北朝鮮の「ディズニー」の宴で現れた正恩氏の本性-ペセック

北朝鮮と米ウォルト・ディズニーの 間で起きたちょっとしたもめごとは、魔法のように不思議というほどの ことではない。

北朝鮮の金王朝にとってかつて「夢がかなう場所」へ侵入する試み は悪夢に終わった。2001年、金正恩第1書記の異母兄は東京ディズニー ランドを訪れるために成田空港から日本に入国しようとしたが、所持し ていたドミニカ共和国のパスポートと拙いスペイン語を不審に思った税 関職員に身柄を拘束された。昨年12月に死去した偉大なる領導者、金正 日氏にとってはこれが永遠の屈辱となる。

異母兄が日本入国を試みてから11年後、正恩氏は啓示を受けた。ミ ッキーマウスやクマのプーさんのホームグラウンドで会えないなら、首 都の平壌(ピョンヤン)に連れてきてしまおうと。今月6日、正恩氏の 側近たちは、「美女と野獣」や「ダンボ」の一場面が巨大スクリーンに 映し出される中で大好きなウォルト・ディズニーのキャラクターがステ ージでダンスを踊るのを観賞した。

この光景をテレビで見る限り、自問せずにはいられない。正恩氏は 本当に私たちが恐れるに足る人物なのだろうかと。

ある面ではそうだろう。それは北朝鮮の核兵器問題であり、底知れ ない人権問題、60年以上にわたる金王朝の常軌を逸した行動、指導力が 未知数の20代の正恩氏を平和ムードに退屈した策略家の軍人が取り巻い ているという事実があるからだ。ただ、北朝鮮に対する従来の考え方か らすると正恩氏の行動は父や祖父とはかなり異なる。これは世界で最も 奇妙な全体主義国家の変化の予兆かもしれない。

景気の悪化

ほとんどのメディア報道は登録商標を無断使用した北朝鮮に失望す るディズニー側の反応に焦点を絞っていたが、これはばかげている。同 社にとって問題の相手は北朝鮮ではなく、同国の後見役である中国であ り、知的財産権を侵害する産業だからだ。そしてもっと注意が払われる べきなのは、正恩氏が先代よりも大衆受けを狙っていることである。恐 らくこれは、景気の一段の悪化が背景にあるだろう。

イランと同様に北朝鮮は長年にわたり経済制裁を受けている。同国 による兵器輸出や通貨偽造の阻止に加え、高官らに忠誠を誓わせるため に贈るメルセデスベンツやロレックス、コニャックなどぜいたく品の流 れを絶つ取り組みは、ゆっくりだが確実に打撃を与えている。

日本の毎日新聞は4月、正恩氏が1月下旬に朝鮮労働党幹部らに対 し、資本主義の議論を容認したとリークされた資料を基に報道。中国の 手段でも日本でもロシアでも、経済改革で使える手段があれば取り入れ るようにと正恩氏は指示したと党幹部は語ったという。

これは脱北したバンカー、チェ・セウン氏の見方と一致する。北朝 鮮の銀行で長年要職を務めた同氏は、脅迫と挑発で国際社会から食糧や 金融支援を引き出してきた同国の統制経済を正恩氏が緩める可能性があ るとみている。単なる憶測にすぎないが、正恩氏が北京の高官から支援 を引き出すのと同じくらい、中国の成功から学ぶことに関心があること を示しているかもしれない。

考えられない透明性

韓国メディアは先週、北朝鮮は時代遅れの産業を立て直して「世界 のトレンド」に追いつかなければならないと正恩氏が発言したと伝え た。これは北朝鮮の指導理念である「チュチェ(主体)」思想からの転 換だ。

この他にも面白いことがあった。ミサイル発射が失敗に終わった4 月、北朝鮮が事実を認めたことだ。国際社会にうそをつかず、成功した と言い張らなかった。それ以前も、ミサイル発射を報道できるように外 国人ジャーナリストのグループをバスで発射場に連れて行くなど異例の 対応をしていた。ここまで透明性を打ち出すことは正日体制では考えら れなかったことだろう。

正恩氏のディズニーとの確執を北朝鮮ならではの行動と片付ける者 もいるだろう。故ウォルト・ディズニー氏は共産主義への嫌悪感を露骨 にあらわにしていたが、本当のところディズニーに夢中になる北朝鮮と は一体何なのであろうか。恐らく北朝鮮はディズニーランドのようにフ ァンタジーの世界なのだろう。ただそこには魔法や幸せな結末はないの だが。

ちょっとした仕草

正恩氏が近い将来、北朝鮮にとって3度目の核実験に踏み切る可能 性はある。良くも悪くも同氏を取り巻いているのは、国際社会に力を誇 示したくてうずうずしている精神構造を持つ冷戦時代の軍首脳たちであ り、彼らの忠誠を勝ち得ることがなお必要である。

大きな変化はちょっとした仕草から始まるものだ。正恩氏が父のよ うに米国を大悪魔と見ているなら、米国文化の最も派手な象徴をカメラ の前で披露するだろうか。正日氏はハリウッド映画のクラシック作品で あふれたDVDライブラリーを持っていたが、西洋文化を公に礼賛する ことはなかった。正恩氏がマクドナルドの「ビッグマック」やスターバ ックスの「フラペチーノ」を大切なゲストにふるまっていたとしてもお かしくはない。

スイスで教育を受け、米プロバスケットボールの元スーパースタ ー、マイケル・ジョーダンのファンであるこの人物は、サブリミナル (潜在意識の)効果というべきほどではないものの、何らかのメッセー ジを送っているのかもしれない。正恩氏は人々が想像するような大した ことのないミッキー・マウス張りの指導者ではない可能性がある。 (ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ぺセック氏はブルームバーグ・ビューのコラムニス トです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

原題:Disney Party Shows Kim Is No Mickey Mouse Tyrant: William Pesek(抜粋)