合の良い事実だけを取り出したにすぎない。

確かに、ゴールドマン・サックスのような強力な組織の無謀あるい は倫理にもとる行為を批判するのは極めて重要なことだ。私が2007年の 著書で指摘したように、ゴールドマンが自己勘定取引で住宅ローン市場 の下落に賭ける一方で、世界中の投資家に住宅ローン担保証券 (MBS)の額面での販売を続けたのは、許されない行為だった。

だが、もうこれで十分だ。メディアは記事が面白くなるからといっ て、一方的にゴールドマンを攻撃し続けてはいけない。 (ウィリアム・D・コーハン)

(ウィリアム・D・コーハン氏は元バンカーで、「Money and Power: How Goldman Sachs Came to Rule the World(マネー・アン ド・パワー:ゴールドマンはどうやって世界の支配者になったか)」の 作者で、ブルームバーグ・ビューのコラムニストです。このコラムの内 容は同氏自身の見解です)

原題:Goldman Becomes the Scapegoat in Deal Gone Bad: William D. Cohan(抜粋)