妻を亡くした市長が復興の旗を振る-日本再生のモデルになるか

東北の太平洋側に多い起伏の激しい リアス式海岸に臨む岩手県陸前高田市。昨年の東日本大震災の大津波で 人口約2万4000人のうち約1700人の犠牲者を出した同市は、それ以前か ら衰退の道をたどっていた。

残った市民の約3分の2が住まいを失う中、戸羽太市長は復興の可 能性に疑問を覚えたという。インフラや経済への打撃を見て住民が市外 に仕事を探しに出て行かざるを得なくなるとの不安からだ。ブルームバ ーグ・マーケッツ誌8月号が報じた。

それから1年4カ月が経過した今、陸前高田市は戸羽市長の言う地 域を再投資する方法で再建を目指している。これは先進国で最も急速に 進行する高齢化や中国や韓国に奪われた製造業の競争力、輸入化石燃料 への依存という日本経済を20年余り苦しめてきた障害を克服するモデル になる方法だという。

陸前高田市はいわゆるエコシティーを創造する政府プログラムに参 画している。農業や漁業の衰退で失われた雇用を再生可能エネルギー分 野で新たに創出し、技術活用によるコスト低減を図り、よりコンパクト で自給自足できる社会を目指す。

日本は農村部の過疎化に対処しなければならないと同市長は言う。 過疎化に伴って日本の農業は経済に占める割合が1970年代の約6%から 現在では1.4%に低下している。時間との競争であり、できるだけ早く 手を打たなくてはならないと市長は指摘する。

クリーンエネルギー

沿岸部にあった病院の4階まで達した大津波の後、陸前高田市は隣 接する大船渡市と住田町と連携し、政府の環境未来都市構想のモデル都 市に指定された。この構想は環境保護とクリーンエネルギー利用を促進 する都市開発の計画を策定するもので、年間で約10億円の予算を持つ。

気仙広域環境未来都市構想の目標は、域内の電力の5割以上を太陽 光など再生可能エネルギーで発電し、気仙地域の東北電力へのほぼ全面 的な依存を減らすとともに、地域住民6万7000人の電力コストを引き下 げることだ。

その実現を左右するのは、政府の19兆円の復興予算から気仙地域に どれだけ配分されるかだと言うのはプロジェクト・マネジメント会社イ ンデックス・コンサルティングの植村公一社長だ。代替エネルギーへの 補助金も重要だ。どんなものが建設されようが、それが新たなビジネス をもたらし持続可能であることが大切だという植村氏は、従来あったイ ンフラを再建することだけに注力すれば、新しい道路や建物ができても 誰も住まない地域になると警告する。

脱原発の機運

気仙地域の再生構想は今の日本の脱原発の機運にぴたりとはま る。2011年3月の大津波で福島第一原子力発電所が被災し、放射性物質 が拡散。朝日新聞の世論調査では、日本の原子力発電を段階的に減らし 将来はやめることに74%が賛成と答えている。

ただ、エネルギー不足に陥れば景気を悪化させかねない。資源の乏 しい日本にとって原子力は1960年代以降の経済計画の要として位置付け られ、第2次大戦後の日本の復興を支えたトヨタ自動車やソニーといっ た大企業に電力を供給してきた。東日本大震災以前には原子力へのエネ ルギー依存度は30%に達していたが、今年5月5日には全国で唯一稼動 していた北海道電力の泊原発3号機が定期検査で停止したことでゼロと なった。

野田佳彦首相は6月16日、経済の活性化に必要だとして関西電力の 大飯原発3、4号機の再稼働を承認したが、それでも長期的な政策は原 発依存度の低減と、風力や太陽光など再生可能エネルギーへのシフトで あることには変わりはない。

これは新興エネルギー企業にとっても気仙地域のようなスマートシ ティー構想にとっても朗報だ。こうした新興企業を支援するため、政府 は向こう20年にわたり電力事業者に再生可能エネルギーをより高い価格 で買い取りを義務付ける固定価格買取制度を導入している。

財産

立教大学のアンドリュー・デウィット教授は、スマートシティー構 想で農村部衰退の流れの逆転につながり得ると言う。土地を再生可能エ ネルギー向けに転換するプランには経済的な合理性がある。

大津波で海水に浸った水田は、農地として再生されるよりもソーラ ーパネルを設置して発電した方がより多くの利益を生む可能性がある。 これは日本で2番目の富豪である孫正義氏が福島第一原発周辺の放射能 に汚染された農地を使って進めようとしていることだ。ソフトバンクの 最高経営責任者(CEO)でもある孫氏は、約4万8600世帯の電力使用 量に匹敵する200メガワット強を発電するソーラー発電所を全国に建設 する計画を意欲的に推進している。

陸前高田市の戸羽市長にとって、再生は個人的な関わりもある。大 津波が市を襲ったとき、自身は市役所で、子ども2人は学校で生き延び たが、妻は自宅で津波にのみ込まれて死亡した。

陸前高田市の再生こそ、震災で犠牲になった人々の思いを受け継い でいくのにふさわしい財産になろう。住宅を再建しても人々に仕事を提 供しなければ暮らしは良くならないと言う戸羽市長。住宅を再建する以 上のことを実行する必要があると意気込みを見せた。

--取材協力:Kanoko Matsuyama.

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