息吹き返す財務省パワー、首相ら大臣OBが旗振り-消費増税

野田佳彦首相が政権の最優先課題に 掲げる消費税増税は民主、自民、公明の主要3政党の合意で衆院を通過 し、9月8日までの今国会中で成立する公算が高まっている。民主党は 小沢一郎元代表らの集団離党で分裂したが、そうした代償を払ってもな お増税に執念を燃やす首相の背後に、財務省の影響を指摘する有識者や 政治家もいる。

「これから参議院で審議をしてもらうことになるが、これまで以上 に政府、与党が一体となって一日も早く成立させること、そのことをも って責任を果たしていきたい」-。野田首相は9日の衆院予算委員会で 消費増税を柱とする社会保障・税一体改革関連法案の早期成立にあらた めて決意を示した。

増税法案に反対した小沢氏らは「増税の前にやるべきことがある」 と指摘。民主党を離れ、11日に反増税を掲げた新党を結成する。小沢氏 は2日に発表した民主党離党声明で民主、自民、公明の3党を「官僚の 言うがまま」に増税先行を押し通そうとしていると批判した。

財務省出身の高橋洋一嘉悦大学教授は増税の必要性を説く首相の言 動について、「財務省は『増税を避ける政治家は逃げている政治家で、 誠実ではない』と政治家によく言うが、野田首相はそれをまともに受け ているのではないか」と分析。みんなの党の江田憲司幹事長も3月に出 版した「財務省のマインドコントロール」(幻冬舎)で、野田政権は 「財務省支配政権」と断言する。

これに対し、野田首相は6月11日、衆院の一体改革に関する特別委 員会での江田氏との質疑で「何で私がそんなコントロールにかからなけ ればいけないのか。それは全く根拠のない話だというふうに思ってい る」と反論する。

政治主導

09年夏の衆院選の結果、政治主導を掲げて自民党から政権を奪取し た民主党。最初の鳩山由紀夫政権は増税論議を封印したが、その鳩山氏 の辞任で財務相から首相に就任した菅直人前首相は消費増税の必要性を 主張した。11年1月の内閣改造で自民党時代に消費増税の具体的な提言 をまとめた与謝野馨元財務相を一体改革担当相に起用して議論を開始。 野田政権がこれを法案として結実させた。

なぜ民主党は増税路線に転換したのか。高橋氏は菅前首相、野田首 相が財務相を経験したことが政策の変質につながったと指摘する。「財 務相になるとかなりの人は籠絡(ろうらく)される。自分の信念がない と秘書官が朝から晩までずっと隣にいて、財務省の考え方に洗脳され、 マインドコントロールされるようになる」という見立てだ。

菅前首相のグループに所属する津村啓介元内閣府政務官は民主党内 の消費増税論議は「財務省の官僚にどうこうというよりは、菅前首相が 財務相時代に国際政治の場で欧州危機が非常に深刻に議論されているこ とに強い印象を受けたこと」がきっかけと説明する。

津村氏は、菅前首相が10年の参院選で消費増税に言及したことにつ いても「財務省からすればちょっとやりすぎだと思うので、逆に言えば 菅前首相の独自の判断だった」と強調する。

これに対し、民主党の結党時からのメンバーである小沢鋭仁元環境 相は、菅、野田両氏が「財務省に行くまでは『消費税アップをしなけれ ばいけない』といった話は一回も聞いたことがない」と指摘する。

小沢元環境相は財務官僚について「本当にまじめで頭もいいけれど 一言で言うと視野が狭い。自分の仕事の範囲内でしかものを考えられな い」と述べ、「財政再建至上主義」に陥っているとの認識も示した。消 費増税は「全体の経済政策の中の一つとして考えていかないといけな い」と問題提起している。

谷垣氏

増税法案の採決に棄権した民主党の宮崎岳志衆院議員は「3党協議 は大蔵省の同窓会」と揶揄(やゆ)するが、3党合意には民主党の藤井 裕久元財務相、自民党の宮沢洋一参院議員、加藤勝信衆院議員、衆院特 別委理事の伊吹文明元財務相ら大蔵官僚から政界に転じた議員が重要な 役割を担った。

さらに、自民党の谷垣禎一総裁が小泉政権下で03年から06年にかけ て約3年間も財務相を務め、消費増税の必要性を当時から唱えていた 「財政再建派」だったことも増税論議の前進につながっている。谷垣氏 は「ポスト小泉」を争う06年の自民党総裁選に立候補。消費税率の10% への引き上げを掲げていた。

谷垣氏は9日の衆院予算委員会で、自民党が3党合意に加わった理 由として日本の厳しい財政状況や社会保障制度を安定させることに加 え、「国際的な金融情勢、財政状況の中で日本の政治も財政規律に対し てはきちんとやっていくんだというメッセージも出す必要がある。これ は野田首相とも共通の認識だと思う」と説明した。

日本に消費税が導入されたのは竹下登政権下の1989年4月。当初は 3%でスタートしたが、橋本龍太郎政権の97年4月に5%へ引き上げら れた。増税法案が成立して計画通りに実行されれば、2014年4月に 8%、15年10月に10%へと段階的に引き上げられることになる。